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第87話 事情説明

「「おぉー!」」


 テーブルの上には唐揚げにポテトサラダ、スーパーで買った刺身等、様々な料理が乗っている。

 ゲームで盛り上がっていたとはいえ、それなりに待たせたからか、信之達が目を輝かせて感嘆の声を上げた。


「滅茶苦茶美味そうだねぇ」

「松原さん、アリス! 早く! 早く食べましょう!」

「先にアリスの事をもっと説明しようと思ったんだが……」


 亜梨栖ありすと同居している今の状況は、簡単に説明していい事ではない。ましてや酒を飲むのだ。

 酔いが回る前に説明しようと思ったのだが、瞳を輝かせた信之と真奈だけでなく、佳奈と美琴にすら待ちきれないという風に眉をしかめられた。


「大丈夫ですよぉ。他言無用なのは分かってますから」

「はい。先輩を困らせる事はしないと約束します。だから……」

「……分かったよ。アリス、それでいいか?」


 真奈は別として、信之や美琴、佳奈は今日会ってから一度も亜梨栖に奇異の目を向けなかった。

 だからなのか、亜梨栖が柔らかく笑んで頷く。


「はい。皆さんを信用します」

「よし、それじゃあ皆、飲み物を持って。……乾杯!」

「「「「「乾杯!」」」」」


 成人組はアルコールの缶を、高校生組はジュースの入ったコップを持ち、軽くぶつけあった。

 まずはお酒を口に含み、ぐっと喉に流し込む。


「ぷはぁ! 昼過ぎからお酒を飲むのは最高だね!」

「家ではした事がないけれど、こういうのも悪くないわぁ」

「お酒、おいしい……! 日々の疲れが癒されていくぅ……!」

「お姉ちゃん、今はゴールデンウィークだよ? 疲れなんて溜まってないと思うんだけど……」


 各自が思い思いに言葉を紡ぐだけで、リビングが騒がしくなった。

 いつもの穏やかなリビングとの違いに、亜梨栖が困惑の表情をしている。


「何というか、凄い光景ですね」

「ああ。大学時代でも女性を家に入れる事なんてなかったからな。感動よりも驚きが来る」


 大学時代に男の友人を招いた事はあっても、せいぜいが二人、多くて三人くらいだった。

 しかも今日はこれまでと違い、女性が居る。

 亜梨栖が居るので口には出さないが、華やかな食事の風景に感動を通り越して驚きが沸き上がった。

 随分変わったものだとしみじみ思っていれば、信之達が我先にとばかりに料理へ箸を伸ばし始める。


「うわ、唐揚げうまっ。下ごしらえの時間とか無かったはずなのに、味がしっかり染みてる。はい、美琴も」

「ありがとう、信之さん。……ホントに美味しいわねぇ」

「んー! アリスのだし巻き美味しいー!」

「だし巻きを喜ぶ女子高生って。我が妹ながらそれでいいのかなぁ。ああでも、確かにお酒が進むぅ……!」


 作り手にとっての一番のご褒美は、食べる人の笑顔だ。

 満面の笑みで舌鼓を打つ信之達に、悟と亜梨栖の頬も緩む。


「こうして喜んでもらえたなら、作りがいがあるな」

「はい。大量に作るのは初めてでしたが、楽しかったです」


 悟と亜梨栖も腹が減っているのは確かなので、遅めの昼食を摂り始める。

 昼過ぎから社会人がお酒を飲んで盛り上がる光景は、人によってはだらしないと思うかもしれない。

 しかし他の人の目もなく、たっぷりと時間のある中ではしゃぎながら過ごすのは間違いなく幸福だ。

 信之達からの賞賛しょうさんの言葉を浴びつつ、腹を膨らませる。

 ある程度時間が経ったところで、信之が穏やかな笑みを浮かべて口を開く。


「さてと。皆もそれなりに食べたし、悟の事情を聞こうかな」

「念を押すが、他言無用で頼むぞ」

「分かってるよ。悟を脅す趣味はないからね」


 信之以外の人を見れば、全員が大きく頷いていた。

 悟と同年代の人に事情を話すのは、これが初めてになる。


「えっと――。っ」


 意を決して話そうとするが、中学時代の苦い思い出がよみがえり、言葉が出なかった。

 じわりと沸き上がる恐怖に顔を俯けて口をつぐめば、隣に座っている亜梨栖が悟を覗き込んだ。


「大丈夫ですよ。兄さんの友人じゃないですか」

「…………だな。ありがとう、アリス」


 悟の背を優しく支えるような言葉が胸に沁み込み、不安の雲が晴れる。

 あの頃とは違い、話すのは信頼のおける友人達なのだ。

 一人だけ初対面だが、美琴は信之の妻なので信用出来る。

 再び顔を上げれば、柔らかく笑んだ友人達が居た。


「順を追って話していくよ。まずは――」


 ゆっくりと、噛み締めるように今の状況を説明するのだった。




