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小さなレディ 13

それから数日後。

朝の仕事を終え、カルミナさまを迎えに行く。

これからいつものようにラルフ殿下の執務室で編み物をする予定だ。


(…あれ?)

カルミナさまのお部屋には誰もいない。

もしや先に執務室に行かれたのか。

最近ではラルフ殿下と会話することにすっかり慣れたカルミナさまは、お一人でラルフ殿下と対面してもまったく平気だ。


「ラルフ殿下、失礼いたします。こちらにカルミナさまはいらしてますか?」

執務室の扉を開け、部屋を見渡す。

(…いない…。)

平常どおり執務机で仕事をしている殿下と、傍にひかえるオーディンさんだけだ。

(なんかイヤな予感がする…)

「殿下、カルミナさまがどちらにおられるか、ご存知ではありませんか?」

殿下は書類から目を上げ、なんでもないことのように言った。

「チビなら、グリフィス兄上のところに行かせた」

「!!」


はじめての日以来、グリフィス殿下の部屋にはお連れしていない。

男性恐怖症が完全になおってからと思っていたのだ。

「無理やり行かせたんじゃない。“度胸がないのか”と言ったら、真っ赤な顔をして“そんなことありません!お会いしてきます!”と言ってすっ飛んでったぞ」

「それは殿下がそう仕向けたんでしょう!!まだグリフィス殿下にお会いするには早すぎます!」

「早すぎることはない」

激高する私に、低い声で静かに話しかけてきた。

席をたち、私の前までまわりこんでくる。


「情がうつったな、エレイン。お前はあのチビを一人前のレディに仕立てるんじゃなかったのか。いつまで甘やかして可愛がってるつもりだ。このままズルズルと真綿に包むように大事にしたって何も変わらないぞ」

「…!」

「それに、だ。あれを見ろ」

殿下が指し示す先には、手紙の束。結構な量だ。

「リデル侯爵からだ。娘はどんな様子だ、いつ帰れる、と毎日矢の催促だ。溺愛する娘に好きな男ができたことがよっぽどショックだったらしくてな、チビを義姉上に預けて以来、寝込んじまってる」

「…」

リデル侯爵のことを考えたことはなかった。

たしかに、可愛い一人娘を1人で王宮に送って、どんなに心配していることだろう。


「俺もできるだけ押しとどめていたんだが、もう限界だ。ヘロヘロの体をおして、明日娘を迎えにくるらしい。…タイムリミットだ」

「で、でも、カルミナさまをグリフィス殿下に会わせて、本当に大丈夫なのでしょうか…?」

殿下はニッと笑い、私の肩をポンと叩いた。

「大丈夫だ。信じろよ」

「わ…私…、様子を見てまいりますっ!!」

礼もそこそこに、執務室から飛び出した。



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