ちょっとしたやきもち
ゼンさんが嬉しそうに二本の剣を抱えて家に帰って来た。
それはまるで、愛しの恋人に接するかのように優しくて何て言うか、相手は武器なのに少しだけ嫉妬してしまいそう。
ほら……頭の中であの剣を男性としてイメージすると、ゼンさんが二人の屈強な男性を抱きかかえて来たように見えて、興奮……いや、ちょっと嫌だというかそんな感じ。
ほら、帰って来たら私という超絶的な美少女とセイラさんが出迎えてくれるというのに、誰よこの男っ!って、あれ?全然言ってる事が分からない?そんな……分かるよね?
「ちょっとゼン!武器の調整にどれだけ時間掛かってるわけ?シャルネが寂しがってたじゃない?」
「……シャルネが?、その割には何か凄い残念な顔してるけど?」
「……え?、う、うわぁ」
二人して凄い残念な物を見たかのような表情をして私の事を見るけど、別にゼンさんが屈強な男性二人にいいようにされて、人様に見せられないよ的な状況になっている事何て想像していない。
断じて、絶対、そう……多分、いいえ、きっと!していないと神である両親、天神と魔神に誓ってもいいくらいに!
「あなた、その表情……本当に残念だから止めた方がいいわよ?」
「わ、私そんなに酷い顔してる?」
「酷いどころか、シャルネの見た目に惚れてる奴がいたら間違いなく恋心が覚めそうだなって感じる位にはヤバいと思うぞ?」
「……えぇ?」
二人からそこまで言われると少しばかり傷つきそうになる。
私としてはそこまで酷い表情をしているとは思わないんだけど……、少しは気を付けた方がいいかもしれない。
「けどまぁ、そういうところも含めてシャルネはシャルネだからな、俺は別にいいと思うぜ?」
「あんたねぇ……しれっと、そんな事言うんじゃないわよ」
「ん?なんか変な事言ったか?」
「変な事も何も、そう言う事を言ったら相手がどう思うかとかなんも考えてないし、相手によっては勘違いさせて面倒な事になるのが分からないわけ?」
「勘違いも何も……、思う事があったらはっきり言った方がいいだろ?」
確かに今のゼンさんの言葉には凄いドキっとした。
厳密にはキュンってしたって言う方が正しいのかもしれないけど、不意打ちでそういう事をされると、心臓に悪すぎる。
ほんっと、なんで自覚しないでそんな事が出来るんだろう。
「これだからあんたは……、私が当時どんだけ苦労したか知らないで良くもここまで言えるわね」
「ん?あぁ、それは悪かったな、けど俺はこんなんだから諦めてくれ」
「もう諦めてるわよバカ」
「ならいいじゃねぇか……」
「ごめんねシャルネ……、ゼンってこういう奴だから旅の道中大変だと思うけど、出来れば尻に敷いてあげてね?」
尻に敷いてあげてって言われても私に出来るだろうか。
色々と不安だけど……セイラさんに頼まれた以上やれる範囲で頑張ってみようかなって思う。
「頑張っては見るけど出来るかな……」
「何を言ってるの、栄花の男子は女の尻に敷かれてなんぼよ?」
「おいおい、俺とシャルネはそんな関係じゃねぇぞ?」
「旅の道中で誰があなたにご飯を作ってくれると思ってるの?シャルネでしょ?だからあなたは黙って尻に敷かれてなさい!」
あれ?何だかこれって喧嘩が始まりそう。
今のうちに少しずつ距離を離して、ゆっくりとフェードアウトした方がいいかもしれない。
いや……ゼンさんに会えたのは嬉しいけど、喧嘩に巻き込まれるのはやだし。
「俺も飯くらいなら作れるぞ?」
「……ゼンさんの料理は、食材の味しかしないというか焼いて終わり!が多いからちょっと」
「別に食えれば何でもいいだろ?」
「過酷な旅なんだからせめて、食事くらい楽しみなさいよ……変わりにあんたは道中で、カーティスにシャルネの護衛を任せて狩りとかして食材の確保でもしなさい」
あ、ダメだこれ……逃げようとしたら、セイラさんが私の方を見て来るから、逃げられない奴だ。
残念だったな、彼女からは逃げられないって言う流れだこれ……、でも確かにゼンさんは調理担当って言うよりも、食材確保の方がいいよね。
後はカーくんも、料理は出来るけど……確かに役割的には護衛の方がいいかも。
「何でそこまでセイラ、おまえに言われなきゃいけないんだよ」
「そりゃ……あんたの事が心配だからよ」
「だからそういうのがいつもお節介だって言ってんだろ?俺には俺のやり方があんだから一々突っかかってくんなよ」
「あ、あんたねぇ!シャルネからもなんか言ってやってよ!」
……なんか言ってやってって言われても、目の前で仲睦まじい夫婦の喧嘩みたいなものをみせられて、何を言えと言うのかな。。
ここで私が下手に口を出したらそれこそ、色々と話がこんがらがってめんどくさい事になるのは予想が出来るし、今までの二人のやり取りを見て学んだ事がある。
こういう時にでしゃばると巻き込まれて損をするって!それに……セイラさんは、私達が旅立ったら、暫くゼンさんに会えなくなるから、そういう意味でも今は二人の時間を大事にして欲しいなって思ってしまう。
けど……二人のやり取りが凄い羨ましく感じて、ちょっとだけ妬いてしまう私がいるのだった。