「――って事で、今はアリスと同居中だ」


 真奈の時のように昔の事は話さなかったが、お互いの親から許可が出ている事を含めて同居している事を伝えた。

 忌避されるのではという恐怖が心の片隅にあったものの、ほぼ全員が柔らかな笑顔を浮かべて受け入れてくれた。

 内心で胸を撫で下ろすが、一人だけ途中から顔をうつむけていた人がいる。


「どうした、信之?」

「お……じ……」

「うん?」

「同じ仲間だよ! 悟!」


 勢いよく顔を上げた信之は、目に溢れんばかりの輝きを秘めていた。

 なぜか感情がたかぶっているようで、席を立って悟へ近付き、肩を組んでくる。


「いやぁ、年齢の壁って辛いよねぇ。しかも高校生だもんね」

「は? いきなりどうした?」

「すみません、松原さん。多分、私と信之さんの状況に似ているから、仲間を見つけて感激しているんだと思います」

「美琴さんと同じ状況? ……まさか」


 悟と信之が同じ状況という事は、考えられるのは一つしかない。

 恐る恐る信之を見れば、満面の笑みを浮かべていた。


「そう。僕と美琴は四歳差。ちなみに先月二十歳になってるから、お酒は大丈夫だよ」

「改めまして、前坂美琴です。今年で大学二年生になります」

「「「「大学生!?」」」」


 ゆったりとした仕草で頭を下げ、衝撃の発言をした美琴に悟に亜梨栖、佳奈と真奈が素っ頓狂な声を上げた。

 落ち着きのある柔らかな物腰から、下手をすると年上だと思っていたくらいだ。

 一応、軽い自己紹介の時点で悟よりも年下だと言っていたが、まさか二十歳になりたてだとは思わなかった。

 固まる四人を見て、美琴が露骨に肩を落とす。


「やっぱり、そう見えないんですね……。辛いです……」

「美琴の雰囲気が大人びてるからだっていつも言ってるでしょ? 今でも僕より年上に見られるんだよねぇ」

「私、最近二十歳になったばかりなのに……」


 どうやら美琴はおっとりした雰囲気のせいで、信之よりも年上に見られるのが嫌のようだ。

 悟と肩を組みながらフォローした信之の言葉に、美琴は拗ねるように頬を膨らませる。その姿は確かに幼さを感じさせた。

 けれど年齢さえ聞かなければ、年上の女性が茶目っ気を出しているようにも見えるだろう。

 どうやっても年上に見えてしまう悩みを抱える女性を、亜梨栖が羨望の目で見ていた。


「……いいなぁ」


 詳しく聞いた事はないが、亜梨栖は悟の並べるように、大人になりたいと思っている。

 そんな亜梨栖からすれば、美琴はまさしく理想の女性なのだろう。

 小さな呟きが届いてしまったようで、美琴が僅かに唇を尖らせる。


「アリスちゃん、これでも私は真剣に悩んでるのよ?」

「ご、ごめんなさい! つい……」

「ふふ。怒っている訳じゃないのよ。改めて、よろしくね」


 見た目ほどには怒っていなかったようで、慌てて謝罪した亜梨栖に美琴がふわりとした笑みを向けた。

 もしかすると、年上の男性を好きになった人として、通ずるものがあったのかもしれない。

 そのまま亜梨栖と美琴が盛り上がっていると、信之が肩に回している手に力を込めた。


「という訳で、僕らは仲間だ。同志といってもいいんだよ」

「そういう事か。……信之も苦労したんじゃないか?」


 いつ頃から付き合っていたかは分からないが、四歳差でも問題はあっただろう。

 同情の目を送れば、同じ感情を込めた瞳が向けられた。


「悟程じゃないと思うけどね。さあ、飲みながら話そう!」

「ああ、そうだな」


 身近な人に受け入れられただけでなく、その人が同志だというのは心強い。

 酒を飲みながら、苦労話を重ねていく。


「うぅ……。美味しい、美味しいよぉ……」

「…………お姉ちゃん、ヤケ酒?」

「そうだよぅ。今日くらいはいいでしょ……?」

「まあ、そうだね。よしよし、頑張ったね、お姉ちゃん」

「真奈ぁ……。うわぁん!」


 ちらりと様子を見れば、佳奈が真奈に泣きついていた。

 泣き上戸ではなかったはずだが、感情がたかぶったのだろう。

 話はよく聞こえないが、妹と姉の立場が逆転した姿に笑みを落とすのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 近くにまさかの同志発見! ナカーマはいいですよねぇ [一言] さすがに過去話まではなしでしたが、それでも佳奈には無理だと改めてわかってしまったんでしょうねぇ。切ない(泣) それはそれとし…
[一言] まあ、佳奈さん仕方ないよね。妹に慰めてもらいましょう。
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