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箱庭幻想譚―異世界に転生した私の幸せになりたいと願った物語―  作者: 物部 妖狐
第二章 修行、そして旅に出る

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そして試験当日

 この前の一件の後、数日間戦闘時コミュニケーション方法の練習についやして、ある程度は出来るようになったけど、正直実戦で上手く出来るのか自身が無い。

もしもの時は私に合わせてくれるって二人が言っていたけど、それってなんか迷惑を掛けているような気がして嫌だなぁ。

勿論私がちゃんとやる事をすればいいだけなんだけど、ほら本番には魔物が住むって言うじゃない?、だからどんなに頑張ったり気を付けたりしても何が起きるか分からないのは不安。


「んじゃ、そろそろ行くぞ?」

「シャルネ、心の準備は出来たかな?」

「心の準備の方は微妙かも、本番で失敗したらどうしようって考えちゃって……」

「最初から失敗したらどうしようとか考えてたら、何も出来ないだろ?」

「そうだけど……やっぱり、不安になるよ」

「……難しく考えないでいいよ、もしもの時は俺やゼンがカバーするからさ、何かあった時に助け合うのが仲間だからね」


 ゼンさんやカー君が私の不安を和らげるように色々と言ってくれる。

その気持ちは嬉しい、でも将来的に……出来れば私が二人をサポートできるようになりたい。

じゃないと対等な関係にはなれないと思う、勿論これが私の考え過ぎで、二人はそんな事を気にするような人ではないって分かってはいるけど、不安になるのはしょうがないと思う。

だってさ、今までまともな戦闘を経験した事無いし……


「そんな不安そうな顔すんなって、取り合えず皆必要な物は持ったし、神社に行こうぜ?」

「……うん」

「シャルネ、今はあれこれ考えないで大丈夫だよ、俺達は出来る限りの事をやったからね、後は結果を出すだけ……その事にのみ集中しよう」

「だな、仮に今回ダメだったとしても、また次挑戦すればいいんだよ、だから安心しろって」


 二人の声を支えられながら家を出ると、寄り道をすることなく真っすぐに神社に向かう。

ただ不思議な事に……、道中誰ともすれ違う事が無くて、不気味な事に空を飛ぶ鳥の鳴き声や首都で飼われている動物達の気配も感じない。

まるで私達だけしかいない、ゴーストタウンに迷い込んでしまったような感じがして不気味な感じ。

それだけじゃなくて、ゼンさんが急に立ち止まるとその場で腰に差している二本の剣を抜いて構えて……


「……おいおい、試験は神社に到着してからじゃなかったのかよ」

「ゼンさん?」

「シャルネ、君はまだ分からないと思うけど、囲まれてる」

「え?カー君?」


 カー君も農具を取り出すと両手に持って構える。

囲まれてるって言われても、試験を担当してくれるのはプリムラスグロリアさんとマチザワさん、セイラさんの一柱と二人でしょ?だからそんな沢山の人に包囲される事何て無いと思うんだけど……。


「……シャルネ、お前も構えろ」

「え、うん」


 私も大鎌を取り出して構えると、周囲の建物から桜色の髪に綺麗な薔薇色の瞳をした人達が出て来てゆっくりと歩いてくる。

その姿を見て思い出した、プリムラスグロリアさんは自身の能力で沢山の分身を作る事が出来る事を……、これは何て言うか良くあるホラー映画あるあるの大量のゾンビに襲われる光景が脳裏に浮かんで、何て言うか少しだけ緊張感が和らぐ。

