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箱庭幻想譚―異世界に転生した私の幸せになりたいと願った物語―  作者: 物部 妖狐
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ゼンさんのお家

 道場みたいな建物だと思ったら本当に道場だったなぁ……。


「ここが俺の家だ、集落のとは違ってやたら広いけど気にしないで寛いでくれ」

「うん……、でも何ていうか剣術道場みたいだね?」


 入るように促されて中に入るけど……壁に色んな剣が飾られていて、剣術を教える道場というよりは実戦の訓練を行う場所みたい。

それに奥に階段があって二階に上がれるようになってるみたいだけど、それ以外には何もなくて到底人の住む家とは言えない気がする。


「えっと……ここって訓練場か何か?」

「ん?あぁ、訓練場というよりも俺に対して挑んでくる奴らの為にある闘技場みたいなもんだな……、栄花では俺の強さを知ってる奴が多いからな、首都にいる間は略毎日俺を倒して名を上げようという奴が来てたよ、例えばそうだなぁあそこの壁あるだろ?」

「うん、あのちょっと赤くなってるところだよね?他の所は全部白い壁なのに一か所だけ珍しいね?」


 赤くなってるところをよく見ると……まるで何か液体が飛び散っているように見える。

もしかしてだけどこれって血なのかも?って思うけど、まさかそんな事は無いよ……ね。


「あぁ、あれ俺に挑んできた奴の血が付いた奴だな……」

「えぇ……、そういうのって綺麗にした方がいいんじゃないの?」

「そりゃそうなんだけどさ、血を落とそうとすると結構大変なんだよ……必死に磨いても中々落ちないし、だから簡単に取れる場所は剣でそぎ落としたりしたんだけどここだけは幾らやっても浮かんでくんだよなぁ」

「それってもしかして……?」

「あぁ、アンデッドって言うんだけど……出るぞ?しかも首が無い鎧を着た剣士が」


 それって事故物件だよ……ね。

何でゼンさん、そんな怖い所に住んでるの?ちょっとどころかかなり怖いんだけど……。


「アンデッドって……恨まれてるよね?」

「いんや?何でか知らないけど、挑戦者が来たら物音を鳴らして起こしてくれるし、俺が忙しい時は変わりに戦ってくれたりするいい奴だよ、それに俺の剣技を見て学んでるのかどんどん強くなって言ってるから面白くて愛着湧いちゃってさ、残してるんだよ」

「……何か死んだ後にゼンさんの強さに惚れて勝手に弟子になってない?」

「かもなぁ、朝と夜になると必ず飯が用意されてたし……、でも俺が出て行ってからはどうしてたんだろうな?」


 そう言って壁を撫でる姿を見ると何ていうか、ファンタジーっていうよりもホラーな気がする。

いや、友好的って言われてもね?アンデッドってお化け、つまり幽霊な訳だしそういうのって夏の肝試し的な番組やインターネットの記事でしか見たこと無いから、実際に出ると言われるとやだなぁ……。


「……そ、そういえば居住スペースってどこにあるの?」

「ん?あぁ、それなら二階に上がるとあるぞ?トイレと風呂は外に立っている小屋がそれだから自由に使ってくれ、ただ寝るスペースは悪いけど寝具が一人分しかないからシャルネはそれを使ってくれ」

「それじゃあゼンさんは何処で寝るの?」

「そりゃあ……俺は一階で寝るよ、テントの中で寝る時に使ってた毛布とか使えば寝れんだろ?」

「……えっと出来れば二階で一緒に寝て欲しいなって……ダメ?」


 いや、幽霊が出るっていう場所で一人で寝る何て考えたくない。

もし夜中にトイレに行きたくなって目を覚ました時とか怖くて一人で行ける気しないし、その時に隣にゼンさんがいてくれてあら心強いなぁって……


「……そうか?まぁ、集落にいた時は同じ部屋で一緒に寝てたからその方がシャルネ的にも良いかもな、んじゃそうするわ」

「ありがとうゼンさん……、あ、後なんだけど夜にトイレ行きたくなったら起こしてもいい?」

「ん?まぁ別にいいけど何でだ?」

「幽霊……ううん、アンデッドが出たら怖いから一緒に来て欲しい」

「そういう事ならいいぞ?」


 良かったこれで夜に起こしても安心できるかなぁ……、一人よりも二人の方が幽霊を見ても安心だし。

そう思いながら二階に上がると、小さい一人用のテーブルとベッドしかない狭い部屋があってなんだか、狭いビジネスホテルに泊まりに来た感じがする。

使った事は無いから想像でしか無いんだけど……多分、こんな感じなんだろうっていう感じの質素な部屋がそこにあって不思議な感じ……でも何ていうか掃除が行き届いていて凄い綺麗かも?


「……下の階でも思ったんだけど凄い綺麗だね?」

「多分、セイラだろうな……あいつは俺と違って綺麗好きだからたまに掃除に来てんだろ」

「あの相性が悪い人だよね?」

「あぁ……、俺が首都に居た時もたまに掃除に来てはやれ部屋を綺麗にしろ、脱いだ物をそのままにするなってまるで俺の親かよって思う位にうるさかったからなぁ」

「何ていうか……通い妻みたいな人だね?」


 なんだ……ゼンさんは苦手意識持ってるみたいだけど、好意を持ってくれてる人がいるみたい。

何か残念だなぁって思うけど、昔からの付き合いみたいだから私に入り込む余地は無い気がする。


「いや?全然そんなんじゃねぇぞ?だって俺あいつの事、ただの仲間としか思って無いし、あいつも俺みたいな野蛮で乱暴な奴が好みじゃないからな……どちらかと言うと金を沢山持ってるタイプがあいつの趣味だし」

「あぁ……でもセイラさんのそれ少し分かるかも、好きな人がいても将来を考えたらお金がある人の方がいいってなる人だよね?」

「いや?過去に面と向かって、あんたの事一人の男して見れないし性格的に無理って言われたからな」

「そこまで言われてるなら私の勘違いかも……」


……もしかしたら照れ隠しでそういっただけなのかも?って感じるけど、ゼンさんが興味無さそうだからこの話はこれくらいにした方がいいかも?そう思っていると、『んじゃ、俺ちょっと屋根に上って来るわ』と言って二階の窓に身を乗り出すと軽やかに屋根へと昇って行く。

いったい何をするのか分からなくて、驚いて何とか追いかけてみるとそこには端っこの方に白い布を巻いているゼンさんの姿があるのだった。

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