試験の日程
あの後、迎えに来てくれたゼンさんに萎んだり膨らんだりを繰り返している、ゼンさん仮の姿を見られてしまい。
「……お前さぁ、俺の顔をした奴で何やってんだ?」
「あ、はは……プリムラスグロリア様から、ゼンさんの見た目してるなら上手くできるんじゃないかって言われて……ね?」
「確かに、ここ数日見に来る度に床に転がってたブロック肉やら気持ち悪い死体が少ないのを見ると、上手く行ってるんだろうけどよ……俺と同じ顔をした奴が使われてるのを見ると良い気がしねぇな」
と顔を引き攣らせたゼンさんが、ドン引きしたように言葉にする。
もう少し遅く来てくれてたらこんな光景見せなくてすんだんだけどなぁ……、なんでタイミング悪く来るかなぁ。
だってさ、今日の予定は家に大量に押し寄せた挑戦者達のせいで迎えに来るのがいつもより遅くなるかもって言ったじゃん。
それなのにどうしていつもの時間に来るの?ちょっとだけ理不尽じゃない?、いやね?時間通りに来てくれるのは嬉しいし、女の子を待たせないって言うのは凄い良い事だと思うの。
でも、でもさ……遅くなるかもって言うならちゃんと遅く来て欲しいなぁって言う気持ちがこっちにはあるわけで……。
「……何かすげぇ失礼な事考えてそうだけどよ、どうしたんだよ」
「遅れるって言うなら……遅くなって良かったんだよ?そうすればこんな現場見なくてすんだのに……」
「いや、おまえを待たせすぎるのは良くねぇって思って、さっさと全員ボコして来たって言うのに理不尽じゃねぇか?」
理不尽って言われたらそうかもだけど……
「かっかっ!まるで浮気がバレた妻と問いただす夫見たいなやりとりじゃねぇ、見ていて大変面白いぞおぬし等よ」
そんな私達を見て幼い子供の姿へと身体を造り変えたプリムラスグロリア様が、指を指して笑う。
というか浮気がバレた妻って、私はゼンさんの奥さんじゃないし……そもそも浮気何てしないのに何を言ってるの!?と驚きを隠せない。
だってさ、一緒に暮らしてるからって何かしら関係が発展した訳でも無いし……毎日幽霊さんと一緒にご飯を作って食べたら、神社に行ってプリムラスグロリア様と一緒にトレーニングして帰るだけの日々。
ここの何処に関係の発展するところがあるというのか、幽霊さんは何だか姑みたいだし……たまに尋ねて来るセイラさんは、私の料理を食べて
『……これじゃあゼンを任せる訳にはいかないわね、彼はなんでも美味しいと言って食べるけど、もっと味が濃い方が好みよ』
と謎のアドバイスが飛んでくる。
幽霊さんもその話をしている最中は終始頷いてるし、何て言うか義母と義姉を相手にしているようで本当に気まずい。
「……はぁ、早く旅に出たいなぁ」
「それはもう少し待つのじゃな、【暴食と施し】に関してはこれで取り合えず、必要最低限は制御できるようになったのは分かったから良しとして、後は実戦経験を積まねば旅立たせる訳にはいかぬからな」
「実戦経験なら俺やカーティスがいるから大丈夫だろ?」
「このたわけがっ!おぬし等の戦闘に関する熟練度が100と仮定したら、シャルネは略ほぼ0に近いのだぞ?今は身体能力の高さで何とかなるが、セイラやマチザワと戦かったら手も足も出ずに殺されるわ!」
プリムラスグロリア様がそう声を荒げると、彼女の足元に桜の花が咲き乱れる。
そして体全体を覆ったかと思うと……大人びた女性が中から生えて来て……
「ゼンよ、おぬしはこの身体になったわっちからシャルネを守る自信はあるか?」
「……あるけど?」
「そうじゃろう、無いであ……今何と言った?」
「あると言ったけど?本体のあんた相手だったらさすがに無理だけど、人の形をしてるなら俺に斬れない物はねぇよ」
「聞いた相手が悪かったわ、それならシャルネよ……おぬしはどうじゃ?」
ここで私を指名されてもどう反応すればいいの?、とりあえず倒せるとゼンさんみたいにかっこつけてみた方がいいのかな。
でも出来ない事を出来ると言っても、それを真に受けて襲い掛かられたら痛い目を見るのは私だし……どうしよう。
「無理じゃろ?だが……ゼンの言葉を聞いて少々頭に来たからのぅ、三か月位で実戦形式の訓練を開始しようと思っておったが、計画を前倒しにして明日から実戦訓練を開始して一ヵ月後には試験をさせて貰う事にしたぞ」
「まぁ、別にいいんじゃねぇか?」
「更に難易度をあげて、試験当日はわっちの本体で相手になろうではないか……」
「ばっ、おま……」
「さらにっ!わっち一人だけで相手三人と戦うのは不公平じゃからな……セイラとマチザワを入れて三対三にするぞ?」
……ゼンさんが珍しく焦った顔をして『おまえそれまじで言ってんのかよ!いくらカーティスを入れて三人で戦っても無理があるぞ!』と声を荒げる。
それを聞いたプリムラスグロリア様が『何を言うか……、わっちと同じ神の力を持つ天神と魔神の娘、天魔のシャルネ・ヘイルーンがおるだろ?実戦訓練以外におぬしが色々と教えて戦えるようになればいいじゃろうが、それに……だ、おぬし等はこれから先、旅立った後神と殺し合う以上はわっちを倒せるようになって貰わんとなぁ』と、何処からか煙管を取り出すと口に咥えゆっくりと白い煙を吐き出しながら言うのであった。




