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箱庭幻想譚―異世界に転生した私の幸せになりたいと願った物語―  作者: 物部 妖狐
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町からの脱出

 何でここにカー君がいるんだろうなぁって思ってると、窓を開けるようにとジェスチャーで教えてくれる。

取り合えず言われた通りにしようと思って窓に手をかけるけど……


「あっ……」

「ひぃっ!?」


 窓枠どころか壁の一部を破壊して大きな穴が空いてしまって、近くにいる妊婦さんが更に大きな悲鳴をあげる。

うるさいなぁ……これで声が聞こえて誰かが乗り込んで来たらどうするの?、カー君がここに来たって事は少なからず後でゼンさんも来てくれるって事で、つまり私達は助かるって事なのに分からないのかなぁ。


「随分派手にやったね、俺はただ開けて欲しかっただけなんだけどさ」

「カー君ごめんね?、翼が出ちゃうと力が抑えきれないみたいで……」

「いや……別にいいよ、その翼が出て来てくれたおかげで家の前にいた見張りがいなくなったからね」

「見張りの人いたんだ……、でもそれなら何で扉から入ろうとしないで窓からなの?」

「何でも凄い綺麗な女性が家から飛び出して来たとかで取り合いになってるみたいでさ、そんな状態で堂々と入るのは怪しいだろうなぁって」


 窓から入ろうとする人の方が怪しいと思うんだけど……、その事に対して言わない方がいいのかもなぁ。

それに何だか悲鳴をあげてた人が静かだなぁって思ったから見て見ると、何故か顔を赤らめてカー君の事を見ている。


「……凄い綺麗な人」

「ふふ、ありがとう綺麗な妊婦のお嬢さん、君に言われると凄い嬉しいよ」

「綺麗だなんて……、こんな痩せ細った身体なのに恥ずかしい」

「そんな事言わないで欲しい、大事なのは見た目よりも中身だよ……俺は君の美しい性格に惹かれたんだ」

「カー君?私の前で女の子を口説くの止めてくれる?」


 何でいきなり二人の世界を作ってるの……、私が誘拐されて酷い事されそうになったのに酷くない?いや酷いよね?、あぁこういう時に最初に助けに来てくれる人がゼンさんだったら良かったのに、何をやってるのかな。


「それもそうだね、シャルネとお嬢さんこの窓から外に出て俺に着いて来て欲しい」

「ついて来て欲しいって、何処に行くんですか?」

「ん?この町を出て行くんだよ、その為に一目に付かないようにしながら隠れて出るのさ」

「出るってゼンさんはどうするの?」

「んー、彼は後で合流するから大丈夫さ、何でも久しぶりにキレちまったって言ってたからね、暴れたいんじゃないかな」


 取り合えず外に出ると、今度はカー君が中に入り妊婦さんを背負って出ると何処かへと向かって歩き出す。

それにしても久しぶりにキレちまったって何か凄い怖い事を言ってるなぁ……、けど私が誘拐された事に関して本気で怒ってくれてるのかもしれないと思うと嬉しい気持ちになる。

だってそれってゼンさんの中で私がそれ位大切な人って事でしょ?何か凄い可愛いかも、後で頭を撫でてよしよししてあげようかな、身長差あり過ぎて屈んで貰わないと無理だけどね。


「……でも暴れるってゼンさんどうするつもりなのかな」

「まぁ、少なからずこの町が無くなるかもね、小さな子供を除いて皆殺しだと思うよ」

「小さい子供を除いてって、それだとその子達はどうするの?」

「多分ゼンが何とかするんじゃないかな、彼はこの国に詳しいからね……小さい子供を受け入れてくれる場所を知ってると思うよ」

「この町が……消える?」


 何やらショックを受けているみたいだけど、どうしてそんな辛そうな顔をしてるのか分からないなぁ……、だって今迄酷い事をされて来たんでしょ?なのに何でショックを受ける必要があるのかな。

私が同じ立場だったら嬉しいと思うんだけどなぁ。


「長くいた町が無くなるのがやっぱり辛い?」

「そんな事は……、ですがこの町には私が産んだ子もいるのでその子が死んでしまうのかと思うと辛いです」

「その子はまだ小さいのかい?」

「いえ、自分で物事を判断して動ける位には育っています」

「俺も子供がいる親だからこんな事言いたくないけど、諦めるしかないね……今はお腹の子を安全な場所で産んで立派に育てる事を優先した方がいい」


 何もそんな事を言わなくても……、折角お腹を痛めて産んだ子を諦めろって酷いなぁって思うけど、この町に染まり切った子とまだ何も知らないお腹の中の子どっちが大事かと言われたら後者を選ぶのはしょうがない気がする。

……正直やだなぁ、でも両方助けられたら良かったのにって言っても理想ばかり語ってもあんまり良くないよね。

けどカー君に背負われた状態に声を押し殺して泣いてるのを見ると申し訳ない気持ちになって、心苦しい……、だってさ私達がこの町に来なかったらそんな事にならなかったと思うし、後悔している訳じゃないけど申し訳ない気持ちになるなぁ。


「もう直ぐゼンとの待ち合わせ場所だから、まだ少し歩くけど大丈夫かい?」

「……私は背負って貰ってるので大丈夫です」

「ならいいけど、酷い事を言ってごめんね……、取り合えず君を安全な所までちゃんと送り届けるから、そうしたらゆっくりと休もうか、大丈夫暫くは俺が君の側にいるから」

「……はい」


……何かまた二人の世界みたいなの作ってるなぁって思ったけど、今はそれでいいかなぁ……だって私じゃこの人の支えになれないもの。

そう思いながら待ち合わせ場所に着くとカー君が妊婦さんをゆっくりと降ろした後に、私達に座ってゆっくり休むように告げてテントを組み立て始めるのだった。

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