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小さなレディ 9

「この糸を向こう側にくぐらせて…そう。もう少し力を抜いて編み棒を持ちましょうね。ふんわりと編みあげるには大事なことです」

「こ、こうかしら…」

今日はカルミナさまに編み物をお教えしている。

私の部屋で見かけた編みかけのひざ掛けを見て興味津々になったのだ。

ぎこちなく編み棒を手にする姿はとても可愛らしい。


「おい。なんでここでやるんだ」

不機嫌そうなラルフ殿下の声が飛んでくる。

「あら。よろしいではありませんか。私も、ここでしたら殿下とカルミナさまの両方の様子を見ることができますし。お邪魔はいたしませんから、殿下は気になさらずご自分の仕事をなさって下さい」


ここはラルフ殿下の執務室。

部屋の隅に椅子を持ち込んで、カルミナさまと二人で編み物をしているのだ。

殿下とオーディンさんと同じ部屋にすることで、男性に少しでも慣れてもらおう、という考えである。


「男性に慣れる第一歩として殿下は適任です。ガサツで雑で男くさいラルフ殿下に親しむことができれば、その辺の男性は怖くなくなるでしょう?」

「俺はガサツで雑か」

ますます機嫌が悪くなる。

「…ひっく…!」

殿下の険しい顔に怯えて、カルミナさまがぶるぶる震えてべそをかきそうになる。

「カルミナさま、泣いてはいけません!」

カルミナさまの肩を抱いて、目を見つめて語りかける。

「女にとっての涙は最後の武器です。色仕掛けより強力な最強の切り札ですわ。どうでもいい男に簡単に見せていいものではありません!」

カルミナさまは私の言葉に、唇をキュッと結び涙をこらえて頷いた。

(~~なんてお可愛らしい!)

あまりに健気で愛らしい様子に思わずぎゅ~っと抱きしめていると、面白そうに眺めていた殿下が執務机から席を立ってこちらに近づいてくる。

「おいチビ。教えてやろう。涙も色仕掛けもいいがな。男をおとすにはもう一つ重要なものがあるぞ」

「わ、私はチビではありませんわ!」

チビ呼ばわりされたのが癇にさわったのか、カルミナさまが私の胸から顔をあげ真っ赤になって反論する。

とはいえまだ殿下に怯えているのが丸分かりで、多少腰がひけてはいるが。


「どうみてもチビだろうが。いいか、男って生き物はギャップに弱い」

「ギャップ?」

憤りつつも答えが気になるようだ。

ビクビクしながらも興味津々の眼差しで殿下を見上げる。

殿下は私の顔をちらりと見て、言った。

「そうだ。ここにいるエレインはな、普段はツンと取り澄ました隙のない女だが、ベッドで二人きりになると女豹みたいに情熱的に燃え上がる。そういうギャップに男はやられるんだ」

「殿下!!」

思わず大声をあげて睨み付けるも、殿下はぬけぬけと、

「ベッドで俺の傷、舐めただろうが」

「誇張しすぎです!純真な少女に何てことをおっしゃるんですか!!」

カルミナさまを見ると、意味がよくわからなかったのか「メヒョウ?」と首をかしげている。


ほっとしたのも束の間、カルミナさまがとんでもないことを言い出した。

「…ラルフ殿下とエレインは恋人同士なの?」

「そうだ」「違います!」

正反対の返事が重なる。

ぎりっと殿下を睨みつけてもまったく効果がない。

「もしお前が首尾よくグリフィス兄上と結婚できたら、エレインはお前の義理の妹になるぞ。ゆくゆくは俺とエレインは結婚するからな」

「本当っ!?エレインと家族になれるの!?」

カルミナさまが顔を輝かせる。

「…。」

脱力。


(…いい加減にして…)



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