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箱庭幻想譚―異世界に転生した私の幸せになりたいと願った物語―  作者: 物部 妖狐
第二章 修行、そして旅に出る

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突然の訪問者

 まずいご飯を食べさせられそうになったけど、途中で幽霊さんが何をしてるのか気になったみたいで、地下から出て来てくれたかと思うと。

ゼンさんが目を離してるうちに、灰汁を捨ててくれたり、味を調えてくれたおかげで……とても美味しいご飯を食べる事が出来た。


「……あっれおかしいな、俺の予想だといつも通り野性の味たっぷりになる筈だったんだけどなぁ」

「も、もしかして、料理の腕が上がったんじゃない?」

「そうかぁ?まぁ……そうなのかもなぁ、いやぁシャルネに旅を始めたら美味い物ばかり食う事が出来ないって教えようと思ったんだけど、残念だな」

「でも、旅をするなら出来れば美味しいの食べたくない?」

「……それもそうか」


 こんなやり取りをした後、湯を沸かしてゼンさんにお風呂に入って貰っている間に、食器を洗ったり、洗濯物をまとめたりする。

この世界って洗濯機が無いから、個人で洗濯する場合生活魔法と呼ばれる、誰でも使える簡単な魔法で綺麗にするけど、私は使う事が出来ないから、夜のうちにまとめたら、明日の朝のうちに洗濯屋さんに預けに行く。

その度に、洗濯しづらい服だねぇって言われるけど、このゴスロリ系の服は私の趣味じゃなくて、両親である天神さんと魔神さんの趣味なので、私のせいじゃないと思う。

……まぁ?転生してこの世界に来る前は、地雷系ファッションを着てる人とか見た時はかわいいなぁ、私も着てみたいなぁって思った事あるけど、体系的に似合わないからあきらめたし、今着てるシスター風のゴスロリ衣装もだけど、たまに駅内で着ている人を見て、凄いなぁかわいいなぁって思った事はある。

その服をまさか、着る事になるなんて思わなかったけど……思いの外動きやすいおかげで、今では他の服を着ると違和感を感じてしまう。


「……あ、ゼンさんお風呂出たみたいだから入ってこよ」


 誰に言うわけではなく、独り言を言いながらお風呂に向かうと、そのまま今日あった事を一人で振り返る。

そして、頭の中で自分なりの反省会をすると、一段落した段階で出て、そのまま部屋に敷かれている布団に横になり、目を閉じながら明日の事を考えているうちに、気づいたら意識が遠のいて……


「──い、おーい、起きるのですぞシャルネ殿」


 聞き覚えのあるような、無いような、そんな声が布団の上から私を揺すって起こそうとする。

けど、この家にいるのは、私とゼンさんの二人だけだから、……多分起きるのが遅い私を起こしに来たのかも?

声が違う気がするのは、もしかしたら私が寝ぼけているからかもだし。


「ゼンさん、後五分……いや、十分、やっぱり1時間」

「私はゼンではありませぬぞ!ほら、ご飯が冷めぬうちに起きて食べるのですぞ!」

「え?あ、だ、だれ!?」


 やっぱりゼンさんじゃない、驚いて飛び起きるとそこにいたのは、血のように赤い左の瞳、右目の部分には黒い眼帯を着け、長い黒髪を後ろで縛りポニーテールにしたマチザワさんが割烹着を着て座っていて……


「マチザワですぞ」

「え?あ、あの……え、そ、その、ひ、ふひ」

「……シャルネ殿?」

「な、なんで……も、もも、ないで、す」

「人見知りが激しいとは、以前集落でグロウフェレス殿から聞いておりましたが、ここまで大袈裟な反応をされると困りますぞ」


 何だか傷つきましたみたいな反応をしてるけど、目が覚めたら同じ部屋で寝ている筈のゼンさんがいなくて、知らない人が起こしに来たとかってなったら、パニックを起こさない方が無理じゃない?

いや、厳密には知らない人じゃなくて、一回だけお話した事ある程度の人だけど……それって顔見知りなだけの、赤の他人のわけで、というかゼンさん何処にいるの?どうしていないの?ちょっと私を置いてどっかいかないでよ!

何か、パニックを通り越して今の現状にふつふつと理不尽な怒りが込み上がって来た。


「あ、あの、ゼンさんは?」

「ゼンなら神社の方に行きましたぞ」

「え?あ……なんで?」

「昨日起きた事件に関して聞きたい事がありましてな……、それに関してはシャルネ殿にも事情を聴きたいが故、食事を終えたらお話をお聞きしますぞ」

「え、あぁ……うん、で、ででも……ご、ご飯を食べ……る前に着替、えたいから、下で待ってて貰ってもいい?」


 マチザワさんは頷き『では下の訓練場で待ってますぞ、食事と着替えが終わったら呼んでくだされ』と言いながら、下の階に降りて行く。


「……ゼンさん、出かけるなら私の事起こしてくれたらいいのに」


 そんな言葉を呟きながら、用意された食事を見る。

お肉と野菜、そして汁物にお米という凄いバランスが良い物ばかりで、多分……マチザワさんが用意してくれたんだろうなぁと思いながら、口に入れると


「あぁ、何か懐かしい味がするかも」


 転生する前の生活を思い出すような、そんな不思議と懐かしい味がする。

一言で例えるのなら和の味というべきか、食べると心が温まる感じがして、凄い幸せな気持ちになって来て、自然と食べる手が止まらなくなってしまう。


「……あ、もう無くなっちゃった」


 思わず夢中になって食べていると、いつの間にか無くなってしまっていて、もっと食べたいという気持ちが込み上げて来るけど、さすがにおかわりをしたいって下にいるマチザワさんに言いに行くのも恥ずかしい。

けど、前の世界……いや、私がまだ藤咲志織ふじさきしおりだった時、子供時代にお母さんやお父さんが事故で亡くなる前に、作ってくれた家庭の味を思い出して、何だか亡くなった大事な人が一瞬帰って来てくれたような気がして、懐かしい気持ちになれた。


「んー、食事だけでそんな気持ちになるのって、もしかしてホームシックってやつなのかな、日本での生活にそこまで思い入れはない筈なのに、離れるとこうなるなんて不思議な感じ」


 そんな事を思いながら、寝間着から何時もの服装に着替えるとマチザワさんを呼ぶために下の階に降りる。


「おや?上から呼んで頂けたら良かったのに……」

「あ、あの、ま……待たせちゃ、いけないって思って……」

「ふふ、そのお気遣いに感謝致しますぞ、では再び上に上がるのも面倒でしょうからな、早速本題にうつりますぞ」

「え、あ……、うん」

「シャルネ殿達は昨日何をしておりましたか?、私の方で調べた所首都の外に出たところまでは分かったのですが、戻って来たところを見た者が誰もいなくてですな……詳しくお話を聞かせて貰っても宜しいですかな?」


……マチザワさんは、下の階に用意されてる座布団の上に座ると私にも座るように促し、昨日何をしていたのか聞こうとしてくる。

けど、どう答えたらいいのか分からなくて、言葉に詰まってしまい……何とも言えない静寂が室内を支配するのだった。

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