11
最初は私だけ。
狐の使い魔――ルー君と出会って私は、私達――2人になった。
そして梟の使い魔――ロウ君が増えて、3人になった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ロウ君、これからよろしくね」
「ホォ!」
「きゅ!」
さっそく挨拶をすると、ルー君も挨拶がしたいらしく3本の尻尾をうねうねさせて上目遣いで見上げてきた。やだ可愛い!
もちろん否やはないし、ロウ君も同じ気持ちのようだった。彼の瞳も円らな瞳でとても可愛い。
ロウ君をルー君の側に降ろしてあげると先輩のルー君はロウ君に積極的に話しかけて、なにやらすぐに上下関係がはっきりしたみたい。というか2人の間では会話が成立しているらしい。『きゅ』と『ホォ』なのに。
……ちなみに私はなんとなくでしかわからない。
ルー君に頭を下げているロウ君はとても礼儀正しい。ルー君も後輩が出来て嬉しそうだ。
私の中では2人に上下なんてないんだけど……彼らの間では大切なことみたい。
挨拶も済んでロウ君が私の肩にふわっと飛んで着地する。まったく羽音がしなかった。さすがフクロウ。森のハンターの名は伊達じゃない。
でも驚く事はそれだけじゃなかった。ロウ君が私の肩に留まった瞬間からロウ君とルー君の存在がわかるようになった。
「こ、これ……なに……?」
「ホォ! ホホォ!」
ロウ君が私の肩の上で翼を片方だけ広げて何やら胸を張っているのがわかる。もしかしてこれは『気配』ってやつじゃないかな……?
「ホォ!」
「もしかしてこれってロウ君……?」
「ホホホォ!」
自慢げなロウ君の『気配』にコレがロウ君のスキル? なのがわかった。
「すごいよ、ロウ君! もしかしなくてもコレがあれば『敵』が近づいてきてもわかるのかな!?」
「ホォ!」
どうやら本当にわかるみたい。すごい! すごいよ、ロウ君!
胸を張って自信満々のロウ君。まるで自分の事の様に一緒に自信満々なルー君。2人ともとっても可愛い。
『気配』だけじゃ物足りなくて、そんな自慢げなロウ君が見たくて肩から優しく掴んで離す。
「あれ?」
するとさっきまではっきりと感じていた『気配』が突然わからなくなってしまった。目の前にいるロウ君は首を回して円らな瞳で見上げている。やだ……可愛い……。
「きゅっ!」
「……はっ! ち、違うのよ、ルー君! あ、でも違わなくて、えっと……」
「ホォ!」
「ろ、ロウ君!? ち、違うの! あの……その……」
「きゅきゅ!」
「ホホォ!」
「……ふ、2人して私をからかったのね! 酷いよもう!」
ルー君とロウ君のタッグにまんまとからかわれてしまった。
その後は少し色々と実験して見て、ロウ君が肩に留まっている状態なら『気配』を感じることが出来るのがわかった。見なくても『気配』があるもの――生き物?――なら色々な事がわかる。
ただコレ……。ロウ君が肩以外に留まると発動してくれない。左右どちらでもいいみたいだけど肩以外ではだめだった。
今いる広間は広いのでどこまで『気配』を感じられるのか実験もしてみたけど、大体……あ、私……目視で距離なんて測れないや。とにかく結構広い。うん、結構広い。
範囲が広いのがわかったのはいいんだけど、そのままルー君が1人で階段を下りようとしててびっくりした。
慌てて追いかけたけどルー君は階段の途中で待っててくれた。
ずっと広間にいるのもなんだか怖かったし、ちょうどいいので下に降りる事にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
長い階段を下りると上の階と同じような石造りで、相変わらずどこを探しても照明がないのに明るい部屋に辿りついた。
上の階のあの大蛇が居た広間よりは狭いけれど、他の部屋よりは格段に広い。
それでも部屋の広さは『気配探知』範囲内に収まるようで部屋の中に何もいない事はわかっている。階段の裏のスペースまでばっちりだ。
「安全だってわかるのはすごく助かるね! ロウ君様様!」
「ホォ!」
「きゅ!」
今まで目視や鏡で確認するしかなかっただけにロウ君の『気配探知』はすごく役に立つ。
ちなみにカタログにあったそれっぽいスキルが『気配探知』って名前だったので多分この名前で正解だ。
私の肩で翼を広げて胸を張っているロウ君は、手乗りサイズなので翼を大きく広げてもそれほど大きくない。でも羽はふかふかで気持ちいい。
「とりあえずいったんここでロウ君用の防具とか探して、ご飯も食べようか。
ロウ君のスキルがあれば敵が来てもすぐわかるよね?」
「ホォ!」
自信満々に頷くロウ君は非常に頼もしい。
ルー君よりも探知できる範囲は広いようで、ルー君も頼りにしているようだ。
部屋には階段と1つの通路しかない。
通路と階段から出来るだけ離れて隅っこを陣取る。これで『敵』が来ても多少は時間が稼げるんじゃないかな。その間にルー君が仕留めてくれる。プランは完璧だね!
