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150話 勇者(1)

 諸々の交渉がまとまってから半日後。


 都長より、映像を通じての会見が開かれた。


 防衛システムによるスタンピードの排除にかかる期間がおよそ一か月であること。


 その間は、一般人のみだりな外出の禁止や、食料品を含む一部物資の政府による統制を旨とした戒厳令が敷かれること。


 また、魔王と化したアルセに、政府より雇われた冒険者である僕や他の英雄たちが対処に当たること。(政府側は僕たちが義勇軍的に起ったというストーリーにしたがったが、僕はあくまでいち冒険者という立場にこだわった)。


 それらの情報が一般に開示されると同時に、ダンジョンの中継の映像は検閲され、英雄たちが生還した場合などの、ポジティブな場面しか流されなくなった。


 代わりに間を埋めたのは、アルセと決戦することになる、僕に関しての特集報道だった。


 恥ずかしいのでチラっとしか見てないが、ジルコニアを倒したことはともかく、僕が街に落ちてたゴミを拾ってゴミ箱に捨てたとか、どうでもいい話まで持ち出して、必死に持ち上げているようなプロパガンダじみたものみたいだ。


 どうやら、決戦に向けて、街全体で僕を応援するという空気を醸成しようということらしい。


 でも、個人的には、政府や後援会が僕を持ち上げることで、世間から指弾されることを回避したいという思惑の方が強い気がしていた。


 ともかく、やると決めた以上は全力でやるしかない。


 装備を身体に慣らしたり、帰還した精霊にマナを与えて力を回復したり、アルセ本人の情報や、アレハンドラの地理を頭に入れたり、できる限りの準備をして、時を待つ。


 そして、13日と7時間後、その時はやってきた。


 偵察用にダンジョンに潜らせていた精霊の報告で、アルセがすでに五階層まで上ってきていることがわかっている。


 ここからは、本当にもうすぐだ。


 僕たちは、戦列を整え、青空の下、ダンジョンの入り口でアルセを待ち構える。


 ちなみに、今は屋敷は解体され、穴だけが残っている状態だ。


 建物をそのままにしておくと、戦力を展開するスペースがないためである。


 隠しダンジョンの攻略に参加した者の内、現時点での生存者は、全体の七割程。


 残酷な話だが、やはり弱いパーティから順にアルセに追いつかれて殺されていったらしい。


 倒された英雄たちの中には、アンデッド化され、アルセに使役されている者さえもいるようだ。


 生き残った中でも、つい一日や数時間前に脱出してきたようなパーティは疲労で使い物にならないし、仲間をやられたショックで戦えない人たちもいる。


 なので、実質的に僕の援護をしてくれる人たちは、隠しダンジョンの攻略に参加した者の内、3割がいい所だった。


 他にも、アレハンドラをホームにしている冒険者の協力も得られることにはなっているのだが、能力が低い冒険者を集めても足手まといになるだけなので、あまりその数は多くない。


「おう。兄ちゃん。今日はよろしく頼むわ。改めて、兄ちゃんが時間を稼いでくれたおかげで助かったぜ。今日、生き残れたらよ。改めて借りは返してやるから、楽しみにしておけ」


 ボルカスは僕にそう話しかけながら、破壊された得物の代わりに政府から支給された戦斧を、その感触を確かめるように素振りした。


「いえ。そんな借りなんていいですよ。あの時点では証拠が薄すぎたとはいえ、僕がもうちょっと上手く立ち回ってみんなに警告できていたらと思うと、心苦しいぐらいで」


 僕は唇を噛んだ。


 あの時点では自分でも精一杯の対処をしたと思うし、そもそも冒険者は自己責任の稼業なので、僕が事前に危険を伝えなかったことに対して文句を言う人は一人もいなかったのだが、それでも少し罪悪感のようなものがある。


「あなたの紳士っぷりは同じ貴族として称賛に値しますが、仮にあの時点で警告を聞いていたとしても。私たちは同業者を蹴落とそうとする醜い流言飛語の類にしか思わなかったでしょう。そもそも、アレハンドラはあのお嬢さんの存在を誇張しすぎていた。商業主義の弊害です。全く美しくない」


 ルッケローニが黒子に髪をとかさせながら呟く。


 さすが、アルセと同着一位で隠しダンジョンの最下層に到達しただけあって、この二つのグループは脱出も早く、今回の戦闘でも主力だった。


「へっ。奴らは懲りずに、今度はこの兄ちゃんを勇者もどきに仕立て上げようとしているみたいだけどな。――それで、一応、作戦を確認しておくが、俺たちは雑魚共の相手をして、兄ちゃんがアルセとの戦いに集中できるようにすりゃあいいんだな?」


「はい。お願いします。能力の上昇が見込めるスキルをお持ちの方はお借りするかもしれませんが」


 ボルカスの確認に、僕は頷いた。


 にわか仕込みで連携を取って、アルセ一人に攻撃を集中させるのは難しい。


 それよりは、彼らにアルセが引き連れてくると思われるモンスターや英雄のアンデッドに対処してもらった方が確実だ。


「仕方ありませんね。私に男性を援助する趣味はありませんが、今回は特別です」


 ルッケローニが頷いて、楽団の指揮でもするかのように指を振る。


『足音が近い! もうすぐだよ!』


 ダンジョンで張っていた僕の風の精霊が、甲高い声で叫ぶ。


「敵が来る! みんな準備はいいね!?」


 僕の呼びかけに、仲間たちが無言で頷く。


 英雄たちが一斉に武器を構えた。


 魔法使いたちの詠唱が轟き、いくつもの支援魔法が僕を鼓舞する。


 と、同時に、ダンジョンの縁に何者かの手がかかった。


「助け――ぷらぁ!」


 一瞬だけ顔を覗かせた哀れな犠牲者が、口から血を吐き出して、奈落へと落ちていく。


 その後からやって来る存在の気配を感じた瞬間、僕は最大威力の精霊魔法をダンジョンの入り口に叩き込む。


 灼熱。


 弾丸。


 万の刃と化す暴風。


「おやおや。いきなりご挨拶ですね」


 迎え撃つは、永遠の闇を纏う極寒の氷塵。


 二つの力がぶつかり合い、そして、弾ける。


 大地と天をも揺るがす爆発が、僕の鼓膜と戦意を震わせる。


 飛び出してくるアルセ。


 その後に続く、魔の軍勢。


 こうして、かつて勇者だったモノと僕たちの、世界の中心をかけた戦いが始まった。

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