12
部屋にある1本だけの通路を確認しながら進む。
ロウ君を肩に乗せているので『気配探知』はずっと発動している。少し前で揺れる3本の尻尾を見なくてもはっきりと感じることが出来るけど、ついつい見ちゃうのは仕方ない事だと思う。
でもちゃんと罠がないか足元は見てるから大丈夫……だいじょぶだよ?
通路はすぐに右に曲がっているようで角になっている。
『気配探知』で何もいないことがわかっているけど、念のために手鏡で確認してから行く事にした。
「……うん。いないね……でも……」
「きゅぅ」
「ホォ~」
『敵』はいないようだけど……通路の先が見えなかった。
こんなに長い通路は初めてだ。
挟み撃ちを受けた通路も、大蛇のいた部屋までの通路も長かったけど……比べ物にならない。
手鏡越しだったから実際は先も見えるのかもしれないけど……。ちょっと実際に見るのが怖い……。
「きゅぅ?」
いつまでも動かない私にルー君が痺れを切らせて私の足をたしたし、と叩いてくる。
ごめんね、ちょっとまって……ちょっとだけ……。
深呼吸を1回して心を落ちつける。ちょっと長いだけの通路よ。問題ない問題ない。
「ごめんね。お待たせ。さぁ行こう」
「きゅ!」
「ホォ!」
元気いっぱいの2人がいれば私は大丈夫。
角から顔を出して先を確認すると……手鏡越しに見たのは真実で、やっぱり凄まじく長い通路があった。
でも一応先は見える。すごく遠いけど。
「……遠いねぇ」
「きゅぅ~」
「ホォ~」
ちょっとうんざりしている私とは違ってルー君とロウ君はそんなことないみたい。
こうも長いと挟み撃ちされてもすぐわかるだろうけど……。
とにかく進むと決めたのだから1歩を踏み出す……とそこで気づいた。
「……何アレ」
「きゅ?」
角を曲がった通路の少し先に色が違う場所がある。
床は石造りのタイルが不規則に並んでいて、そのうちの1箇所だけが色が違う。今までこんなことはなかった。
「ルー君、あそこ……なんだか色が違わない?」
「きゅ? ……きゅぅ?」
なんだろう、ルー君にはわからないみたい。
でもはっきりと色が違うんだけど……。
「ホォ! ホホォホォ!」
「きゅ? きゅきゅきゅい!」
何やらルー君とロウ君の間でやり取りが行われ……ルー君が納得したようだ。
……私にもわかるように話してよぉ。
「えっと……。ルー君、なんだかわからないけどわかった?」
「きゅ!」
どうやらわかったらしい。それでアレは何なの?
結局わかったのはルー君が納得したということだけ。色の違うタイルが何なのかはわからなかった。
「うーん……とにかく進もうか?」
わからないけど色が違うタイルは1枚だけ。通路はそこそこ広めなのでその1枚を無視して歩くのは問題ない。
先行するルー君も色の違うタイルの位置は伝えたので、触らないように離れて歩いていくので当然私も近寄らない。
……ルー君が近寄らないってことは……もしかしなくても?
「これ……罠?」
「きゅぃ」
「ホォ!」
どうやら当たりらしい。
って、これが罠なの!? こんなわかりやすいのが罠なんだ……。
「ホホォホォ」
「え? ……あ」
私のなんだか拍子抜けした顔に何かを伝えたいのか、ロウ君が肩から相変わらず音を立てずに飛び立つ。
するとさっきまで見えていた違う色のタイルが他のタイルの色と同じになってしまい、どこだったかわからなくなってしまった。
これは……。
「……これもロウ君の力……?」
「ホォ!」
「すごい……。気配だけじゃなくて罠もわかっちゃうなんて! ロウ君、すごい!」
ロウ君はなんと『気配探知』だけじゃなくて、『罠探知』まで使えるようだ。
ロウ君のスキルならルー君がわからなかったのも頷ける。あのやり取りは罠の事を教えていたんだね。
『気配探知』だけでもすごく有用なのに、『罠探知』まで使えるなんてロウ君がいればもう怖いものなしだね!
「きゅ!」
あ、もちろんルー君もだよ!
