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箱庭幻想譚―異世界に転生した私の幸せになりたいと願った物語―  作者: 物部 妖狐
第三章 薬国での出会い

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謎の視線

 何時までも国の境目にいてもどうしようもないから、メイディに足を踏み入れてはみたけれど、何だか変な感じ。

何が変な感じって……


「……見られてる?」

「シャルネもそう思うか?」

「……うん」


 森へと足を踏み入れてからずっと、誰かに見られてるような気がする。

こう何て言うか、上下左右?360度?そんな様々なところから視線を感じて気持ちが悪い。

周りには動物の気配すらないのに……


「カーティス、おまえはどう思う?」

「どう思うって言われても、見られてるだけなら気にする必要無いんじゃないかな」

「んー、でも何か見られてるのって嫌じゃない?」

「けど今のところは何かされたとかは無いんだから、気にしすぎない方がいいと思うよ」


 カー君はそう言うけど、やっぱり誰かに見られてるのは嫌だなぁって、特に下からも見られてるってなると、スカートの中とかも丸見えになってるわけで……。

いや?でも、着ている服がゴスロリ系だから陰になって見えないかも、そう思うと大丈夫なのかな、大丈夫だよね?うん、たぶんきっとそう。


「確かにそうかもしれないけど、どうにもこの視線が苦手なんだよなぁ……こうねっとりとしてて嫌らしいって言うか、人の事を品定めしているようにでムカつくって言うか」

「……品定め?」

「あぁ、分からないのならしょうがないか、ただ……いつまでも監視されてんのは気に入らねぇな」


 そう言葉にしたゼンさんが、腰に差している二本の剣に手を添えると……勢いを付けて抜き放つ。

一本はそのまま振り切った後に身体を回転させながら、その場に落として止まると同時に二本目という形で動くと……


「……気を付けろよ?下手に動いたら下敷きになるぞ」

「……え?」

「ゼン、随分器用な事をするね」

「ちょっと二人とも、何の話をしてるの?」

「あぁ、だから動くなって……しょうがねぇなぁ」


 ゼンさんがいきなり私の肩を掴むと、そのまま力強く抱きしめる。

彼の行動に理解が追い付かなくて思わず身体が固まってしまうと同時に、周囲の樹木が音を立てて倒れて行く。


「……え?へ?あ、あのゼンさん!?」

「な?動かなくて正解だったろ?」

「あの、いったい何をしたの?」

「何をしたって、俺の特性『斬』について話したろ?俺が斬れると思ったものは距離とか関係なく斬れる、つまり……だ、俺達以外の周囲で視線を向けて来る奴を斬ったんだよ」


 何か説明をしてくれてるのは分かるんだけど、正直抱きしめられている事の方に思考が寄ってしまって聞いたのはいいけど、内容が何一つとして入って来ない。

取り合えず恥ずかしいから今すぐにでも話して欲しい……、だって鍛えられた逞しい体に抱きしめられてるのもそうだけど、ここ数日の間、身体を拭いたりとかも出来て無かったから匂いが気になる。

個人的にはゼンさんの匂いは嫌いじゃないよ?ほら、獣みたいなっていうか野性的なっていうか、そんな感じがして気になる感じがして、力強さの中に安心感があるし。

でも、私の匂いは何て言うか……どうなのかは分からない、彼からしたら臭いかもしれないし、もしそうだったら抱きしめられて嫌な思いをさせちゃったらやだなって感じで……ね?。


「ゼン、シャルネが何か抱きしめられた状態でもじもじしてるから離してあげなよ」

「……え?あぁ、まじか」


 でも、もしゼンさんからしたら良い匂いだったら、このまま抱きしめられたまま


『この匂い、俺好きだな……ずっとこのまま抱きしめて嗅いでいたい』


 とか言われちゃったりして!でもそうしたら、カー君にも見られてるし……誰かに見られた状態でそんな事をしたら、恥ずかしい。

でも……そういう欲を直接ぶつけて来られるのもなんかいいな、あっ考えただけで涎が出そう。


「……ふひ、ふへへ」

「うわっ!おまえまじかよっ!きったねぇ!」

「……あっ」


 既に涎が出てしまっていたみたいで、ゼンさんが驚いた声を上げながら私から離れる。

もうちょっとこのままでいたかったから、少しだけ残念かも……。


「うわぁ……服が涎だらけじゃねぇかよ、折角カーティスが覚えた術で綺麗にしてくれたのによぉ」

「え、あの……ご、ごめんなさい?」

「カーティス、悪いけどもう一回さっきのお願い出来ねぇか?」

「あれは疲れるから、せめて一週間に一回くらいしか使いたくないかな」

「まじか、って事はこの服……暫く涎まみれの状態かよ」


 ゼンさんが涎の付いた服を脱いでバッグの中にしまうと、中から汚れが目立つ服に着替え始める。

あぁ……何かこれで抱きしめられるのはやだなぁって思いながら見ていると、倒れた樹々の向こう側から何やら音がして……。


「あの、二人とも……何か音がしない?」

「ん?あぁ……もしかして、俺が樹を切り倒したせいで、モンスターとかを読んじまったのかもなぁ」

「いや……そうじゃないと思うよ、この気配はどうやら俺達と同じ人だと思う」

「……なるほど、現地人との遭遇って奴か、それなら元気に出迎えてやらないとな」


……元気に出迎えるって、こんな状況でどうやって?って思うけど取り合えず手を振っておけばいいのかな。

そんな事を考えながら、近づいて来る音の方向に目を向けると鮮やかなワインレッドの髪を生やした少女が、倒れた樹々の隙間から顔を出すのだった。

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