第91話 二度目のお風呂
亜梨栖に酒を飲ませてしまった罪滅ぼしで、彼女と一緒に風呂へ入る事となった。
既に浴槽にお湯を張り終わっており、亜梨栖は先に入っている。
どうやら後で体を洗うのが面倒臭いらしく、今回は事前に体を洗っておくそうだ。
女子高生がスクール水着を着て社会人と風呂に入るという、犯罪スレスレどころか真っ黒な行為だが、後には退けない。
深呼吸をして覚悟を決め、風呂場の曇り硝子を軽く叩く。
「入っていいかー?」
「ちょ、ちょっと待ってください! まだ水着を着てないので!」
慌てたような声が反響し、硝子の向こうで肌色が忙しなく動き始めた。
はっきりと見えないがゆえに妙な艶めかしさを感じ、視線を逸らす。
偶に聞こえる水音と、スクール水着の布が擦れる音に意識が乱れつつも、理性を固く縛ってジッと待つ。
暫くすると「大丈夫ですよ」と聞こえて来たので、籠の中を見ないようにしつつ服を脱ぎ捨て、タオルを腰に巻いて風呂場に入る。
「……ど、どうも」
「……おう」
一緒に入るのは二度目だし、亜梨栖に至っては二回とも発案者だ。
しかし、先程の落ち込みようが尾を引いているのか、ぎこちない挨拶をしてきた。
悟も悟で、スクール水着が張り付いたメリハリのある肢体があまりに魅力的すぎて、口ごもってしまったのだが。
(ホント、綺麗だよなぁ……)
絶対に日に焼けない肌は雪に負けない程に白く、スクール水着とのコントラストが素晴らしい。
腕や足は細いものの、臀部や太腿、そして母性の塊は、少女が既に大人の仲間入りをしている事を容赦なく伝えてくる。
それでいて白銀の髪が照明を受けて輝く光景が、これは現実なのではなく夢だと思わせる程の幻想的な雰囲気を醸し出していた
見つめていると悟の体に熱が灯りそうなので、咳払いで誤魔化しつつ亜梨栖の様子を窺う。
「大丈夫か?」
「は、はい、大丈夫です! もう立ち直ってます! むしろ、ここまで来たら骨の髄までしゃぶりつくすつもりです!」
「……俺、しゃぶられる側だったのか」
一般的に、この状況で食べられるのは女性側だ。
呆れ気味に呟けば、亜梨栖が鼻息を荒くして頬をだらしなく緩めた。
深紅の瞳の奥には、どろりとした熱が秘められている気がする。
「だって兄さんの上半身が綺麗ですし、ちょっと味見だけでも……」
「変な事をしたら怒るからな」
「…………分かってますよぅ」
味見、という言葉に背筋が寒くなり、余計な事をする前に釘を刺させてもらった。
流石に反論はしなかったものの、かなり未練がありそうに唇を尖らせたので、悟が言わなければ過剰な接触をされたかもしれない。
暴走気味な亜梨栖に溜息をつきたくなるが、落ち込まれるよりは良いと思いなおす。
「それで、アリスはちゃんと洗い終わったんだよな?」
「体はきちんと洗いましたよ。後は髪だけです」
「それじゃあ、今回は俺が洗っていいか?」
前回一緒に入った際は亜梨栖が悟に誘惑するという目的があったので、彼女は自分で髪を洗っていた。
しかし、今日はそんな目的などない。
折角残っているのならと提案すれば、紅玉の瞳が輝いた。
へにゃりと嬉しそうに緩んだ笑みに、心臓の鼓動が僅かに早まる。
「もちろんです。というか、ちょっと期待して残してました」
「体を洗ったのに髪を洗ってないのは変だと思ったんだよな。よし、全力を尽くさせてもらうよ」
昔は亜梨栖の髪を洗う際に何も気にせず洗っていたが、今はかなり気を使っているはずだ。
前回一緒に入った時に見てはいるものの、残念ながらさっぱり手順や注意点が分からない。
なので亜梨栖からレクチャーされつつ、しっかりと銀糸を洗っていく。
「んー。兄さんに洗ってもらうのは気持ち良いですねぇ……」
「たっぷり堪能してくれ」
「それは嬉しいですけど、疲れたら無理しないでくださいね」
「普段から亜梨栖の髪を手入れしてるんだし、この程度で疲れる訳ないだろ。むしろ楽しいくらいだ」
亜梨栖は髪の量が多いので、洗うのは確かに大変だ。
