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第81話 膝枕をされる立場 

 亜梨栖ありすがシャワーを使った後に悟も汗を流し、お互いにさっぱりした。

 汗の匂いに関しては彼女が暴走した事もあり、触れないようにしている。

 亜梨栖も風呂上がりに頬を染めつつ目を逸らしたので、暗黙の了解として口にしない事になった。

 それからはゆったりとした時間を過ごし、晩飯を終えて後は寝るだけとなる。


「さてと、それでは兄さんへのご褒美をしましょうか」

「ご褒美? ……何だっけ?」

「もう。昼間に勝負して、兄さんが勝ったじゃないですか」

「そういえばそうだったな。忘れてた」


 帰ってきてからの騒動が印象に残り過ぎて、すっかり頭の中から消されていた。

 ぽつりと呟けば、亜梨栖の顔が悲しみに彩られる。


「忘れるなんて、私の膝枕はどうでもいいものだったんですね……」

「そういう訳じゃないって。というか、絶対わざとだよな?」

「おや、動揺すらしないとは。露骨過ぎましたね」

「滅茶苦茶分かりやすかったからな」


 亜梨栖がどんな言動をするか、流石にある程度は理解出来ている。

 肩を竦めて呆れ気味に呟くが、亜梨栖は全く動じず微笑を浮かべて膝を叩いた。


「それはそれとして、お膝へどうぞ」

「……じゃあ、遠慮なく」


 本来であれば、恋人でない悟達がしてはいけない事。

 逆の立場はあったが、亜梨栖を甘やかしたかったと言い訳出来る。

 しかし、これに関しては事前に提案された上で勝ち取ったものだ。

 今更良い人ぶって止める事など出来ず、そして亜梨栖もそんな事は求めていないだろう。

 襲い来る羞恥を抑え込み、亜梨栖の膝に頭を乗せた。


「女子高生の生足はどうですか?」

「悪意のある言い方はどうかと思うけど、最高だ」


 亜梨栖のパジャマはショートパンツなので、悟が頭を乗せる場所はどうしても彼女の素肌になる。

 滑らかで瑞々しく、どこか甘い匂いのする肌は極上の触り心地だ。

 そして、頭を乗せている膝の主が同年代ではなく、高校生だという事実に背徳感が沸き上がる。

 どうしようもなく高鳴る胸に呆れつつも、正直に感想を告げた。

 とはいえ彼女の言葉に苦笑しながらだったからか、亜梨栖がくすりと小さく笑む。


「では、たっぷり楽しんでくださいね」


 膝枕だけで終わらせるつもりはないらしく、細い指が悟の髪を撫で始めた。

 髪を乾かす際によく触れられているが、今回は単に悟と触れ合う為だ。

 梳くような指使いが心地良く、体から力が抜けていく。


「最近はよく頭を撫でられますが、撫でる事はないので新鮮ですね」

「そりゃあそうだろ。やるとすれば普通は逆なんだからな」


 この体勢をはたから見れば、社会人が女子高生に甘えているように見えるだろう。

 こんな状況では説得力の欠片もないのだが、甘えてはいない。単に、感触を楽しんでいるだけだ。

 しかし柔らかな膝の感触と優しい指使いに、甘えたくなってしまう。

 流石に大人失格なのでそんな事はしないと理性を縛れば、頭上からくすくすと軽やかな笑い声が聞こえた。


「普通なんて気にしないでいいじゃないですか。男性が女性に膝枕すべき、というルールはありませんよ」

「性別だけで見たらそうだろうな。でも俺達は――」

「年齢も、ですよ。社会人が高校生に膝枕されてもいいと思います」

「……っ」


 言いたい事を先回りされて、動揺に体がぴくりと跳ねる。

 そんな悟へ亜梨栖は小さな笑い声を零し、子供をあやすような指使いで頭を撫でた。


「膝枕だけじゃありません。兄さんは、もっと私に甘えるべきなんですよ」

「俺はもう十分甘えてるよ」


 家事や料理をほぼ任せっきりにしているだけではない。

 亜梨栖から想いを伝えられて一ヶ月以上が経過したが、彼女は一向に返事を求めなかった。

 その優しさに悟は救われ、甘えているのだ。