だって、顔を見ると分かるんだけど、自分の意思が無いみたいでまるで予め指示された命令に従うだけみたいだし全然怖くない。


「シャルネ、何ボケーっとしてんだ!」

「え?だって、全然怖くないよ?」

「……馬鹿!そういう奴等程一番警戒しなきゃいけねぇんだよ!」


 ゼンさんが私の前に出たかと思うと、両手の剣で近づいて来る分身を切り伏せる。

すると……血が出る変わりに、樹の根が勢い良く飛び出して地面に刺さったかと思うと、身体が風船のように膨らんでいって……


「カーティス!何とかしろ!」

「随分な無茶ぶりを言うね、何とかしろって言うなら、指示をしてくれないかい?」

「おまっ!、おまえの持ってる農具で何とか出来るだろ!」

「なるほど、じゃあちょっとやってみようか」


 カー君が地面にスコップを取り出して、地面に差すと掘り返す要領で、広範囲をひっくり返して分身を地面の中へと埋める。

すると地響きを鳴らしながら、土が弾け飛び鋭い刺のような物が四方八方に飛びだして、周囲の建物や他の分身に刺さると、そこから茨が生えて広がっていく。


「う、うわぁ……なにこれ!」

「プリムラスグロリアのいやらしい戦い方の一つだよ、あいつはこうやって油断させた後に確実に獲物を仕留めに来るんだ」

「……性格が悪いね、これじゃあ物理で攻撃する事が出来ないじゃないか」

「そう思って魔法で攻撃してみろ……、俺達の魔力を栄養に急成長して今よりもえぐい事になるぞ」

「えぇ、それってどうすれば……?」


 物理的な攻撃もダメ、魔法も使っちゃダメ。

そんな完全体制の塊に対してどうすればいいの、色々と考えては見るけど……これと言って思いつくような事は無いし。

だって攻撃行動自体がダメなんでしょ?それっと詰んでるよね……、しかも試験中だから逃げる事は出来ない。

プリムラスグロリアさんはいったい何を考えて、こんなえげつない事を考えて私達に分身を向かわせたのだろうか、これじゃあんまりにも性格が悪すぎる。


「これを出された以上、あれをやるしかないな」

「ゼン、何か良い手があるのかい?」

「斬る」

「「……え?」」


 物理的な攻撃がダメなのに斬るって、さっきの見てた筈なのに何を言ってるの?

現に今も茨が生えた分身が膨らんで、爆発を繰り返して周囲を巻き込んで被害を大きくしていってるのに、ここでそんな事をしたら……もっと酷い事になっちゃう。



「シャルネ、おまえに俺の特性を話したよな?」

「えっと……確か斬って名前だったよね」

「あぁ、戦闘訓練の時に説明して何度か見せてるだろ?」

「確か……ゼンさんが斬れると思った物を硬度、距離関係なく斬るとかって言う頭おかしいのだよね」


 ゼンさんが両手の剣を鞘にしまうと、腰を落として構える。

そして意識を集中するように目を閉じると、


「ゼン、ちょっと待って欲しい、俺に良い考えがある」

「いい考えだぁ?こんな状況でなんだ、早く言えよ」


 カー君が、ゼンさんの肩に手を置くと何故か私の方を指差す。

もしかして……この状況を私なら何とか出来るって事?


「あぁ?シャルネがどうしたんだよ」

「シャルネの、【暴食と施し】の能力を使えばいいんじゃないかな」

「え?私の……?あ、そういう事!?」

「うん、そういう事」

「まてよ、俺にも分かるように説明し……ん?あぁそう言う事か、攻撃したり魔力を使ったらだめならあれしかないよな、やっちまえシャルネ!」


……大鎌をゼンさんに預けて背中から天使と悪魔の翼を出すと、右腕でプリムラスグロリアさんの分身に触れる。

そして生命力を吸い出すと、左腕で他の分身を掴んで吸収した分をそのまま流し来む。

すると、奪われた方は身体が崩れて灰になり、流し込まれた方は何度か痙攣を繰り返したかと思うと、人の姿を保てなくなったのか、植物の根が内側から飛び出して地面に突き刺さると、そのまま色がくすみ徐々に枯れて行く。

それを見て楽しくなった私は、二人に手伝って貰いながら分身の数を減らして行くのだった。

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