ルー君とロウ君が一緒に並んで私を上目遣いに見てくるので2人とも顎の下をこりこりしてあげる。
ロウ君は顎の下というよりは首というか、毛に覆われていてもこもこしているところをくすぐってあげたら喜んでくれた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
一頻り撫で回して堪能したら今度こそ出発。
ロウ君を肩に乗せれば罠の場所がまたはっきりと色違いで見えるようになり、触らないように離れたまま移動を開始する。
……それにしてもあの罠はどんな罠だったんだろう? 罠なんて初めてだからどんな罠があるのかまったくわからない。
定番ならやっぱり毒矢とか落とし穴とか? でもタイルの大きさはそんな大きくないから落とし穴だと落ちきる前になんとか出来るかも?
まぁ罠だとわかって触るなんて真似はしない。回避する事に越した事はないはずだし。
ロウ君の『罠探知』のおかげで足元の確認は今までより大分楽になった。
そろそろ、と進んでいたのがちょっとだけ早くなる程度には。
それにしてもこの通路は本当に長い。
大分進んだと思うけどまだまだかなり距離がある。
後ろを振り返ってみると曲がってきた角はずいぶん遠くにある。
「ホォ!」
「きゅ!」
「……え?」
ロウ君とルー君の声に振り返ると少し先の方に光の粒子が集まっているところだった。
『気配探知』には何も反応がないけど、それは明らかに異常な光景だ。
『敵』は倒すと光の粒子になる。その時の粒子と集まっている光の粒子は同じように見える。
ルー君も尻尾を逆立たせて警戒態勢だし、きっとあれは『敵』なんだろう。
でもルー君が攻撃をしていないところをみると……きっとアレはまだなりかけなんだ。
変身中のヒーローに攻撃できないのと一緒で、『敵』になっていない時には攻撃してもだめなんだと思う。それを本能でわかっているルー君は無駄なことはせず警戒しているんだ。
「変身中のヒーローって……」
「きゅ?」
「ホォ?」
的を射ているとは思うんだけど……もうちょっとなんていうかマシな考え方できなかったのかな……私……。
「きゅ!」
「わっ」
そんなことを思っていると『敵』のなりかけが、『敵』になった。
その証拠にロウ君の『気配探知』にはっきりとその存在が認識され、襲い掛かってきた。
私の知っているものよりもずいぶん大きな白い毛並みで、ずんぐりむっくりしたフォルム。
瞳は赤く、円らで愛らしい。
しかし開かれた口腔には本来あるはずの葉っぱを磨り潰すための歯と前歯ではなく、肉を突き刺し、切り裂くための牙が存在していた。
そして真っ赤な口腔よりもさらに赤い……紅い灯火が空中の巨大ウサギを一瞬で燃やし尽くした。
「……う、うさぎ……?」
「きゅ?」
「ホォ」
牙の生えたウサギって……どうなの……。
『敵』だし、2階なんだから普通は1階の『敵』より強くなるはずだから牙が生えてるくらいはありだと思うけど……。
「牙の生えたウサギって……微妙かも。それに……大きすぎ」
燃え尽きたウサギはもう光の粒子となっていなくなってしまったけれど、その大きさはルー君の4倍以上はあったと思う。大型犬よりも大きなサイズだ。
そんな巨大ウサギを一撃で倒してしまうルー君はやっぱりさすがだ。
でもコレで『敵』の出現方法? がわかった。
突然現れたり、どこかからポン、と出てくるわけじゃないみたい。
でも『気配探知』に反応するのは『敵』も動けるようになってからのようだし、後方の警戒は大事だ。いつの間にか光の粒子が集まって『敵』に襲われていた、じゃ話にならない。
これまで以上に後方の警戒はやっていこう。
前方はルー君に任せれば安心だしね。
あ、でもロウ君にも一緒に警戒してもらっておこう。私だけじゃ不安だし。
「ロウ君、後ろの警戒を一緒にやってくれる?」
「ホォ!」
「よろしくね。私も一緒にやるけど、頼りにしてるよ。
もちろん前はルー君!」
「きゅ!」
ちょこん、とお座りして待っていたルー君にも改めてお願いする。
胸を張って自信満々の2人は本当に頼もしい。
さぁ通路はまだまだ長い。
がんばろう!
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