小さなレディ 11
グラスに火酒がみちる。一口含むと極上の旨味が口の中にひろがった。
「土産だ。辛口でお前好みだと思ってな」
女にしては珍しく、アルコール度数の高い辛口の酒が好きな私の好みを覚えていてくれ、時折こうして各地の地酒を買ってきてくれる。
ラルフ殿下の執務室で酒杯をかたむける。
机の上を見ると、書類がまだ置かれていて、仕事の途中だったことがわかる。
おそらくカルミナさまと私の様子を見に来てくれたのだろう。
「今日は騎士団の連中に会ったんだろ?」
「ええ。まだ少し緊張気味でしたが、じき慣れるでしょう」
殿下はくくっと口の中で笑う。
「あのチビは怖がりだが、度胸がある。俺にもポンポン言い返してくるしな。ただ男に慣れてないだけのようだから、そのうち順応するようになるだろう」
ラルフ殿下とカルミナさまは毎日のように言い合いをしている。
ラルフ殿下がからかうので、カルミナさまがムキになって向かっていくのだ。
グラスの酒をぐっと一息で飲み、私の目をのぞきこんだ。真剣な目だ。
「エレイン、お前、ずいぶん可愛がってるな」
「…」
「あれは他所の子どもだ。いずれ帰さなきゃならない」
「…はい」
「お前は一見とっつきにくくてクールにみえるが、いったん懐に入れた相手にはとことん甘くなるからな」
唇をかみしめる。
殿下は気づいていたのだ。私の気持ちを。
殿下はいつものニヤリとした笑いを浮かべ、軽く言った。
「妬けるな。そんな顔で俺のことも思ってくれよ」
「…もうっ!何をおっしゃってるんですかっ!」
少し声が震えたが、なんとかいつもどおりの返答をした。
殿下は笑って私の頭に手をポンと叩き、「気分転換にそのへんを歩いてくる。酒器はそのままでいいぞ」と言って執務室を出て行った。
(…もう…)
こういうところは本当にかなわない、と思う。
人の心を察するのに長けているのだ。
毎日カルミナさまをからかっているのも、早く男と普通に話せるようになるよう、わざとしているのだろう。
いつも軽い口調でからかってくるのに、真面目な話をするときは色めいた空気はいっさい出さない。
(そういうところは、好きだわ…)
触れられたところに、まだ手の感触が残っているような気がした。