スキルを維持するためにロウ君は私の肩に居てもらい、ルー君はいつものように脇の下から顔を出してカタログを一緒に眺める。
カタログを眺めている間も肩のロウ君と脇の下のルー君の気配をはっきりと感じる事が出来てなんだか変な気分。慣れるまでは大変かも。
カタログをぺらぺら捲っていくと……ロウ君用の防具はコートじゃなかった。
ルー君はコートで大丈夫だったけど、確かにフクロウのロウ君がコートを着たら飛べなくなる。だからなのか……足輪だった。
「足輪って……」
「ホォォ!」
「きゅぅ!」
何やらロウ君は大興奮だ。
そんなに足輪が気に入ったのだろうか。しきりに鳴いて急かして来る。
それに釣られてルー君もちょっと興奮気味だ。2人とも男の子だから防具とか武器とか好きなのかな?
「えっと……今は『魔力総量』が3361あるから『青銅の足輪』かな……。『消費魔力』も500だし」
「ホォ?」
「きゅい!」
「ホォ……」
「きゅきゅ!」
「……ホォ」
ロウ君は『青銅の足輪』と聞いてちょっと疑問に思ったようだ。
まぁ『魔力総量』も3361あるからね。その1つ上の『鉄の足輪』も取得できる。でも『消費魔力』は2000なのだ。
こっちを取得してしまうと……その……布団が取得できないのよ……。
私の思惑を察したのか、それとも自分が『消費魔力』500の硬皮のコートだからなのか、ルー君がロウ君を説得してくれた。不承不承といった感じだったけど了承してくれたようだ。
「えっと……。じゃあ『青銅の足輪』でいい?」
「ホォ」
念のため確認すると頷いてくれたのでさっそく取得してロウ君につけてみた。
『青銅の足輪』はロウ君が装備できるサイズの小さな足輪が片方だけだった。果たしてコレで本当に防具の意味があるのだろうか。
でも装着したロウ君はご満悦のご様子。さっきの不承不承な感じはどこへやらだ。
「じゃあご飯にしよっか。ロウ君は何が食べられるんだろう? ミミズとか?」
「ホォ!?」
「きゅ!?」
私のミミズ発言に2人とも驚いて何を言ってるんだ、という表情で見つめてくる。
……じょ、冗談だよ?
「えっと……どれがいい?」
「……ホォ……ホッ!」
「え……油揚げがいいの?」
「ホォ!」
「きゅぃ!」
フクロウって油揚げ食べるんだ……。てっきり肉食なのかと……。
まぁでもロウ君は使い魔だし、ちょっと変わっていても不思議じゃない。
ルー君と同じ物を食べるなら取得するのも楽でちょうどいいかな? でももし魔力が余るようなら何か料理でも作ってあげたいなぁ。
油揚げは残り9枚だったので、ルー君に3枚。ロウ君は様子を見ながらということでまず1枚食べさせて見た。
私の肩の上で器用に油揚げを食べるロウ君。片足で油揚げをしっかり掴んでくちばしでガツガツ食べている。
……真横だからちょっと怖い。可愛いロウ君でも鋭いくちばしでガツガツ、とやっているとちょっと怖いのよ……。
でも肩から動いちゃうと『気配探知』が切れちゃうし、しょうがない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
結局ロウ君は油揚げを2枚平らげ満足したようで、ルー君と合わせて1食油揚げ5枚が必要になることがわかった。これはケチれない。2人にはお腹いっぱい食べてもらわないとね。
逆に私はお腹が空かないから低燃費だ。1時間に魔力1減るだけだし。……あれ? でもルー君は3時間よりは長く時間を空けてから食べてると思うから私より低燃費だ。残念、私低燃費じゃなかった。
あ、でも『ルール一覧』には食事を取るとゆっくり魔力に還元するって書いてあったっけ。
そうなると魔力が減らなくなるのかな? それとも魔力は減るけど還元されて増えるのかな? まぁどっちでも一緒か。
問題なのはどのくらいの食事でどのくらい還元されるか、だ。
試しに油揚げを食べて見ようかな……。
「ルー君、ロウ君。私も油揚げ食べていい?」
「きゅ!」
「ホォ!」
「ありがとう、じゃあ1枚貰うね」
2人とも快諾してくれたので1枚食べて見る。至って普通の油揚げだ。なんていうかコレだけだとものすごく物足りない。
せめて汁物と合わせたい……。
食べながら魔力が変動しないかチェックする。
次の魔力が1減るタイミングがいつなのかわからないから1時間かけるつもりで待ってみる。
ここで寝るつもりはないけど、多少の休憩は必要だと思う。
大泣きして体力使ったしね……。
居眠りしないように注意しながら、ルー君とロウ君と戯れつつ、たまにカタログをチェックする。
たぶん30分もしないうちに魔力が1増えた。
どうやら油揚げが魔力に還元されたみたいだ。還元量は1。
10枚セットで『消費魔力』10だし、還元率100%だね! ……えぇわかってます。小数点以下がないみたいだからたぶん最低値として還元されたんでしょうよ。
もっと魔力がかかる食材を使わないと実験にならないかな。
どうせだから2人に何か作ってあげてついでに実験したらいっか。その為には『気配探知』が必要な危ない場所じゃなくて、上の階で拠点にしてたあの滝のある部屋みたいなところを探さないとね。
最悪、上の階に戻ればいいけど。
「さて、じゃあ2人とも。そろそろ行く?」
「きゅ!」
「ホォ!」
2人とも準備は万端のご様子。
極度の緊張や泣いて疲れたとはいえ、ルー君が起きるまでに休憩できたし、今さっきも30分くらいは休憩できた。
でも本格的に疲れてしまう前には戻るようにしないといけないから無理はできない。
それでも進むと決めたのだから、少しは進んでおかないとね!
気に入っていただけたら評価をして頂けると嬉しいです。
ご意見ご感想お待ちしております。




