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第78話 二回目のデート

 ゴールデンウイーク三日目は、一日目と同じく外でデートだ。

 とはいえ、前回のようにショッピングモールをぶらつくのではない。

 今回は車で少し遠出をして、大型の運動施設へ来ていた。

 もちろん屋内なので、亜梨栖ありすも体質を気にせず遊ぶ事が出来る。

 着替えを終え、女子更衣室から少し離れた位置で壁にもたれつつ彼女を待つ。

 女性の着替えに時間が掛かるのはよく分かっているので、待たされることに不満はない。

 時間潰しの為に周囲を見渡し、呆れと感心を混ぜた溜息をつく。


「初めて来たけど、凄い人だかりだな」


 ゴールデンウイークだからか、施設内には非常に人が多い。

 家族連れやカップル、そして同性で遊びに来ている人達等で賑わっている。

 この施設は最近出来たらしく、物珍しいのもあるのだろう。

 遊びに来た事に後悔はないが、あまりの人の多さに肩を落としてスマホを弄り始めた。


「あ、あの、誰かを待ってるんですか?」

「……」

「もしかして、気付いてない? あのー!」

「…………え?」


 声の主が亜梨栖であれば、話し掛けられたらすぐに分かっただろう。

 けれど聞いた事のない、少しの不安を混ぜ込んだ声が、まさか悟を呼んでいるとは思わなかった。

 スマホから顔を上げれば、数人の高校生くらいの女子が悟を囲んでいた。


「お、俺かい?」

「そうですよぅ。反応してくれないと、流石に悲しいです」

「ご、ごめん。でも、何で俺に? 多分、君達とは初対面じゃないかな?」


 話し掛けられても反応しなかった悟が悪いのは分かる。

 けれど、面識のない人間に話し掛けれらる可能性など、普通に考えればほぼ無いと言ってもいい。

 念の為に確認を取れば、彼女達が大きく頷く。


「そうですよー。でも、何か暇そうにしてたので」

「……まあ、暇ではあるかな」

「でしたら、一緒に遊びませんか?」

「遊ぶって、ここで?」


 これは、いわゆる逆ナンパというやつだろう。

 今までこういう場所など来なかったし、仮に外で遊ぶにしても友人と一緒だった。

 当然ながら、こんな事をされた経験などない。

 混乱が頭を占め、当たり前の事を聞くと、彼女達がくすくすとおかしそうに笑う。


「当然じゃないですか。お兄さんかっこいいのに一人ですし、折角来たんだから楽しみましょうよ」

「いや、悪いけど俺は一人じゃないんだ。暇なのも人を待ってたからで――」

「そうですよ」


 彼女達の勘違いを訂正していると、凛と透き通った声が耳に届いた。

 悟と逆ナンパをしてきた少女達が、一斉に声の方を向く。

 そこには、簡素なシャツとハーフパンツに身を包んだ銀色の少女が居た。


「うわぁ、すっごい美人」

「髪は綺麗な銀色だし、スタイルいいなぁ……」


 輝く銀色の髪は、運動するからかポニーテールに纏められている。

 家ではもっと肌が見える服装をしているが、今日は運動用の服を着ているからか、健康的な色気を醸し出していた。

 ラフな姿であっても美少女っぷりは変わりなく、可愛らしさに見惚れてしまう。


「その人は、私を待ってたんです」


 彼女達が呆けているうちに、亜梨栖が悟へと近付いてきた。

 柔らかい笑顔を浮かべているものの、どこか寒気がする。

 彼女達も寒気を感じたのか、悟と亜梨栖の間の道を開けた。

 傍に来た亜梨栖が、悟のシャツを摘まんで申し訳なさそうに見上げる。


「ごめんなさい悟さん(・・・)。待たせてしまいましたね」

「男が待つのは当たり前だろ? 気にしないでくれ」


 普段あまりしない仕草に、どくりと心臓が跳ねた。

 名前呼びをしたのは、普段通りの呼び方をすればややこしくなると思ったからだろう。

 暇ではあったが苦ではなかったと微笑むと、亜梨栖が柔らかく破顔した。


