ゼンさんの気遣いと私の妄想
取り合えず町長さんが戻って来るまでの間、部屋に戻った後の事を話し合う事になったけど……
「シャルネ……、今日の夜は辛いだろうけど寝ないように気を付けろよ?、一応俺が隣の部屋にいるから問題無いと思うけど万が一の事があるからな」
「そうだね、俺も一応窓の方を警戒しておくから極力窓には近づかないようにして欲しい」
折角ベッドでぐっすりと朝まで寝れるかと思ったのに……、これじゃ野営している時と変わらない。
あぁ、さようなら私の快適な睡眠、あぁ、恨みます毒を盛られてお腹痛ーいな町長さん。
町でここの町長さんは良い人って聞いてたのに蓋を開ければセクハラおじいさんで気持ちげんなりだし、ご飯も出されたから全部食べたけど全然美味しくないのは本当に残念。
でもまぁ、この世界の人達がどんな感じなのか知るのには丁度良かったかな……、多分だけどゼンさんやあのマチザワさんが例外なんだと思う。
「ん?暗い顔してるけどどうした?」
「……んー、この世界の人達ってこういうタイプの人が多いのかなって思ったら不安になっちゃって」
「いや、皆がそんな奴らじゃないから安心しろって言いたいけど、シャルネからしたらこれが、この世界の人間とのまともな交流だからなぁ……」
「そう感じても仕方ないんじゃないかな?……まぁ、魔族の俺がフォローするのもどうかと思うけど、この世界の人達は生きるのに必死なのかもね」
生きるのに必死……って事は、私の事を見ていたのはもしかして、私が健康な子供を産めそうかどうか見定めていたのかな。
でも、私が仮にこの町の誰かと結婚して夫婦になったとして……何れ子供が出来たとしても、町長さんの家に行くまでの間に見た不健康な見た目の妊婦さん達みたいになってしまうんだろうなと思うと、全然幸せじゃない気がする。
町長さんからしたら、将来的に長期的な労働力となる子供が増える事を望んでいるのかもしれないけど、その為に無理をしてまで苦しい経験をしたくないなぁって……、見た所妊婦さんを放置して男の人は外に働きに行ってるみたいだし、専業主婦って言ったら聞こえはいいかもしれないけど……実際は奴隷みたいな扱いな気がして嫌な気持ちになりそう。
「……それは分かったけど、ゼンさんはあの時どうして町長さんの前で私との関係について嘘をついたの?」
「ん?あぁそりゃあ……、あぁいう時は夫婦では無くても幼い頃からの親しい間柄だって伝えておけば、男避けになんだろ?」
「それってもしかして私の為に?」
「当然だろ?シャルネは俺の……、あぁなんかこれ言葉の選び方間違えた気がする」
「ん?私はゼンさんの?」
私はゼンさんの何って言おうとしたのか分からないけど、途中で頬を赤らめて顔が見えないようにと後ろを向いてしまう。
何かそういう所可愛いなぁって思いながら、じーっと黙っているとカーくんが困ったような顔をして……
「……何て言うか、聞き取り方次第だとシャルネの事を、俺の女って言おうとして途中で恥ずかしくなったように見えるから、ゼン……そういうの止めた方がいいんじゃないかな」
「バ、バッカ、カーティスっ!俺はただなぁ、シャルネは俺達の仲間だから当然だろって言いたかったけど、言葉の順番間違えただけなんだよっ!」
「えっ……?わ、わた、わたし、ゼンさんに思いを告げられた事無いから……、いや、でもね?気持ちは嬉しいよ?……凄い嬉しい、でもそういうのは段階が必要って言うか、ちゃんと二人きりの時に伝えて欲しいなぁって、ほら二人きりで夜景の視えるレストランで二人でお酒を飲みながら、楽しい雰囲気を作って……その後に二人でホテルの部屋に入った時に、私の名前を呼んで指輪を渡して、『シャルネ……俺、お前の事好きだ、結婚してくれ』って言う風に……ふひひ、ふひ……」
「……ほらっ!シャルネが自分の世界に入り始めただろ!?ったく、こうなったら暫く戻って来ねぇぞ」
あぁ、ゼンさんが何か言ってるけど妄想が止まりそうにない。
「そして……私は、はいって返事をして抱き着くと二人で優しいキスをしようとしたら、カーくんがホテルの部屋のドアを蹴破って……『ダメだっ!二人がそんな関係になる何てお父さん許しませんよっ!』って入って来て三角関係に……、そして始まるどろどろの三角関係、ふひ、でね?最初は私を二人が取り合うんだけど、徐々にお互いを意識し合うようになってめでたく二人は恋人同士に……」
「いや、ならねぇよアホっ!」
「あ、いたっ!……ゼンさん、女性の頭を殴る何て何考えてるの!?、こういうのDVって言うんだよ!?」
「DVだか何だか知らねぇけど、自分の世界に篭って気持ち悪い妄想始める奴を戻すにはこれ位の荒治療が必要だろうが、なぁ?カーティスもそう思うだろ?」
「まぁ、何で俺がシャルネの父親になって、そこからゼンと交際に至るのか理解出来ないけど……、折角の美人が台無しになる程顔が緩んで涎を垂らして妄想するのはどうかと思うよ」
……私そんな酷い顔してたの?、んーでもあの妄想だけでご飯三杯行けるって言うか、朝まで色んなシチュエーションを妄想して起きてられそうな気がする。
「えっと……、何て言うかごめんね?」
「分かったならそれでいいけどさ、取り合えず町長が帰って来ないから、先に部屋に帰ってるって書き置き残して戻ろうぜ?……シャルネは絶対に寝るなよ?」
「うん、でも二人は先に戻ってて?この家って町長さんしか住んでない見たいだから……、皆が食べた後の食器を片してから戻るね?」
「それなら俺達も手伝うよ、シャルネだけにやらせる訳にはいかないしさ」
「んー、カーくんの気遣いは嬉しいけど大丈夫かな、だって三人で食器を洗うってなると狭くて邪魔になると思うし」
……私がそう言うと『あぁ、それなら俺が洗い場の前に立って誰か入って来ないか警戒してるわ』とゼンさんが着いて来てくれる事になって、カーくんは部屋へと戻って行く。
そして以前教わった魔法で新鮮な水を出しながら食器を洗い、綺麗な布で拭いて行くと洗い場の壁の一部が音もたてずに扉のようにゆっくりと開いて行くのが見えて、何だろうって思いながら見ているとそこから屈強な男性が入って来る。
驚いて食器を落としそうになるのを強く握ってしまうと、音を立てて粉々に砕けてしまいそのまま破片が床へと落ちて……、その音に驚いた男性が私の事を強引に抱き上げると『あ、おめぇどっから!?、くそっ!待ちやがれっ!』というゼンさんの声を無視して家の外へと飛び出して何処かへと連れて行かれるのだった。




