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箱庭幻想譚―異世界に転生した私の幸せになりたいと願った物語―  作者: 物部 妖狐
第二章 修行、そして旅に出る

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旅立ちの前に

「って事で、カーティスも帰って来たという事はもう準備は出来たんだろ?」

「もちろん、色々とやる事はやったから後は特にやり残した事はないね」

「……色々とやる事?」

「夫婦となったらやる事は一つしかないよね」


 ゼンさんが勢いよくカー君の頭を叩く。

良い音がしたなぁとは思うけど、夫婦となったらやる事は一つって言う時点でさすがに私も察してしまう。

そういうのは……うん、あんまり言わない方がいいんじゃないかなぁって思うけど、あれこれ言うのは良くない気がする。

だって……彼の事だから詳しく説明しだすと思うし、そうなったら気まずいというか生々しすぎてどんな顔をすればいいのか分からなくなりそう。


「カーティスおまえ、いきなり何言ってんだよ」

「こういうのはちゃんと報告するべきじゃないかなって」

「報告された側が気まずいから止めろって、もし俺が旅の準備ついでに遊女と遊んで来たって言い出したらどうすんだよ?」

「……え?ゼンさんが女の人と遊んで来たら、私が殺すよ?」


 反射的に言葉が出てしまった。

それに反応して二人が急に真顔になると、身体をびくっと震わせる。


「何でシャルネが反応すんだよ、てか……殺すって怖いから止めろ!」

「……さすがに今のは俺も怖かったよ」

「……え?」

「感情を乗せずに真顔で言われるとここまで怖いんだな……」

「俺も……、奥さん達を怒らせないようにしないとって改めて思ったよ」


 怒らせないようにって言われても、あそこまで大量に奥さんがいたら無理なんじゃないかな。

……性格の不一致とかってあると思うし、そうなったら女同士の喧嘩もあると思う。

ほら、女性って表面上は凄い仲良くしてても、内面はドロドロしてたりもするし……喧嘩となったら陰湿な事をする人もいるから、大変そうだなって言うか。

でも……カー君の事だから、そう言う事をさせないんだろうなぁっていう気がしてしまう。

だって、沢山の奥さんと子供がいて全員の面倒をしっかりと見て、心身ともに支えてあげてるんでしょ?それって凄い安心出来ると思うし、女の人ってなんていえばいいのかな、相手に求めるのは人それぞれ色々とあるけど一番は、一緒にいて安心出来るかどうかだし。

それがお金だったり、その人の人柄だったりと勿論それに関しても皆個性が出るけど、カー君ならその容姿を利用して金銭的にも人柄的にも両方満たしそうな器量を感じるもの。


「いや、おまえはそもそも嫁が多すぎんだから、今更じゃねぇか?」

「今更って酷いな、俺と彼女達はお互いに合意の元だからね」

「良くそれで怒られねぇよなぁ……、あ、そういや首都に来るまでの間も何だっけ?立ち寄ったあの場所で新しい妊娠中の嫁さん捕まえたろ?あれとは仲良くやってんのか?」

「もちろん、ちゃんと子供も生まれて、俺の血は繋がってはいないけれど嫁達全員で仲良く育ててるよ」

「……何て言うか、凄いよねぇ」


 けどカー君の奥さん達の話を聞く度に、余りにも私の常識から離れすぎているせいで……どんな顔をすればいいのか分からなくなる。

でもまぁ、考え過ぎてもしょうがないから、早くこの話題が終わらないかなって感じ。

そんな私の気持ちを察してくれたのか、ゼンさんが頭の後ろを掻くような仕草をすると


「とりあえず問題無いのは分かった、んじゃあこれ以上は特にやることはないみたいだし、夜になったら出発しようぜ?」

「え?明日の朝じゃないの?」

「明朝の出発になったら、誰かに見られてるかもしれないだろ?栄花は国としては平和な方だけど、他国の密偵が潜んでいる可能性があるからな……それを考えたら今日の夜に出た方がいい」

「……ゼン、夜に出るのは分かったけれど、逆に密偵がいた場合夜間の出立をあちら側は警戒するんじゃないか?」

「ばぁか、それを視野にいれて態と夜に出るんだよ、俺達を追って来る奴がいたら殺っちまえばいいだけだろ?」


 二人して何だか物騒な話をしているけど、これに関しては私が口を挟んでも分からない内容だから任せてしまおう。

だって密偵がーとかいきなり言われても現実感が無いし、それならほら、私の護衛として旅に同行してくれているゼンさんとカー君に全て任せてしまった方がいいよね。

その方が間違いは無いだろうし、何かあっても守ってくれるんだから。


「君のそういう性格が悪いところ、俺は嫌いじゃないけど……、この話を本当に要るかも分からない密偵に聞かれてる可能性があるとは思わないのかい?」

「ん?あぁ、そこんとこは大丈夫だ……、ほら外に俺が滞在してる事を示す布が着いてないだろ?昨日、武器の手入れをして貰いに家を出る際にとっておいたんだよ」

「……ゼンさん、布が無いとどうして大丈夫なの?」

「あれは一種のセイラが術式になっててさ、布があると結界が解けて誰でも入れるようになって、布が無いと俺と親しい間柄の奴以外は入れなくなるんだよ」

「へぇ……」


……つまりセイラさんのおかげで今の私達の会話は外に漏れなくなっているという訳で、そう思うと首都に来てからお世話になってばかりで、嬉しい反面、そんな彼女からゼンさんを奪うような事をしてしまって少しだけ申し訳ない気持ちになる。

けど、これから旅に出て一緒の時間を彼と過ごす以上、セイラさんが安心できるようにゼンさんを守れるように強くなろう。

そんな事を考えながら、旅立ちの夜まで話しながら時間を潰すのだった。

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