「ありがとうございます。……という訳で、すみませんがこの人は暇ではなくなったんです」


 亜梨栖が女子達へと振り向き、声を掛ける。

 それは柔らかかったのに、悟にすら感じる圧があった。

 声のせいか、それとも悟には見えない亜梨栖の表情のせいか、彼女達が慌てたように頭を下げる。


「ご、ごめんなさい! そうですよね、待ち合わせしてますよね!」

「私達お邪魔でしょうし、失礼しますね!」


 頬を引き攣らせた彼女達が、凄まじい勢いで去っていった。

 去り際に「あんな可愛い子に敵う訳ないよ」と言っていたので、下手をすると亜梨栖に対抗していた可能性もある。

 そうなると、これは亜梨栖の綺麗さに救われた形になるのだろう。


「助かったよ。ありがとな、アリ――」

「何ナンパされてるんですか」


 お礼を口にしたのだが、悟の方へと顔を戻した亜梨栖の表情には、強い拗ねが込められていた。

 一応柔らかな対応をしたものの、内心では先程の状況にご立腹だったらしい。

 怒られているのは分かるのに、その感情を向けてくれる事が嬉しくて、どうしようもなく胸が弾む。

 とはいえ表情に出せば亜梨栖が更に怒るので、流石に出しはしない。


「俺は何もしてないって。あの子達が話し掛けてきたんだよ。それに、ちゃんと断ろうとしてただろ?」

「そうですけど、兄さんはもっと自分の容姿を自覚すべきです」

「いや、逆ナンパなんてこれが初めてだっての」

「どうせこういう機会が無かったからでしょうが」

「まあ、そうだけどさ。でも、俺が逆ナンパされるなんて思わないって」


 詳しく話してもいないのに、悟のこれまでの状況を把握してくれるのは非常に有難い。

 ならば悟の意見にも同意してくれるかと思ったが。亜梨栖はやれやれ、と分かりやすく辟易へきえきしたように肩をすくめた。


「ホント、兄さんは自分の容姿を自覚すべきです。少し離れてはいますが、女子更衣室の前で暇そうにしていたら、すぐに捕まりますよ」

「そうは言っても、ここで待たないと今度はアリスがナンパされるだろうが。俺はそっちの方が嫌だ」

「はぇっ!?」


 悟が逆ナンパされる可能性と、亜梨栖がナンパされる可能性。

 彼女は嫌かもしれないが、どちらを取るかなど考えるまでもない。

 今回は逆ナンパされたものの、亜梨栖がナンパされる確率の方が圧倒的に高いはずなのだから。

 独占欲を言葉にして伝えれば、小さな唇から素っ頓狂とんきょうな悲鳴が出た。

 澄んだ深紅の瞳が、忙しなくあちこちへと散歩している。


「わわわ私がナンパされるのが、そんなに嫌なんですか?」

「当たり前だ。アリスには申し訳ないけど、これからも俺が待つのは譲らないぞ」

「あう。うぅ……」


 悟が断言した事で限界が来たのか、亜梨栖が耳まで真っ赤にして悟の胸に頭突きした。

 壁際だし、亜梨栖の通う星爛せいらん高校からも離れているので、多少の触れ合いは許されるだろう。

 それでも、周囲からの生温い視線は向けられているのだが。

 今回ばかりは仕方ないと、艶やかな銀髪をゆっくりと撫でた。


「また同じ事があったら、もっときちんと断るからさ。許してくれ」

「ずるい。ずるいですよぅ…………」


 おそらく悟が逆ナンパされる事は二度とないだろうが、それでも亜梨栖に許しを請う。

 納得は出来ないがそれでも嫌とは言えないようで、行き場のない感情をぶつけるように悟の胸へ頭を押し付けてきた。

 そんな亜梨栖を微笑ましく思い、視線を集める中でも暫く好きにさせるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] アリスの怒りを一瞬で鎮められるのは流石ですなぁ。バカップルが板についてきましたねっ!(違
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