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87話 エルフ的思考法(2)

「本来の使命ってなんですか?」


 僕を世界に送った神様は、特に何も指示はしなかった。


 彼女に明確な目的意識があるのだとしたら、僕の能力を知る参考になるかもしれない。


「そんなことも知らないのか。ふん。まあいい。無知な貴様らに、世界の真実の歴史を教えてやろう。この世の初め、創造神様が世界に様々な種族をお創りになったのは、そもそも魔族による破壊からこの星を守る戦力にするためだった。本来、全ての種族には、各々に明確な役割があり、その役割に従って能力を与えられていたのだ。

 前線で血を流す屈強な兵士である獣人には、鋭敏な感覚と身体能力を。兵器を作る工廠のドワーフには技術と度重なるトライ&エラーに耐えうる忍耐力を。そして、取るに足らない雑務を処理するために造られた、下等な雑兵。それがお前たち人間だ。お前たちに与えられたのは、旺盛な繁殖力だけだ」


 ぺスコは僕たち一人一人を指さして、饒舌に語りだした。


 悪意があるというよりは、ナチュラルに『啓蒙してやる』という感じだ。


(つまり、それぞれの種族は対魔族の専用ユニットとして創られたのか)


 確かに戦争をするならそれぞれの兵科は能力を特化させた方が効率的だし、一応筋は通ってるな。


「なるほど。それでエルフはどういう存在として創造されたんですか?」


 僕はひとまず納得するフリをして先を促した。


 情報は多い方がいい。


「決まっているだろう。エルフは指揮官だ。他種族全てを統べ、管理する存在。それが我々エルフだ。その証拠に、エルフだけが世界の根源のエネルギーたる精霊へのアクセス権を与えられ、貴様ら人間では想像もできぬような魔法を行使することができるのだからな。この世に生きとし生ける者は全て魔族と闘う義務があり、創造神から選ばれたエルフに従う義務があるのだ」


 ぺスコは確信に満ちた口調でそう言い切った。


 うーん。役割論はともかく、創造神様から選ばれた云々は主観が入っている気がするな。


 エルフは魔法担当の後衛として作られて、全体を見通せるポジションだから、結果として指揮官的な役割を担うことが多くなった……とかなら分かる。


「くだらない。神話なんて、どの種族もみんな自分たちに都合のいいように勝手に創り上げるものでしょう」


 ナージャが呆れたように肩をすくめた。


「ふう。短い生しかもたないお前たちは、代を重ねるごとにすぐに忘れる。貴様らが本来の使命をないがしろにし、魔族討伐のためだけに用いるべき力を、己のために好き勝手に使い始めてから久しい。お前たちの傲慢と身勝手が、そもそもの世界の乱れの原因だ。古代のように、全ての種族が我々エルフの指揮下に入れば、瞬く間に魔族などこの世界から駆逐できる」


 ぺスコは諦念を込めた嘆息を漏らす。


「うーん。無理じゃないですかねえ。私の故郷の教えでは、先祖のドワーフはお酒の製造を禁止された上に、武器の製造ノルマを増やされたのが不満で離反したそうですし、それと同じことになりそうです」


 日ごろは他人に関して寛容なミリアが、珍しく拒否反応を示す。


「吾は他の種族と比しても最も生の短い獣人でござる。されど、今のぺスコ殿の物言いを聞いておれば、先祖の心持ちは手にとるようにわかり申す。誇り高き獣人は、お仕着せの大義を戴きませぬ」


 レンが瞑目して俯く。


「ワタクシの習った歴史学でも、古代の共同戦線の崩壊は兵の損耗率を無視したエルフの無謀な作戦に原因を求める説が大勢を占めてますわ。自分たちは安全な後衛でぬくぬくと偉そうに指揮して、人間や獣人は死にまくっても知らんぷり、なんて軍団の士気が維持できるはずがないでしょう」


 ナージャが苦笑いで言う。


「我々エルフはお前たちと違って、絶対数が少ないのだ。失っても構わない個体数が違うのだから、扱いにも差があって当然だろう。不満ならば、貴様らも精霊魔法を使ってみせろ。神樹を通して創造神様に信仰を捧げれば、適格者ならば認められるはずだ。まあ、今まで一度もエルフ以外に精霊の使役を許された者はいないがな」


