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小さなレディ 4

「グリフィス兄上とこのチビ…いや、カルミナ嬢との縁組み?グリフィス兄上は33歳だぞ?犯罪じゃねえのか」

「王族の婚姻では範疇内です。王妃さまは、ラルフ殿下ならきっとうまく取り持って下さるだろうとおっしゃっておられました」

どうやら王妃さまはラルフ殿下を何でも屋か何かと勘違いされているようだ。

「縁談は義姉上の管轄だろ…。俺はこういう話は苦手だ」

殿下は不機嫌そうに私の隣に所在なげに立っているカルミナさまに目をやったが、険しい顔に怯えたらしく、「えぐっえぐっ」と泣き出しはじめ、途端に“びえ~~~!!”という美少女らしからぬ泣き声でハデに泣き出した。

耳をつんざく泣き声がラルフ殿下の執務室に響き渡る。

「ああっ!もうっ!そんな目つきの悪い顔で睨まないでくださいよっ!せっかく落ち着いたところだったのに…」

私のスカートにしがみついて泣くカルミナさまの肩を抱いたり頭をなでたりしながら殿下をにらみつける。

「悪かった…俺が悪かったから、こっから連れてってくれ…」

そう呟きながら頭を抱えた殿下は、書類の山の中に撃沈した。



グリフィス殿下。

陛下の2番目の弟君であり、ラルフ殿下の異母兄にあたる。

33歳でイイ年なのだが、いまだに独身。奥方もなく側妾もなく、女っ気ゼロ。

貴族にはありがちな男色趣味、というわけでもないのに独り身なのにはワケがある。

変わった方なのだ。キッパリ変人といってもいい。

はるか昔に存在したといわれている魔法や魔術についての研究に没頭している。

“存在した”というか魔術の記録は古い文献にしかなく、魔法学は現在ではかなり下火になっている。グリフィス殿下はその眉唾ものの胡散臭い学問に夢中になり、王宮内の居室に閉じこもって奇妙な実験を繰り返している。

女に興味はない、というより世間そのものに興味がない。

実は私も一度しかお姿を拝見したことがない。

余程はずせない公式行事にしか姿を現さないグリフィス殿下は、今年の新年の祝賀式典に出席された。遠目で見た限りでは、えんじ色の髪をしていることぐらいしかわからなかった。

ぶ厚くて大きな眼鏡を式典中もずっとかけているので、どんな顔なのかもまるでわからない。

一言も言葉を発せず、浮世離れしたオーラを発していたのを覚えている。

そんなキワモノの王弟殿下だからこそ、王妃さまの“縁結び魂”にも闘志が燃え盛るらしく、縁談をもっていってはまるで相手にされない、というやりとりを数限りなく繰り返していたらしいのだが…。



「なんで今回に限って特別扱いなんだ?」

ハーブティーを飲みながら、ラルフ殿下が訊ねる。

カルミナさまを別室にお連れしてようやく寝かしつけて戻ってきたところだ。

そうなのだ。いつもだったら、縁談をもちこむといっても、ラルフ殿下にするようにお見合い相手の絵姿を見せるぐらいで、今回のようなゴリ押しはしない。


「なんでも、カルミナさまは今年の新年祝賀式典でグリフィスさまに一目ぼれしたそうなんです。王妃さまはその“運命的な出会い”にいたく感動されて、カルミナさまの初恋をなんとか叶えてさしあげたい、と強く望まれているんです」

縁談というのはおおむね本人の意思とは関係ないところで決められるので、恋愛感情がからんでくるケースは(しかも変人のグリフィス殿下に)珍しいのだ。

王妃さま自らが説明されたときには「一目ぼれなんて素敵!」だの「女にとって初恋って特別なものだわ!」だの、ご自分の意見やら感想やらをとりまぜ、ここのくだりでゆうに10分もかかったが、省略。

「こういう話は義姉上の得意分野だ。もうグリフィス兄上には話をもってったんだろう?なんで俺のところに話がくるんだ」

「ええ。王妃さまはグリフィス殿下に色々働きかけたそうですわ。それはもう色々と。それでも、万策尽きておしまいになったそうで…あとはラルフ殿下にまかせると…」

色々、に力をこめて言う。

ラルフ殿下は苦虫を潰したような顔つきになり、書類の山を指さした。

「見ろよ、この仕事の山。とても子どものお守りをしてるヒマはないぜ。悪いが、エレイン。この件はお前に任せる」


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