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第74話 ペアアクセサリー

「今日のデート、どうだった?」


 ショッピングモールから帰ってきてすぐに亜梨栖ありすへと尋ねた。

 デートにしては時間が短かったし、まわった店も多くない。

 それでも亜梨栖は愛らしい瞳を輝かせ、幸せそうに目を細める。


「楽しかったですよ。最高の一日でした。日中のお出掛けも良いものですね」

「なら良かった。初めてのデートは成功だな」


 デート中の亜梨栖の様子から失敗したとは思っていなかったが、言葉にされるのはやはり嬉しい。

 安堵に胸を撫で下ろすと、亜梨栖が瞳に僅かな不安を浮かべて悟を見つめた。


「兄さんはどうですか? 私に気を遣ってばっかりで、楽しめなかったとかありませんか?」

「俺も楽しかったよ。最高だった」


 周囲からの視線や服を選ぶ難しさはあったが、それでも楽しかったと断言できる。

 心配は無用だと滑らかな銀糸を撫でれば、亜梨栖の顔が安堵に彩られた。


「なら良かったです。次は兄さんの服を私が選びますね」

「服なら間に合ってるけど、アリスがそう言うならお願いしようかな」

「任せてください。かっこいい兄さんに似合うものを選んでみせます」

「期待してる」


 帰ってきたばかりで何もしていないので、亜梨栖の頭を最後に一撫でしてから自室へ向かう。

 普段着に着替えてリビングのソファに腰を下ろすと、ちょうど彼女も自室から出て来た。

 その手には今の悟と同じように、デート中に買った小さな紙袋を持っている。


「開けてもいいですか?」

「もちろん。俺も開けていいか?」

「はい」


 一緒に包装を解き、中の鎖に繋がれたアクセサリーを取り出した。

 悟の物はシルバーのプレートで、ハートの半分が溝として彫り込まれている。

 亜梨栖のものはピンクのハートで、悟のアクセサリーと同じくシンプルな作りをしている。

 ペアアクセサリーにも関わらず形が違うが、だからこそこれを選んだ。


「じ、じゃあいきますね?」

「よし、どんとこい」


 大仰な事などしないのに、亜梨栖はおっかなびっくりという風に悟との距離を詰める。

 可愛らしい態度の亜梨栖に頬を緩め、シルバーのプレートを差し出した。

 亜梨栖が壊れ物を扱うかのように、プレートへハートをはめ込む。

 二つはしっかりと噛み合い、一つのアクセサリーとなった。


「二つで一つ。こういうの、いいな」

「ですね。ペアアクセサリーは同じ物を買うとしか思ってなかったので、凄く新鮮です」


 同じ物を身に着ける、という意味では悟達が選んだ物は適さない。

 しかし、どちらが欠けても駄目なのだと、そんな意味が込められたアクセサリーの方が悟達に合っている気がしたのだ。

 合わさったアクセサリーを亜梨栖が手に取り、へらっと緩みきった微笑みを見せる。


「えへへ。アクセサリーに興味はないですが、これは宝物です」

「俺もだよ。着ける機会はそうないけど、大事にしような」

「はい。大事にはするんですが、機会がないのが悩ましい所ですねぇ……」

「難しいもんだよな」


 家で着けるにはわずらわしいし、かといってわざわざ外に遊びに行く理由もほぼない。

 悟達の本質はインドアなのだから。

 かといって、折角買ったものをしまい込むのも勿体ない気がする。

 どうしたものかと考えを巡らせていれば、亜梨栖が突然スマホを弄り出した。


「何かいい案を思いついたのか?」

「はい。というか、アクセサリーを沢山持っている人からすれば当たり前なんでしょうけどね」


 ほら、と言いつつ差し出された画面を見れば、そこにはアクセサリー置きがずらりと並んでいる。

 こんなにも簡単な事に気付かなかったのがおかしくて、小さな苦笑を落とした。


「確かにな。じゃあ、この中から選ぶか」

「そうしましょう。今時この手の物はネットショップで買えますし、便利になりましたよねぇ」

「アリスにとっては最高だな」

「ええ。家から出なくてもこういうものや家具が買えますし、その気になれば本当に家から出ずに生活出来そうです」


 インドアが極まったような会話をしつつ、アクセサリー置きを選んでいく。

 飾るものが今日買ったアクセサリーだけなので、大きな物は必要ない。

 あっさりと選び終わり、一息つく。


「ふふ、これでリビングに飾れるんですね」

「この家はインテリア系の物とか置いてないし、そういう点でも良い買い物だな」


 身に着けずともリビングのインテリアとして価値があるのなら、最高アクセサリーだ。

 今まで興味はなかったものの、本当に買って良かったと顔をほころばせる。

 亜梨栖はというと、飽きもせずアクセサリーを眺めていた。


「綺麗ですね……」


 手の平に乗せたアクセサリーを眺める亜梨栖の横顔が、あまりにも幸せに満ちていて。

 一つの絵画のような光景を、悟は目に焼け付けるのだった。





 デート後はいつもと変わらず、のんびりとした時間を過ごした。

 そして就寝となったタイミングで、亜梨栖がおずおずと口を開く。


「あの、ゴールデンウィークですし、一緒に寝てもいいですか?」


 理由にすらなっていない理由だが、亜梨栖は離れたくないのだろう。

 何とか一緒に寝ようとする姿が微笑ましく、悟の頬が勝手に緩む。


「……そうだな。ゴールデンウィーク、だもんな」

「で、では……」

「前と同じでいいなら、好きにしてくれ」

「はい!」


 理由など無くとも良い。単に傍に居たいならそれでいいのだ。

 それに、悟は既に何度か亜梨栖と一緒に寝ている。今更否定するのもおかしな話だろう。

 満面の笑みが眩しく、彼女に背を向けて自室に向かう。

 ベッドに入ろうとすると「えい」という気合の入った声と共に、背中に強い衝撃が走った。


「は? え?」


 ベッドに倒れ込み、すぐに体を起こそうとする。

 しかし、仰向けになったタイミングで押し倒された。


「ふふー。油断大敵です。寝る時は前と同じなら、それまでは好きにしていいですよね?」

「あー、そういう事か」


 亜梨栖が悟にまたがり、子供のように無邪気な笑みを浮かべる。

 確かに寝る際は背を向けるが、それ以外の条件は出していなかった。

 計算高い少女に呆れつつ、体の力を抜く。


「何されてもいいんだな?」

「今更それを言いますか? 兄さんがしたいなら喜んで、ですよ」

「……そう言えばそうだった」


 既に覚悟を完了している亜梨栖に、手を出すという脅しは通じない。

 ただ、彼女もこの状況で襲うつもりはないらしく、思いきり倒れ込んで悟の腕に頭を乗せた。


「んー。最高の枕です」

「時間制限ありだけどな」

「無期限延長でお願いします」


 何の目的もない、ただふざけ合うだけの会話。

 心地良い空気の中、眠くなるまでそんな会話を続けるのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なるほど、インテリア化するならいつでも視界におさめられるというわけですね [一言] お互いにほぼ遠慮なくなってるからもはやバカップル…
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