 ぺスコは素で三人の言っていることが理解できないのか、首を傾げている。


「過去のことはいい。でも、少なくとも、今回の件に関しては問題を起こしたのはエルフなのだから、他種族に責任転嫁するのはおかしい」


 テルマが冷静に告げる。


「偉そうにほざくな。そもそも今回のダンジョンの出現は、お前の母親が原因だ。大方、イリスがふしだらにオルゾを誘って利益を引き出しておきながら、いざとなったら手ひどく扱ったのだろう。なにせ、混血は創造神様が設けた秩序を破壊する魔族的な行為だと知っていながら、貴様を産むような破廉恥な女だからな」


「いいがかりはやめてよね! 母様はいちいちオルゾが的外れなキモい贈り物をしてきて、断るのにいっつも悩んでたんだから!」


 リロエがテルマの背中に隠れながら、ひょこっと顔だけを出してペスコに反論した。


 リロエはペスコが怖いんだろうか。


 これだけ自信満々だし、ペスコはエルフの中でも上位の戦闘力を備えているのだろう。


「うーん。創造神様が混血を嫌うなら、最初から混血できないように創ればよかったんじゃないですか。そもそも色恋沙汰で魔族に魂を売るって、人間みたいに繁殖欲旺盛なんですね」


 僕は嫌味っぽく言った。


 彼が僕より強いとしても、今のは完全に理屈の通ってない難癖だし、テルマを侮辱されたら黙ってはいらなれない。


「創造神様の御心は人間ごときに図れるような単純なものではない。……まあ、無知な愚か者共に何を言っても無駄か。せめて邪魔だけはしてくれるなよ。わざわざ、貴様らの作った掟に合わせて、ヒトの金を手に入れ、ヒトの金を使って、自由に使える兵力を得る手続きを踏んでやったのだから、文句はあるまい?」


 ペスコが釘を刺すように言う。


 恩着せがましい物言いだが、さすがに人狩りをしたら外交問題になるから金で奴隷を買っただけだろう。


 やり口としては気に食わないけど、奴隷制度を作ったのはエルフではないし、彼らの行動に瑕疵(かし)はないから、僕たちが干渉できる問題ではない。


 もし、仮に正義感を募らせて無謀な特攻に出たとして勝ち目もないだろうし、彼らが戦闘奴隷を盾にしてくれば、結局真っ先に傷つくのは彼らだ。


「先ほども言った通り、あなた方が独力で解決してくれるなら、僕たちは特に口出しなんかしませんよ。頑張ってくだささい」


 僕は本心からそう言った。


 一度失った魂を取り戻せるのかは知らないけど、彼らが上手くいけばいくほど、戦闘奴隷の犠牲が少なくて済むだろうから。


「ふん。そうか。ならば、これ以上話すことはないな。――行くぞ」


 ペスコは鼻を鳴らして、仲間と共に東の方へ飛び去っていった。


「はあ。何だかどっと疲れましたわ。予想通りのアレな方でしたわね」


「まあ、どんな種族にもいい人と悪い人がいますから……」


「色々と割り切れないこともあるけど、ここは前向きに、エルフの里を見学できる貴重な機会だと思うことにしようか」


 僕は努めて笑顔を作って言った。


 あわよくば里の人と仲良くなって、戦闘奴隷の人の魂を救う術も含め、情報収集がしたいけど、下手に揉めても困るからあまり派手な行動はできないな。


「然り。テルマ嬢もせっかく故郷に戻られたのでござるから、存分に親孝行にされるがよろしかろう」


「……ありがとう」


 レンの言葉に、テルマははにかむ。


「さっ。戻りましょう! きっと今日は母様が腕によりをかけて料理を作ってくれるはずよ。特に野菜のスープはすごくおいしいから! ありがたく食べなさいよね!」


 リロエが急に元気になって叫ぶ。


 僕たちはそのまま踵を返し、イリスさんの家となっている樹があるエリアへと戻るのだった。

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