表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
113/122

第113話 ずぶ濡れの提案

「これはもうずぶ濡れだな……」

「でも涼しくて気持ちいいですよね?」

「まあ、確かにな」


 公園を再び一周する頃には悟も亜梨栖ありすもずぶ濡れになっていた。

 そんな状況でも彼女は楽しそうに笑んでおり、暑さによって無くなっていた元気を取り戻している。


「子供の頃には出来なかったですけど、濡れるだけでも結構楽しいですね」

「今だからこそ許せたけど、普通は子供がやる事なんだけどなぁ……」


 雨の中ではしゃぐなど、小学生がする事だ。

 とはいえ昔なら危ないと言って、悟や亜梨栖の母である奏が許さなかっただろう。

 流石に今の亜梨栖ならばこの程度何も問題ないし、悟も童心を思い出すようで悪くない。

 なので肩を竦めつつ苦笑すれば、亜梨栖がくすりと意地悪気に目を細めた。


「偶には子供になってもいいでしょう? 兄さんも楽しんでるくせに」

「そう言われると否定出来ないな」


 隠す事でもないので素直に肯定し、公園を後にする。

 子供ではない男女がずぶ濡れで歩いている姿は、他の人にどう映るのだろうか。

 少なくとも驚かれるだろうが、幸い誰ともすれ違わずマンションのエントランスに着く。

 後はエレベーターで上がるだけなのだが、明るい場所に来た事で亜梨栖の状況にようやく気付いた。

 こんな姿の恋人など、誰にも見せたくない。少なくとも男には絶対に。


「誰にも会わなくて良かった……」

「そこ、気にする所ですか?」


 ホッと胸を撫で下ろす悟とは対照的に、亜梨栖がきょとんと首を傾げる。

 はしゃぎ過ぎて気付いていないのか、あるいは悟が指摘しなかったからか、全く理解出来ていないらしい。

 どうせ後で気付かれるはずだし、亜梨栖が進んで濡れ始めたので、指摘しても怒らないだろう。


「気にするに決まってるだろ。ピンクとはまた目立つ色を選んだなぁ」

「はい? 私の服は青なんですが――っ!」


 視線を下に向けた事で、自らの様子に亜梨栖も気付いたらしい。

 今の時期に厚着をする人はいないし、ましてや散歩という事で薄着だったのだ。

 そんな状況でずぶ濡れになれば、ワンピースが透けて下着が見えてしまう。

 普段は悟を誘惑する亜梨栖だが流石にこれは予想外のようで、頬が一瞬で真っ赤に染まった。


(濡れた女性って色っぽいなぁ……)


 誇れる事ではないが、亜梨栖がいつも無防備にくっついてくるせいで、悟は彼女の下着を――主に肩に掛かる紐だが――見る事がある。

 勿論もちろんその度に指摘するものの、亜梨栖は「兄さんなら見て良いですよ」と言うだけだったのだ。

 結果としてその度に悟の心臓が虐められているが、ある程度は耐性がついたと思っていた。

 しかし下着が透けて扇情的になっている亜梨栖を見て、どんどん体に熱が集まっていく。

 美しい銀髪が肌に張り付いており、艶めかしい雰囲気を出しているからかもしれない。あるいは、透けた下着というものが原因なのか。

 何にせよ、今の亜梨栖は悟の理性を全力で揺さぶってきて危険過ぎる。


「そ、そうですよね。そりゃあそうなりますよね……」

「……暗がりだったとはいえ、ここに来るまで気付かない俺らも俺らだけどな」

「う……。だって、楽しかったんですもん」

「分かってるって。取り敢えず、誰かに見られないうちに帰るぞ」


 恥じらいに瞳を伏せる亜梨栖があまりにも愛らしく、どくりと心臓が高鳴ってしまった。

 必死に体の熱を逃がし、そそくさとエレベーターに向かう。

 運よく一階に止まっており、誰にも会わずに帰って来れた。


「ふー、何とかなったな」

「はい、危なかったですね……」


 お互いに大きな溜息をつき、安堵で胸を満たす。

 服と靴が濡れているのですぐに部屋へ上がれず、狭い玄関で肩を寄せ合っていた。


「濡れるのは楽しいけど、程々にしないとな」

「ですねぇ……。兄さんにラッキースケベを提供するのは悪くないですが、他の人に見られたくないです」

「……滅茶苦茶恥ずかしがってた気がするんだが?」


 思いっきり赤面していたのに澄まし顔をされたせいで、つい突っ込んでしまった。

 再び頬を朱に染め、亜梨栖がじろりと悟を睨む。

 

「うるさいです。黙ってください」

「はいはい。取り敢えずアリスは風呂に入ってくれ。俺は体を拭くからさ」


 万が一の為に風呂を沸かしていたが、大正解だった。

 こういう時は女性からだと思うのに、亜梨栖はむっと唇を尖らせる。


「駄目です。風邪を引いたらどうするんですか?」

「でも二人共濡れてるし、どっちかは後になるだろうが。こればっかりは譲るつもりないぞ」

「別に譲る必要なんてありませんよ。もう何度もしてるいい方法があるじゃないですか」

「え、今日もするのか?」


 何度もというのは怪しいが、亜梨栖の言う通り順番を決めないで風呂に入る方法はある。

 しかし、今でも悟は亜梨栖に理性を削られているのだ。

 最近亜梨栖と深く触れ合っているせいで理性が緩くなっているのもあり、我慢出来る自信がない。

 頬を引き攣らせつつ呟けば、先程揶揄(からか)ったお返しにか、彼女が茶目っ気たっぷりに笑む。


「はい。そうすれば一緒に体を温められるでしょう?」

「……一応聞くが、前と同じで水着を着るんだよな?」

「着る訳ないじゃないですか。もう私達は付き合ってるんですよ?」


 無垢な表情で首を傾げられると、悟の方が悪いように思えてしまう。

 しかし今回ばかりは流されず、本気で忠告しなければ駄目だ。

 華奢きゃしゃな肩を掴み、淡く微笑む少女を真っ直ぐに見つめる。


「俺は男なんだぞ。襲うんだぞ。分かってるよな?」

「ええ。よく分かってます。覚悟だって、とっくに出来てるんですからね」


 甘さを滲ませた柔らかい声だったのに、何を言われても意志を曲げないという決意が伝わってきた。

 淡く頬を紅潮させて、緩んだ口元をそのまま曝け出した笑みが、悟に最後の一線を越えさせる。


「前に言いましたよね。したいんだって」

「後悔、するなよ?」

「私が兄さんに触れてもらえるのに、後悔すると思いますか?」

「……………………しないな。取り敢えず、風呂と飯を済ませるか」


 散々悟を誘惑し、先へ進ませようとしていたのだ。体を重ねても後悔するはずがない。

 もう覚悟を決める時だと納得して、言葉の裏で準備を促した。

 亜梨栖は悟の意思をしっかりと汲み取り、たっぷりと蜜を含んだような笑みを見せる。 


「ですねぇ。お楽しみは最後の方がいいですから」

「それ、普通は俺が口にする言葉なんだよなぁ……」


 こういう時ですらいつも通りな亜梨栖に溜息をつき、脱衣所へ向かうのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 押せ押せアリスたん実は無意識誘惑だったのがよき [一言] ちゃんと利用して次に繋げたアリスちゃん、これには悟も降参した模様。 これでアリスの不安も払拭か!ワクテカワクテカ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