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48話 プラチナチケット

「ナージャさん。ちょっと相談したいことがあるんですけど」


 商会での夕食を終えた後、割り当てられたユニコーンの間で、僕はナージャに話しかける。


「なんですの? これから夜の街に繰り出すのですから、手短にしてくださいまし」


 ナージャは念入りに自身の顔に化粧をほどこしながら、鬱陶しそうに答えた。


「うん。大したことじゃないんですけど、実は、今日こんなの貰っちゃって」


 僕は革袋から参加チケットを取り出す。


「何ですの? ――って、そ、それは! まさか! 幻の『玉石ぎょくせきの宴』のプラチナチケットですの!?」


 途端に目の色を変えたナージャが、シュバッと二段ベッドの上階から跳躍し、僕のベッドに着地する。


「え!? すごいじゃないですか! タクマさん! 玉石の宴にいらっしゃるんですか!」


 あんまりこういう社交場に興味がなさそうなミリアまで食いついてきた。


 そんなにメジャーなイベントだったのか。


「二人とも、知ってるんだ」


「当たり前でしょう!? 『玉石の宴』といえば、庶民の憧れ! ボンボンの貴族を捕まえれば玉の輿の夢ではない晴れ舞台! 『ハリネズミ娘』の童話くらいタクマも一度は聞いたことがおありでしょう?」


 ナージャが『信じられない』といった顔で目を見開く。


「はい! 私知ってます! 継母からいじめられて一日中暗い地下室でお針子をさせられていた女の子が、叡智神様のご加護の魔法で屑糸を金糸に変えて、素晴らしいドレスを織り上げるんです! 宴に参加した女の子は王子様と出会うんですけど、でも、魔法の効力は日の出までしか続かなくて、いい感じになったところで逃げ出さなくちゃいけなくて、王子様はくず糸の襤褸切れになったドレスを片手に、国中女の子を探し回るんです! それで――」


 ミリアが目を輝かせて語りだす。


 要は灰かぶり姫(シンデレラ)みたいな話だろうか?


「ミリア。話が長いですわ。要は童話のモデルになるくらい有名な宴だということです」


 ナージャがミリアの話を遮って言う。。


「へえ。そうなんですか。すみません。僕、世の中の事情に疎くて」


「ああそうでしたわね! タクマはそういう男でしたわね! というか一体全体、どこでこのチケットを手にいれたんですの? 庶民で参加できるのは、貴族にとって付き合う利益のある有力商人の縁者か、特別に認められた才人さいじんだけのはずなのですけれど」


「なんか楽神ミューレの信者の人たちと演奏会をしたらくれましたよ。宴の賑やかし要員みたいなことを期待されてるみたいで」


 僕はありのままを告げる。


「あ、あなた、本当に底知れない男ですわね」


 ナージャが引きつった笑顔を浮かべて呟く。


「そうですか? それで、話を戻しますが、僕、こういう社交場に疎いので、出席するに当たって、最低限のマナーをナージャさんに教えて貰えないかと思いまして」


「そ、そうですの。そりゃ、まあ? タクマの知り合いで? ワタクシ以上に指南役にふさわしい人材はおりませんけど? そうなると、まず決めるべきは、宴に一緒に参加するパートナーですわよね?」


 ナージャはもったいぶったような口調で言って、僕の方をチラチラ見てくる。


「え? パートナー? 僕、普通に一人で行くつもりだったんですけど」


「は!? アホですの? ここをよく読みなさい! ここを!」


 ナージャがチケットの下部を人差し指で示して叫ぶ。


「ああ。本当ですね。『パートナー一名まで同伴可』って書いてあります。でも、別に一人で参加してもいいんじゃないですか?」


「ドSですの? かわいい顔してドSですの? ワタクシに涙目で『行かせてください! タクマ様!』って懇願させないとタクマは気がすみませんの!?」


 ナージャがものすごい剣幕で僕の胸倉を掴んで揺さぶってくる。


「いえいえ! そういう訳じゃなく、僕に付き合わせるが申し訳ないという意味で。……というか、ナージャさんはミルト商会の娘さんなんですから、こういう催しには飽きるほど参加されているのでは?」


 僕はぶんぶんと首を横に振る。


「玉石の宴に参加することが許されるような年齢には、もう冒険者になっておりましたから。それに、商会の紐付きだと自由に楽しめないでしょう」


 ナージャは僕を解放して呟く。


「なるほど」


「まあ、冒険者になってからは、貴族の小規模で私的なパーティには潜り込む機会はいくらでもあったのですけれど、さすがに『玉石の宴』には手が出ませんでしたわ」


「わかりました。つまり、ナージャさんも参加希望ってことでいいんですね?」


「あら、ワタクシではパートナーに不足だとおっしゃるの?」


 ナージャが挑戦的な笑みを浮かべて僕を見つめてくる。


「いえ。ついて来てもらえるなら僕としても心強いです」


 全く未知の世界である社交場に、単身乗り込むのはハードルが高い。


 事情通が近くにいてくれればありがたいことだ。


「タクマさん! タクマさん! 私も行きたいです!」


「ミリアも? こういう華やかな場に興味があったんだね」


 ベッドのふちに手をかけてわくわく顔でこちらを見上げてくるミリアを、僕は意外な気持ちで見遣った。


「いえ! ダンスとか綺麗なお洋服とかにはあまり興味がないんですけど、おいしい物がいっぱい出てきそうなので!」


 ミリアが屈託のない笑顔でそう言った。


 うーん。できれば連れて行ってあげたいけど、同伴は一名までみたいだから、どうしようか。


「ミリア……。あなたねえ。確かにおいしいお料理も提供されますけれど、メインは男女の出会いの場ですのよ? もし特殊な嗜好をもった殿方に迫られたら、あなた上手くあしらう技術がおあり?」


 僕が逡巡していると、ナージャが矢継ぎ早に問うた。


 さりげなくミリアに対して失礼な評価が挟まれていた気もするが。


「うっ。それは厳しいです。そもそも人が多いところは苦手ですし」


 ミリアはあっさりと引き下がり、ベッドでしゅんとする。


「でしょう。おいしいお料理でしたらワタクシがいくらでも良いお店を紹介して差し上げますわ。なんでしたら、一食分くらいはご馳走して差し上げてもよろしくてよ?」


 ナージャがフォローするように言う。


「え! いいんですか!?」


 ミリアが速攻で立ち直る。


「ワタクシたちだけいい思いをするなんて不公平ですもの。それくらいは融通ゆうずうして差し上げますわ」


 聖人然としてミリアに微笑みかけるナージャ。


 僕はそんな二人を見つめながら、渋ちんのナージャが自ら奢りを申し出るなんて、よっぽど玉石の宴に出たいんだな、なんて失礼なことを考えていた。


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