 これ以上、亜梨栖に甘える事は出来ない。

 なのでやんわりと拒絶すると、細い指がぺちりと悟の頬を軽く叩いた。


「全然足りません。兄さんは頑張り過ぎなんです。大人だから良い所を見せようとか、高校生には甘えられないとか、そんな事は考えなくていいんです」

「そんな事、考えてない」

「考えてます。……お願いですから、遠慮しないでください」


 甘えたければ甘えろ。もっと頼って欲しい。

 自分は大人だから、相手は高校生だから。

 そんな理由で強がらなくていいのだと、柔らかな声には悟を思いやる心が詰まっていた。


(いい、のかな……)


 別に、肩肘張って過ごしていた訳ではない。

 亜梨栖が頼れる存在になったというのは、十分に理解している。

 それでも、心の片隅で頼られる大人であるべきだとずっと思っていた。

 けれど亜梨栖の声に心を解され、少しだけ理性の縛りが緩む。

 ほんの僅かにだが滑らかな膝に頬ずりすると、再び亜梨栖の手が悟の頭を撫でた。


「それでいいんですよ。いっぱい甘えてくださいね」


 慈しむような撫で方に、どんどん思考が溶けていく気がする。

 よくよく考えると、悟は誰かに頭を撫でられた記憶がない。

 物心ついてからは母であるあやに甘えられなかったし、亜梨栖もそうだ。

 だからなのか、どうしようもなく離れたくなくなってしまった。


「ふふ、いい子いい子」

「……俺は子供じゃない」

「すみません。兄さんが甘えてくれるのが嬉しくって」


 嬉しさを滲ませながらの謝罪に、怒る気力もなくなってしまう。

 とはいえ本気で怒っている訳ではなく、単に気恥ずかしいだけなのだが。


「そんなに甘やかすと、ダメ人間になるぞ」

「良いですよ。むしろダメ人間にして、私に毎日甘えるようにしてもいいかもしれませんね」

「魔性の女だ……」


 既に日々の生活は亜梨栖が居ないと成り立たなくなっているのだ。

 この状況で彼女に甘えるのに慣れてしまうと、本当に一人で過ごせなくなってしまうだろう。

 現在進行形で悟を依存させようとしている少女に悪態をつくと、彼女は視界の端で艶っぽい笑みを零した。


「兄さん限定の、ですがね。どうぞ溺れてくださいな。もっと甘えたいなら、こっちを向いてもいいですよ」

「それは流石に遠慮しとく」


 悟は膝枕される際、亜梨栖と反対の方を向くようにした。

 そうしなければ彼女の服に顔を埋めてしまい、今以上に大変な目にっていただろうから。

 おそらくこの空気で亜梨栖の方を向けば、悟は今度こそ抜け出せなくなるだろう。


「ざんねんです。もし向いてくれれば、思いきりぎゅってしたんですがね」

「……向かなくて良かった」


 まだ依存するには早いと、胸を撫で下ろしつつ亜梨栖の膝に頭を委ねる。

 執着しゅうちゃくするつもりはないようで、ぽんぽんと頭を叩かれた。


「私はいつでも歓迎しますので、遠慮はなしですよ」

「それなら、本当に辛い時にはやってもらおうかな」


 悟は今の生活に苦痛などないし、むしろ満たされている程だ。

 けれど、ずっとこのまま順風満帆じゅんぷうまんぱんにはいかないだろう。

 溶かされた心のままに妥協すれば、嬉しそうな吐息が耳に届いた。


「はい。その時を楽しみにしていますね。今日は連れていってくれて、ありがとうございました」

「俺の方こそ、楽しんでくれてありがとな」


 今になってお互いにお礼を言い合うのがおかしくて、笑い合うのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今は甘えるわけにはいかない…つまり結婚後ということですねわかります(違 悟くる心の声と実際の状況の差異がね…だんだん接触過剰になってることに気づいていないというね。さすが小悪魔アリスですな…
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