いくら普段髪を乾かしているとはいえ、その手間とは比較にならない。
しかし、美しい銀髪を泡立てる行為は少しも苦にならないのだ。
胸を張って告げれば、紺色の布地がもぞりと動く。
水を吸って重くなった髪の隙間から、ほんのりと赤みがかった耳が見えていた。
「……そうですか」
「そうなんだよ。よし、洗い終わった。この後はどうすればいいんだ?」
「後は流して終わりですよ」
「はいよ」
シャワーを使い、に丹念に泡を落としていく。
頭の上から大雑把に流し、下まで行けば再び上へ。
今度は細かい部分まで流そうと、わしゃわしゃと少し乱暴に髪を触れば、亜梨栖が軽やかな笑い声を零した。
「ふふ。それ、きもちーです」
「泡を残すと良くないからな。しっかりやっていくぞー」
「はーい」
間延びした声を漏らし、悟に好きにさせる亜梨栖。
がしがしと痛くない程度に髪を乱すと、彼女の頭が右へ左へと揺れる。
それでも抵抗の仕草一つ見せず、もう一度毛先までシャワーを当てて洗い終わった。
「これで大丈夫だろ。それじゃあ、俺の番だな」
「はい。兄さんの背中、しっかり洗わせてもらいますね」
当然のように立場を変える事を提案したが、亜梨栖は満面の笑みで受け入れる。
前回よりも過激な誘惑をされるかと思ったものの、悟が釘を刺したからか彼女は真面目に背中を洗ってくれた。
そして今回も体の前面や下半身は自分で洗い、湯に足を浸す。
すると、先に浸かっていた亜梨栖が浴槽の中で立ち上がった。
「もう出るのか?」
「いえ、違いますよ。取り敢えず、入ってくださいな」
「は、はぁ……」
嫌な予感がしつつも、素直に肩まで湯船に浸かる。
日中からそれなりに酒を飲んだが、とっくに酔いは覚めていた。
それでもお湯の温度が体に染み渡る感覚が心地良く、勝手に溜息が漏れる。
「あぁ、気持ち良いなぁ……」
「満足してるみたいですし、改めて失礼しますねー」
「どうぞどうぞ。……って、おい!」
てっきり前回と同じく向い合せで浸かると思ったのだが、亜梨栖が悟へ背を向けた。
紺色の布地がどんどん迫ってくるので、立ち上がって逃げようとする。
しかし悟が逃げるよりも早く、華奢な背中がぴったりとくっついた。
亜梨栖のスクール水着と、悟が腰に巻いた薄い布一枚だけが悟達を隔てている。
下手に体を動かすと変な所に触れてしまいそうで、水着や太腿の擦れる感触が気持ち良くて、動くに動けない。
視線を下に向ければ、亜梨栖は悪戯が成功した子供のような笑顔を浮かべていた。
「折角ですし、こんなのはどうでしょうか?」
「……あちこち触れてるんだが」
「そういう体勢ですからねぇ。触れても仕方ないですよ」
亜梨栖が鈴を転がすように笑いつつ、思いきり悟へと背を預ける。
どこもかしこも柔らかくて、熱を持とうとする下半身を必死に静め続ける。
そんな悟の葛藤など知るかとばかりに、亜梨栖が悟の両腕を持って自分の首に緩く巻き付けた。
「ふふー」
「いや、あの、アリスさん。当たってますが」
首に巻き付けたといっても、少しも締め付けていない程だ。
それだけ緩ければ腕が解け、下へと落ちてしまう。
具体的には、母性の塊の上へと。
亜梨栖が胸元まで湯船に浸かっているので乗せる程ではないが、それでも言い逃れが出来ないくらいに触れていた。
羞恥に頬を炙られつつ指摘すれば、亜梨栖がぱちりと瞬きし、それから茶目っ気たっぷりに笑む。
「当ててるんですよ。どうですか? 気持ち良いですか?」
「……ノーコメントで」
「なら、ちゃんと感想を言えるように、しっかりと触れてもらわないといけませんね」
「良いです! 滅茶苦茶触り心地良いです!」
これ以上触れ合いを深めれば、悟の理性は音を立てて崩壊してしまうだろう。
恥を取って理性を縛り続けられるのならと、あっさりと感想を口にした。
既に顔は火が出そうな程に熱い。
「ふふ。遠慮しないでもっと触っていいですからね」
「……勘弁してくれ」
普段の調子に戻った結果、凄まじい誘惑に理性を殴られ続ける悟だった。




