657.堕天使の過去(8)
追放ざまぁが読めるのは10.11話と20〜30話です!
――今から、三十年前。
乾いた風が吹き抜ける荒野で、二つの影が向き合っていた。
片方は、堕天使ルシファー。
もう片方は、旅装のまま立つ魔族の青年。
後に三大闇ギルド《グリムリペア》を束ねる存在となる――魔族。
この時点では、まだただの強い旅人にすぎない。
二人は衝突し、空気が裂け、地面がめくれ上がり、視界が白く弾けた。
そして――
結果は、明白だった。
「……なかなか、やるじゃない。堕天使くん」
キュリアは肩で息をしながら笑顔で言う。一方、ルシファーは膝をつき、荒野に片手を突いていた。
「ぐっ……バカな……」
喉の奥から、悔しさが漏れる。
「魔族とはいえ……人間が……どうして、ここまで……」
ルシファーは驚いていた。いや、混乱していたと言った方が正しい。
キュリアは胸元に手を当てた。
「深淵の闇魔法だよ。簡単に言うとね、闇と一体になる魔法なんだ。自分の闇に、全部身を預ける感じかな」
深淵の闇魔法。ルシファーは初めて聞いたと言わんばかりの顔をする。
「闇魔法と相性が良い人間なら、一気に強くなれる。ボクには……まあ、ちょうど良かった」
軽い口調。だが、その奥にあるものは、決して軽くない。
ルシファーは、ゆっくり顔を上げた。
「……そんな魔法が……存在していたとは……やはり……人間は……面白い」
その言葉は、賞賛か、危惧か。
自分でも判別がつかない。
キュリアは、少しだけ表情を曇らせた。
「でもさ」
一拍置く。風の音が、妙に大きく聞こえた。
「この魔法、誰でも使えるわけじゃない」
彼は、自分の影を見下ろす。
「本気で使いこなすにはね。自分の中の闇と、ちゃんと向き合わなきゃいけない」
自身の闇。嫉妬、憎しみ、後悔、恐怖。
「それができないと……」
キュリアは、笑わなかった。
「闇に、喰われる」
短い言葉。だが、重い。
「……喰われると……どうなる?」
ルシファーの声は、低かった。
「人格が、ひっくり返るんだ。表に出るのは闇。元の自分は……奥に沈む」
キュリアはまるで、湖に石を落とすみたいに波紋だけを残した。
「戻す方法は?」
「…ボクにも、わからない」
少し、無責任に聞こえる。だが、嘘はない。
沈黙が落ちる中で、ルシファーは問いを投げた。
「……なぜ、それを俺に教える」
キュリアは一瞬、考え――そして肩をすくめた。
「んー……カンかな?」
あっさりしている。
理由になっていない。
「ボクのカンはよく当たるんだよね!」
その言葉は、冗談のようで妙に核心を突いていると感じたルシファーは、深淵の闇魔法を、さらに詳しく聞いたのだった。
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