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小さなレディ 12

「そういうの、わかるわー」

ジーナがお菓子を頬張りながら言う。

仕事の合間を見つけて二人でお茶をしているのだ。

カルミナさまは騎士たちに差し入れをもっていっている。

ご一緒しようとしたら「一人で大丈夫!」と言われたのだ。

はじめて騎士たちのところに連れて行ってから数日たち、すっかり慣れたようだ。喜ぶべきことだが、少し寂しい。


「私も、友だちの子どもをみると可愛くてしかたなくなるわ。こういう可愛い子を授かって育てている人生と、私たちみたいに仕事をバリバリする人生の分かれ道って一体どこだったんだろうってたまに考える」

ジーナは私より2歳年上の28歳だ。お互い適齢期はとうに過ぎている。

「仕事は楽しいから後悔はしてないけどね。でもちっちゃい子を見かけるたびに、ああ可愛いなぁってしみじみ思う。これは年々強く感じるわね」

「そうね」


この切ない感情を感じるのが私だけじゃない、と知り少し安心した。

ジーナとはたまにこうしてお茶を飲みながら話す。

以前王宮に勤めていたときは仲のいい友だちはいなかったから、こうして同じ年頃の女性と話すのは新鮮で楽しい。


「エレインは固く考えすぎなのよ。気にせずにカルミナさまと仲良くすればいいの。…でも、そうするとなおさら別れが辛くなるか…」

ジーナの言葉に曖昧に頷く。

この件を引き受けたときは、ここまで感情移入するとは思わなかった。

「ね、子ども欲しくなっちゃった?」

ジーナが身をのりだしてくる。

「飛躍のしすぎよ。そういうのではないわ」

「お相手としてラルフ殿下は?口説かれてるんでしょ?」

ぎょっとして目をむく。

王宮中に話が広まってるのか?ジーナは笑って続けた。

「陛下とか王妃さまとか、上の方々は知らないと思うけどね。あなたとラルフ殿下を身近から見てればわかるわよ。で?どうなの?」

「どうって…。どうにもならないでしょ、王弟殿下とメイドなんて。ラルフ殿下だって本気じゃないわ。そのうち飽きて構わなくなるわよ」


“お手つき”になって愛人や側妾になるメイドもいることはいるが…、私にはとても無理だ。

かといって正式な妻になんて、考えるだけでも現実的な話ではない。

ジーナだって長いことメイドをしているし、私の性格も知っているんだから、無理な話だってことくらい察しているはずだ。

「そうかなぁ…。ラルフ殿下は本気っぽいけどな。母君がメイドだったんでしょう。身分差なんて気にしないでしょうしね」


(本気ならなおさら困るわよ)

毎日のように口説いてくるのを、流して流して流しまくっているのだ。


(…本気なら…本当に、困る…)


ラルフ殿下の本気も、自分の気持ちも、突き詰めて考えたくない。

黙り込んでしまった私に、ジーナは面白そうに言った。

「まぁエレインにその気がなくてもね。ラルフ殿下が押しまくってくるでしょうし。どうなるか、これから見ものだわ」

「面白がらないでよっ」


まったく…。



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