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650.堕天使の過去(1)

追放ざまぁが読めるのは10.11話と20〜30話です!

 ここは今から数万年前の天界。


 だが、人間が想像する「楽園」とは程遠い。


 空は存在しない。

 あるのは、上下の概念すら曖昧な、無限に重なり合う白と金の層だけだ。


 雲ではない。霧でもない。


 それらは思考と光が結晶化したものであり、触れれば音もなく分解され、再構築される。


 大地もまた、固定されていない。


 足元には幾何学的な紋様が浮かび、天使が一歩踏み出すたびに、神代文字にも似た光の式が展開し、次の足場を生成する。


 遠方には、巨大な輪状構造物が幾重にも浮かんでいる。

 都市でも、建造物でもない。


 ――それは概念の塔。


 「観測」「裁定」「記録」「命令」

 それぞれの役割を持つ領域が、輪となって重なり、ゆっくりと回転している。


 回転音はない。

 代わりに、耳鳴りに似た神の意志が常に空間を満たしていた。


 この世界に、沈黙は存在しない。


 時間もまた、直線ではない。

 過去と未来は薄く折り重なり、天使たちは必要に応じてその層を踏み越える。


 だからこそ――

 彼らに「迷い」は不要だった。


 感情は処理誤差。

 疑問は不具合。


 そう定義されている。


 地上界、精霊界、魔界、冥界とは隔離された天使族だけの世界--それが天界だ。


 その天界の中央。


 純白の翼を持つ天使たちが、幾十もの輪を描くように宙に浮かぶ。


 彼らの影は地面に落ちない。

 代わりに、光そのものが影として歪む。


 そして、その中心へ――



「我々、天使族は、神の使いであり神の下僕。本日も人間を監視せよ」


 無機質で感情の温度を感じさせない声が、白い空間に反響した。


 純白の雲海の上。光で編まれた大地に、七つの影が並び立つ。


 ――七大天使。


 彼らには共通点がある。

 全員が雪のように白い肌を持ち、髪は存在しない。


 その代わり、頭部にはそれぞれ形状の異なる角が生えており、結膜は漆黒に塗り潰され、複数の瞳孔が浮かぶ多眼化した眼が、常に世界を見つめていた。


 感情は不要。

 疑問は罪。

 彼らは見るために存在する。


 最初に一歩前へ出たのは――ラファエル。


 額から後方へ流れるように伸びた、螺旋状の角。

 その眼は静かで、慈愛すら錯覚させるほど穏やかだった。


 彼は癒やしを司る天使。

 人間の病を観測し、死を自然現象として記録する役目を担う。


「人間の寿命に変化なし。苦痛指数は許容範囲」


 癒やすが、救わない。

 彼にとって命とは、管理対象でしかなかった。

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