小さなレディ 3
「あ!エレイン!」
「ひ!」
廊下を歩いていたら後ろから声をかけられた。振り向くまでもない。
この声は王妃さま付メイドのジーナだ。
「今日ラルフ殿下がお帰りになったんでしょ!縁談の話はした?王妃さまがあなたにお話があるっておっしゃるのよ!一緒に来てちょうだい!」
私よ2つ年上のこの押しの強いメイドに、私はいつも押されっぱなしだ。
「でも、私、これから殿下にお茶を淹れてさしあげないと…」
「いいからいいから!」
(ひ~~~!!)
力強い手でがしっと腕をつかまれ、問答無用で廊下を引きずるように連れ去られた。
「エレイン、ごめんなさいね、呼びたててしまって。ラルフ殿下はお帰りになったようだけど、あなたを通したほうが話が早いと思って」
大きな扇で口もとを隠しながら、ホホホホホッとほがらかに笑う。
連れてこられたこの部屋、王妃さまのお部屋はこの王宮で一番きらびやかな場所だ。
南の地方から嫁いでこられた王妃さまはとにかく明るく華やかな方だ。
その王妃さまの性格を反映して、お付きのメイドたちも部屋の装飾もとにかく明るく賑々しい。
「王妃さま…申し訳ありませんが、お預かりした姫君たちの絵姿はまだ半分も殿下にお見せしておりません。仕事がたてこんでおりまして…」
「あら困ったわね。今日のぶんもまだこんなにあるのよ」
とおっしゃって目で指し示した先には、絵姿の山を手に抱えたメイドの姿。
(げっ…!)
途端にげんなりする。
そう、あの大量の縁談はすべて王妃さまから持ち込まれたものだったのだ。
王妃さまはとても朗らかないい方だが、男女の縁結びに至上の喜びを覚えるというはた迷惑な趣味をもっている。
30過ぎでいまだ独身のラルフ殿下は格好の獲物だ。
王妃さまは腕によりをかけて国中の令嬢の絵姿を集め、それを毎日毎日私のもとへ寄越すのだ。「殿下がお戻りになったらお見せしてちょうだい」と。
3日に1回くらいは、さっきのようにジーナに捕獲され、王妃さまの部屋に引きずりこまれて「この姫君はお美しくて淑やかで私のイチオシなのよー」という話を延々と聞かされるのだ。
「まぁいいわ。今日はラルフ殿下の縁談の話ではないのよ。ちょっと困ったことになって、ラルフ殿下にお願いしたいことがあるの」
王妃さまはそうおっしゃって、そばのメイドに「お連れして」と命じた。
続きの部屋からメイドに手を引かれてやってきたのは…ものすごい美少女。でもまだ幼い。
ふわふわの金髪と大きな青い目。
人形のように整った美貌は、後々絶世の美女に育ちそうだ。
ひどく泣いたあとのようで顔を真っ赤に腫らしている。
「カルミナ・リデル侯爵令嬢よ。お歳は12歳。この方とグリフィス殿下の縁組みをまとめてほしいの」




