15
休憩中、案の定通路から巨大ネズミがのっそりと姿を見せた。
もちろんロウ君の『気配探知』でわかっていたのでルー君が瞬殺してくれた。
もうちょっとルー君を休ませてあげたいとも思うんだけど、本人はかなり元気だ。
私の方もこの休憩で大分落ち着いてきた。
ルー君に使った中級ポーションは半分くらい中身を使っているが傷の跡も残さず綺麗に治してしまっている。つまりは最低あと1回は同じレベルの傷も完治させることが出来るということだ。
ルー君が怪我をすることは考えるだけでも嫌だけど、いつまでも一撃で燃やしつくせるとは限らない。なんとかしなければいけない……。
でもどうしたらいいのだろうか……。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
休憩を切り上げて入ってきた通路とは反対方向の通路を進む。
気配は感じられず、相変わらずこちらの方の通路には罠は発見できない。
通路は少し進むと右手側に部屋があった。
「ま、また宝箱……」
「きゅ!」
「ホォ~」
先ほど宝箱で酷い目にあったばかりなのでどうしても警戒してしまう。
でも中身を考えるとスルーという選択肢を取るのも難しい。
部屋はミミックが居た先ほどの部屋よりは大分小さい。
宝箱以外には何もなく、通路すら一箇所にしかないどん詰まりだ。
「今度の宝箱からは気配も罠も感じない……。でもどうなんだろう?」
「きゅ~? きゅきゅ! きゅぃ!」
「ホホ~ホ? ホォ~」
「きゅきゅぃ!」
「ホォ~ホホ」
部屋に入る前の通路で不安になって私がそう呟けばルー君とロウ君がなにやらまた会話をかわしている。
私にはわからない2人のやりとりはすぐに終わったけれどどうなったのだろう?
「えっと、どうする?」
「きゅ!」
「ホォ!」
私の問いに2人は声を合わせて同時に答えてからルー君がぴょん、と部屋に軽やかに跳躍して入った。
どうやらスルーという選択肢は完全に消滅してしまったようだ。
「……わかった。でもルー君、気をつけてね?」
「きゅ!」
気配も罠も感じないので大丈夫だとは思うけれど、じりじり、と宝箱に近づいていく。
私も何ができるかはわからないけれど一応銅の短剣を構えて近づいていく。
じっくり時間をかけて油断しないようにして近づいたけれど……宝箱が襲ってくる事はなかった。
短剣で突っついてさらに蓋の隙間から刃を突き入れたりして確認したけれど、問題ないようだ。
「……なんだろう、コレ」
「きゅぅ?」
「ホォ~?」
宝箱の中に入っていたのは紙切れだった。
ちなみに書いてあった文字はまったく読めない。
象形文字のように見えるけれど意味はまったくわからなかった。
一通り目を通して見たけれど結局何もわからなかった。
でも一応宝箱から出てきたアイテムだから何かに使えるのだろう、と鞄に仕舞おうとしたときにポーン、といつぞや聞いた電子音が鳴り響いた。
ついで出現したのはやはりあの『ルール一覧』が書かれていたモノと同じもの。
つまりは……『システムメッセージ』だ。
「『声援魔法』……?」
『システムメッセージ』には『声援魔法の適性を取得しました』と書かれていた。
『使い魔使役』の適性を取得した時と同じだから、恐らくカタログから取得できるのだろう。
でも『声援魔法』って何?
何にせよ一先ずはカタログを開いて確認してみる。
……やっぱり取得できるようになっている。
でも『消費魔力』は1000。ずいぶん高い。これでLv1だというのだから高いと思う。
他の魔法は半分以下の400で取得できるのに。
まぁでも適性無しだけどね。
「ルー君、ロウ君。どうやら私、魔法が使えるようになるみたいなんだけど……」
「きゅきゅ!」
「ホホホォ!」
「……うん、喜んでくれるのは嬉しいんだけど……よくわからない魔法なのよ……」
正直『声援魔法』なんて知らない。
ゲームや小説でも聞いたことない魔法だけど……たぶん応援する魔法なんだろう。字的に。
せめて解説が欲しい……。
「どうしよう……。取ったらたぶんわかるとは思うんだけど……1000は高いなぁ……」
「きゅ~きゅぃ!」
「ホォ~ホホ!」
役に立つかも怪しいモノに1000払うくらいならポーションの1つでも取得した方がいいと思う。
ついさっきルー君が怪我をするという大事件があったわけだし、回復手段はたくさんあったほうがいい。
『魔力総量』はまだ3200以上あるとはいえ、無駄遣いは出来ない。
ウサギもネズミも20しか魔力をくれないのだから取り戻すのには結構時間がかかる。
それでもルー君とロウ君は取得するのに反対する気はないみたい。むしろ応援してくれているようだ。
……そうだよね。今でも何も出来ていない私がもしかしたら多少は役に立つ事が出来るかもしれないんだから……取るべきだよね。
ルー君とロウ君は私が役立たずだ、なんて思ってないかもしれないだろうけど、私は2人の足を引っ張っていることを自覚している。
