小さなレディ 2
伯爵家から有無をいわさず王宮に連れてこられ、ラルフ殿下付きになってから早1年がたつ。
人手が足りないというのは本当で、ラルフ殿下の宮には私と書記官のオーディンさんしかいない。
オーディンさんはひょろっとした体躯で立派な白髭をたくわえた温厚な老紳士だ。いつも「フォフォフォ」と笑う。
私はともかく老齢のオーディンさんに事務方の仕事の始末を一手にまかせるというのはどうかと思い、人手をもっと増やしたらどうかと申し上げたが、「ウチは少数精鋭だ。それにゾロゾロと仰々しくなるのはかなわん」と言ってとりあってくれなかった。
まぁ、オーディンさんはいつも涼しい顔で大量の仕事をこなしてはいるが。
出会いが出会いだったので、ラルフ殿下の下でどんな危険な仕事をやらされるか、とハラハラしていたが、意外にも私に与えられたのは王宮内での殿下の世話だけだった。「お前を危険な目にあわせるわけにはいかないだろうが」とかなんとか言っていたが、あれはタテマエに決まっている。
殿下は、イノシシみたいに自分から騒動の渦中に突っ込んでいくのが好きだから足手まといを連れて行きたくないのだ。
ラルフ殿下という方は、亡き前王の庶子の王子で、2年前新王が即位されるまで城下で平民として暮していたという変わり種だ。
「兄上を助けるため」と言って王弟殿下として王宮に入ったが、30年近く普通の兄ちゃんとして暮していただけあってまったく王族らしくない。
しかも陛下のためにと、王宮内や国内で起こる騒動や陰謀なんかに首を突っ込んで国中を走り回っているのだ。
今回は絹問屋が地元の有力者と結託して暴利をむさぼっているのを聞きつけて東の港町に飛んで行ったし、前回は城下の無許可の賭博場取締りに行った。
大なり小なり事件が起ると、1人で、もしくは騎士団から数人ひきつれて馬に乗ってすっ飛んでいく。
執務室の椅子があたたまるヒマもない。
だからたまに殿下が王宮に帰ってくると、留守の間に溜まった事務処理の書類や決裁に追われ、執務室にカンヅメという状況になるのだ。
私の主な仕事は、殿下の身の回りの世話、留守の間の宮の管理、そして…これが一番厄介な仕事だが…王妃さまのお相手だ。




