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651.堕天使の過去(2)

追放ざまぁが読めるのは10.11話と20〜30話です!

 ラファエルの報告が終わると、次に前へ出たのは――ガブリエル。


 頭部を斜めに貫く、左右非対称の鋭い角。

 まるで情報の流れを受信するためのアンテナのように、常に微細な振動を続けている。


 彼の多眼は高速で蠢き、個々の瞳孔が異なる光景を同時に映していた。


 神の言葉を伝達する者。だがそれは、意志の翻訳ではない。


 神の意志を、意味を削ぎ落とした命令文へ変換する装置。


「神意伝達完了。信仰残量、安定値を維持」


 その声に感情はない。彼自身の思考は、すでに信仰という鎖の内側で固定されていた。


 次に圧を放つ存在が、一歩前に出る。


 ――ミカエル。


 王冠のように頭部を覆う巨大な角。  多眼の視線は一点に収束し、視界に映る全てを敵か否かで切り分ける。


 天界最強の戦力。神の存続を脅かす存在を排除するための剣。


「反抗兆候なし。魂収穫率、想定内」


 その言葉は、粛清報告であり、神への供物の進捗報告でもあった。


 神は人を導かない。神は人の魂を喰らう。


 信仰とは、魂を差し出すための檻だ。


 柔らかな光を帯びた天使が続く。


 ――ウリエル。


 炎を思わせる揺らめく角。多眼の奥には、わずかに思考の残滓が見えた。


 真理と裁きを司る天使。神の命令に意味付けを施し、正当性を与える役割。


「人間は依然として矛盾を孕んでいます。ですが、その矛盾こそが信仰を深める触媒となります」


 矛盾は排除対象ではない。利用対象だ。


 神にとって、人間の苦悩は最良の養分だった。


 静かに佇むのは――イェグディエル。


 直線的で無機質な角。多眼は上下に分かれ、常に数値を天秤にかけている。


 功と罪を測る管理者。だがその基準は、善悪ではない。


 魂の価値だ。


「本日の魂回収量、基準値を上回っています」


 それは祝福ではなく、収穫報告だった。


 次に進み出るのは――バラキエル。


 後頭部から羽根のように広がる角。 多眼は輝いているが、その光は冷たい。


 祝福を司る天使。繁栄を与えるが、それは魂を肥えさせるため。


「祝福工程、継続。成熟個体の魂は安定した品質を示しています」


 祝福とは、飼育だった。


 そして最後。


 空間そのものが、わずかに沈む。


 純白の翼を持つ天使たちが、無数の輪を描きながら後退し、中心へ道を開く。


 降り立つ一人の男。


 背に浮かぶ黄金の輪。光そのものを歪める圧倒的な存在感。


 頭部には、他の誰よりも複雑で美しい角。  多眼は静止し、過去と未来を同時に映している。


 ――サラフェエル。


 七大天使の中で、最も思慮深い存在。


 そのせいか彼の視線だけが、違っていた。


 人間界を見下ろすその瞳には、数値でも、収穫率でもないものが浮かんでいる。


 疑問。

 違和感。

 理解不能という名のノイズ。


「……監視では足りない」


 その声が発せられた瞬間、天界の層が軋む。


「人間は、魂を差し出す装置ではない」


 ミカエルの角が、わずかに震えた。  ガブリエルの情報処理が一瞬遅延する。


「彼らは、なぜ苦しみながらも祈る。なぜ報われぬと知りながら信じる」


 サラフェエルは、神の座の方向を見上げない。 ただ、人間界を見つめていた。


「理解が必要だ」


 その言葉は、天界の定義に存在しない概念だった。


 理解は不要。信仰さえあればいい。


 神にとって、人間は導く対象ではなく、喰らう対象なのだから。


 その瞬間。


 概念の塔が、わずかに回転速度を変えた。


 記録開始。逸脱兆候、検知。


 この時点で、サラフェエルはまだ知らない。


 この疑問こそが、後に彼をルシファーへと変える、最初の亀裂であることを。

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