「……よし! えいやっ!」
ルー君とロウ君の2人に後押ししてもらって、勢いそのままに取得してみた。
……役立たずよりはマシになれるように祈りながら。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
流れ込んできた情報から『声援魔法』は対象に声を送る魔法だとわかった。
つまりは声が届かないと効果がない。逆に言えば声が届けば効果がある。
「えっと……Lv1で使えるのは……『スピード』」
「きゅ!?」
「ホォ!?」
「えっと……どうかな?」
『声援魔法』を取得した時に流れ込んできた情報の通りに使ってみると、ルー君とロウ君の2人に届いた私の声が彼らに魔法をかける。
2人とも初めて受けた魔法にびっくりしていたけど、害があるものではないどころか己に利する力だと瞬時に理解してくれた。
『スピード』は『声援魔法Lv1』で使える魔法で声の届く範囲の味方の素早さを上げる事が出来る。
逆に『敵』には素早さを下げる効果がある。でも一定確率でレジストされるみたい。
味方には確実に効果があるけれど、『敵』には一定確率。まぁ理解できる。
「でも声が届くなら敵味方全てに効果を及ぼすなんて……。結構すごい魔法?」
「きゅきゅぃ!」
「ホホホホォ!」
2人にも絶賛してもらえている。
問題はどのくらい『敵』に効くかということだけど……。ルー君とロウ君の2人には確実にプラス効果があるんだから一先ずは置いておこう。
『敵』もルー君に瞬殺されるんだし。
ちなみに……自分には効果がない。声は届いてるのになんか理不尽だ。
……まぁ私は非戦闘員だし、支援が出来るだけでも役立たず卒業なんだからいいだろう。
「……よし、じゃあ先に進もっか」
「きゅい!」
「ホォ!」
普段よりもずっと俊敏に動けるようになったルー君が空中で2回転して華麗に着地を決める。
『声援魔法』すごいかも。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
通路を進みながら『声援魔法』の使いどころを考える。
現状では『敵』は瞬殺。
ミミックとかの強敵相手に使うのがいいんだろう。でもそんなにミミックが出てこられても、正直困る。
一先ず『敵』への効果は期待しないでおいた方がいいだろう。かかったらラッキー程度で。ルー君への補助として考えておこう。
『スピード』の効果でルー君の素早さが増しているおかげでルー君はどうにも興奮気味だ。
ロウ君にもかかっているけれどこちらはマイペースで私の肩に留まったまま羽を毛繕いしている。
「あ……。わぁルー君すご」
「きゅ~きゅきゅ~」
素早さがましてご機嫌のルー君が壁を走って天井で三角飛びをして反対側の壁に綺麗に着地している。
通路を走っていかれるとさすがに私達が困ってしまうので、ルー君は壁で試しているようだ。
ルー君の運動能力は元々すごいけれど、『スピード』でそのすごさがかなり増している、と思う。
『スピード』なしで壁走りが出来るのかどうかはわからないけれど、今までやっていなかったしたぶん無理なんだろう。
満足したのかルー君が壁走りをやめて普通に歩き始めてくれた。
部屋を出て通路を進めばすぐT字路にぶつかった。
脳内の拙いマップによれば右側は彫像のあった大部屋に繋がっていると思う。進むなら左だろう。
「右は彫像のあった部屋だと思うから、左でいいかな?」
「きゅい!」
「ホォ!」
2人も同じ意見のようなので左の通路を進む。
そこそこ長い通路を進んでいるとルー君とロウ君が揃って声をあげて首を傾げている。
「あ、『声援魔法』の効果が切れたのかな?」
「きゅ~きゅぃ」
「ホホォ~ホォ」
効果時間は大体10分くらいだろうか。
戦闘が長引けば掛けなおしも必要だと思うけど、今まで10分以上長く戦うなんて大蛇ですらなかった事だ。
どうなのだろう。どうにもわからない。
でもそんなに長く戦う事になったらルー君が怪我を負ってしまう可能性が高くなってしまう。
なるべくなら戦闘は短時間で決着がついてほしい。もちろんルー君が無傷で勝利するという事が絶対条件だ。
でも現実はそんなに優しくない。ミミックでものすごく思い知った。
私に何が出来るだろうか。
『声援魔法』で役立たずからは脱却できたと思う。
でもそれだけだ。
もっとルー君の役に立てるような何かを手に入れないといけない。
「……頑張ろう」
「……きゅ? きゅぃ!」
「ホホォ!」
先頭を歩くルー君が振り返って首を傾げるけれどすぐに頼もしい鳴き声で応えてくれる。
ロウ君も片翼を広げて首をくりくり動かしている。
2人とも超絶可愛い……うん、元気出た。頑張ろう!
声援魔法、ゲットだぜ!
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