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箱庭幻想譚―異世界に転生した私の幸せになりたいと願った物語―  作者: 物部 妖狐
第二章 修行、そして旅に出る

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セイラとマチザワ

 桜の樹に巻き付いたカー君がミシミシと音を立てて絞めつける。

そして毒の息を吐き出そうと口を大きく開いて、息を大きく吸い込んだ時だった。


「……爬虫類如きが、わっちの体に触れるなぞ、愚かなものじゃな」

「カーティス、避けろ!」

「……くぅっ!?」


 花弁が舞ったかと思うと、刃のように鋭い光を放ちながらカー君に向かって飛んで行く。

そして彼の身体を切り裂いて、朱い血の花が咲かせると、呻き声をもらして地響きと共に大蛇の巨体が地面に倒れ込んで動かなくなる。


「綺麗な花に触れると怪我をするのを知らんのか?愚かなものよのぅ」

「ふふ、残念だったわね……、まぁ最初からプリムラスグロリア様を狙うのは驚いたけど、まずはこれで一人……、後はあなた達二人よ」

「数はこちらが有利になりましたな!」


 セイラが、両手に持った二本の槍を構えて走って来る。

最初はゆっくりとした速さだったのに、徐々に速度を増して行き一筋の光になったかと思うと……


「シャルネ!ボケーっと突っ立ってんじゃねぇ!死ぬぞ!」

「え?」


 金属同士がぶつかり合う音がしたかと思うと、目の前に飛び込んだゼンさんが、双剣で槍を受け止めているのが見えて……


「私の韋駄天に対応するなんてさすがね」

「さすがも何も、最高速度に到達する前に潰せば怖くねぇよ……むしろ怖いのは、シャルネ!あの時森でやった時みたいに魔力を直接セイラに向けて飛ばせ!」

「え、あっ!うん!」


 プリムラスグロリアの分身達から奪った魔力を直接、投げるようにして飛ばすと、セイラを守るようにマチザワが地面を滑るように移動して盾で受ける。

そんな事をしても吹き飛ばされるだけだから無駄なのに……


「おぉ、凄い威力ですぞ!これはその衝撃を利用させて頂きませんとな!」

「シャルネ!マチザワの武器は剣じゃなくて、手に持ってる心器の大盾──」

「助言をするなんて余裕があるのね、私なんてあなたにとっては雑魚って事?」

「んな訳はねぇよ!おまえ等のヤバさは俺が一番知ってんだ!シャルネ!いいか、その盾に攻撃をしたら直ぐに距離を離せ!」

「そんないっぺんに言われても分から……、えぇ!?」


 大盾が魔力の塊に弾かれて高速で回転しながら飛んで行く。

瞬間、盾に繋がっている鎖がじゃらじゃらと音を鳴らしながら伸びると、マチザんが剣を地面に突き立てる。

そして、後ろに引っ張られる力に抗うように歯を食いしばったかと思うと剣を中心に身体を回転させて……


「側面から大盾が飛んできた!?」

「衝撃を遠心力に変えただけですぞ!」

「え、あ……どうし……、あっ!そうだ!」


 素手で受け止めたら凄い痛い気がする。

だから大鎌で直接叩き落してみよう……そう思って、勢いよく飛んでくる大盾に向けて刃を振り下ろす。


「……ぬぅ!?何て言う馬鹿力!」

「うっそ、マチザワのあの一撃を叩き落すとかどんな腕力してるのよ!」

「どんなって、そんなだよばぁか!カーティス!おまえ何時までやられた振りしてんだ!さっさと人の姿に戻って戦いやがれ!」

「結構傷が深いのに戦えという何て、結構人使いが荒いじゃないか」

「……っ!?」


 大蛇から一瞬で人の姿に戻ったカー君が、スコップを取り出すと地面に突き立て、地面を直接持ち上げてひっくり返す。

距離を離そうとしたセイラが、ゼンさんの妨害により脚を取られて体勢を崩して背中から転倒して武器を手放してしまう。

けど、咄嗟に身体のバネを使って起き上がろうとするけど、ゼンさんの容赦ない追撃で剣を肩に刺し動けないように固定した。


「……くぅっ!」

「セイラ、おめぇはそこで寝てろ!無理に動いたら腕が無くなるからな!」

「あんた……、嫁入り前の女を傷者にして!責任取って貰うから!」

「はぁ?責任も何も、この試験が終わったらババアが治すから傷跡も残らねぇだろ?」

「……バレたか、あぁあ!本気出す前にやられちゃったぁ!もう悔しぃ!!ごめんなさいプリムラスグロリア様、マチザワ!イチ抜けしちゃった!」


 セイラが悔しそうに声を上げると、身体の力を抜いてその場で大人しくなる。

それを確認したゼンさんが、剣を手放すと彼女が両手に持っていた槍を手に取り構える。


「な、なんと!?セイラが一瞬でやられるとは……、それにしてもカーティス殿、プリムラスグロリア様の一撃を受けて動けるとは、何という凄まじい耐久力!」

「わっちの巫女であるセイラが一瞬でのぅ……、実戦から離れすぎて鈍ったんじゃな

……確かにマチザワが言うように凄いのぅあの魔族、わっちのカウンターを受けて動けるとはのぅ」

「……これでも結構無理しているんだけどね」

「その割には余裕そうに見えるのは気のせいですかな?」

「全然余裕じゃないよ、けどさ……二人が頑張ってるんだから頑張るのは当然じゃないかな」


 真剣な表情を浮かべたカー君が小さく何かを呟くと、魔力で作られた紫色の毒霧が表れて、プリムラスグロリアに向かって行く。

肌に触れて爛れて行く姿が凄い痛々しいけれど、そこから直ぐに再生して元に戻ってしまった。


「毒なら君の防御は意味をなさないんじゃないかな、いくら防御力が高くても、こういうのは無理だろう?」

「……っ!こういう時セイラがいたら毒なんぞ、浄化出来るというのに!」

「バーカ!だからセイラから先に潰したんだろうが!おまえ等の戦い方を知ってるのがここにいるんだぜ?それなら対策を練るのは当然だろ!」

「かっか!良いのぅ……これはわっち等の作戦負けかもしれんなぁ……、だがのぅその程度の毒、蓄えた生命力を使えば怖くはないぞ?」

「この私、マチザワもおりますからな、簡単にはやられませ……ん、ぞ?」


 マチザワ、いや……マチザワさんの防御が硬くて、プリムラスグロリアにダメージを与える事が出来ないなら、【暴食と施し】を使って生命力を奪ってしまえばいいんじゃないかな。

そう思ってゆっくりと近づいて、肩に手を触れて能力を使う。


「身体の力が抜け……、ぐ、ふぬぅ!!」

「きゃ!」

「シャルネ殿、その程度では私はやられはせ──」

「うるせぇ、さっさと寝ろ、この耐久お化け」

「ぐふぅ!」


……何時の間にか背後に回っていたゼンさんによって投擲された短槍が、マチザワさんの背中に刺さる。

そして怯んだところを狙って組み付くと、首を絞めて意識を刈り取り無力化した後、『ババア、後はお前だけだ、俺達三人でこれからぼっこぼこにしてやるから覚悟しろ!なぁにが豊穣神だ!プリムラスグロリアとかっていう綺麗でカッコいい名前しながらも、やってることはただのビッチ神じゃねぇかよ!気持ち悪い!その精神叩き直してやるよ!』と、プリムラスグロリアさんに向けて言いすぎな言葉をぶつけるのだった。


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