109話 真意
大量の戦利品と共に帰還した僕たちは、村に驚きを持って迎え入れられた。
「モンスターが徒党を組んでいる可能性は考えておりましたが、まさか、これほどとは……。」
村の広場にうず高く積まれたグレイハウンドの皮を見て、代官さんが呆然と呟く。
「いつもはもっと少ないんですか?」
ミリアが首を傾げて尋ねた。
僕たちはいつものスタンビードを知らないので、今回倒した敵が多いのか少ないのかは分からない。
「はい。モンスターの種類にもよりますが、私の知っている限り、ここ百年間のスタンピードでは、せいぜい、20~30体か、多くても50体が限度というところで、このように何百体も集結したという例は聞いたことがありません。もし、放置していれば、村に甚大な被害が出ていたことでしょう。心からお礼を申し上げます」
代官さんが最悪の可能性に身を震わせながら、深々と礼をした。
役に立ったのなら、どうやら僕たちが来た意味はあったらしい。
「いえ。仕事ですから。それよりも、もしお手すきでしたら、グレイハウンドの皮をなめすのを手伝って頂きたいのですが。量が量ですし、このままでは腐ってしまうので」
僕はそう申し出た。
一応、解体してきたとはいえ、皮にはまだ細かな脂肪や肉がこびりついている。
これを丁寧にこそぎ落とさなければ、革として利用できない。
「はい。もちろんです。できる限りの協力をお約束しましょう」
代官さんが彼自身の胸を拳で叩いて、快くそう請け負う。
「ありがとうございます。よろしければ、処理が終わった後の皮は村の方で買い取ってください。金額はそちらの言い値で構いませんので」
「よろしいのですか?」
「ええ。どのみち、王都には持って帰れませんから」
遠慮がちに尋ねてくる代官さんに、僕は頷く。
軍用車に、皮を積んでいくほどのスペースの余裕はない。
っていうか、臭い的にも、皮と一緒に旅するのは嫌だ。
「何から何まで、ご配慮頂き恐縮です。それでは早速、村の者で動ける人間を呼んで参ります」
代官さんが村中に呼びかけると、続々と人が集まってくる。
やはり男手は色々と忙しいのか、女性や子どもが中心のようだ。
「うわっ。なんだい。もしかして、あれ、全部、グレイハウンドの皮なのかい!?」
「あんだけの数を、たった5人で仕留めたのかよ!」
「すげー!」
「さすがは姫様のご同道だね。あんたも、あれくらい朝飯前でできるような立派な戦士になるんだよ」
「それはいくらなんでも無理だよ! 母ちゃん!」
村人たちが、がやがや言いながら、ナイフを片手に作業に取り掛かる。
今までは異物を見る目だった村人たちの僕たちへの視線にも、親しみと敬意が混じるようになった。
尚武の気風からか、力ある者は率直に評価する人たちのようだ。
「……」
「おわっ。スノー。来てたんだ」
突如、物陰からヌッと姿を現したスノーに、僕は思わずそう声を漏らす。
今日の彼女は、鎧の代わりに、全身にモフモフの小動物を何体ものせていた。
この小動物は、尾が三本あること以外は猫にそっくりな、ヌックスという生き物で、この世界では一般的な愛玩動物である。
「見ての通り、作戦は完了致しましたわ」
「……」
ナージャの報告に、スノーはただ小さく頷いて、村人がこそぎ落としたモンスターの生肉を手にとって、ヌックスに食べさせ始めた。
「スノー嬢。一つ確認してもよろしいか。昨日、『めんどい』と発言されたご真意は、吾共に迷惑をかけたくない故の行動と捉えてもよろしいのでござるか?」
レンが単刀直入に尋ねる。
「……それもある」
「『も』ってなによ。『も』って」
リロエが眉をひそめて言った。
「……ヌックスはそこにいるだけでヌックス」
スノーはヌックスを優しく撫でながら、答える。
「あの、どういう意味でしょうか? もう少し、わかりやすくおっしゃって頂かないと分からないです」
「……ヌックスはかわいいからえらい」
困惑気味に尋ねるミリアに、これまた困惑したようにヌックスの両脇を抱えて掲げるスノー。
わざと僕たちに伝わらないように回りくどい言い方をしているという訳ではないだろう。
本人も口をきゅっと引き結び、言いたいことが伝わらなくてもどかしそうな表情をしている。
「――えっと、つまり、スノーは姫だから、村にいるだけで『領主はこの村と共にある』という決意を示す象徴的な存在として、みんなを安心させられるから、敢えて僕たちについてこないことが仕事になると思っていた。そういうこと?」
「! (コクコク)」
スノーは大きく目を見開くと、勢いよく何度も頷いて、僕にヌックスを押し付けてきた。
かわいい。
ご褒美かな?
「あー。なるほどー」
「ふむ。そういうことなら納得でござるな」
ミリアとレンが、得心がいったように頷く。
「――というか、なんで、タクマは今ので分かるんですのよ!? 読心の魔法でも習得したんですの? それとも、『女殺』の特殊能力だとでも!?」
ナージャが信じられないようなものを見るような目で、僕を凝視する。
「どっちでもないよ。ただ何となく、そうかなって思っただけで」
僕は正直に答えた。
明確な根拠はない。
でも、しばらく一緒に旅をしてみて思ったのだが、スノーはきっと、見た目ほどぼんやりした考えをもった人間ではない。
頭の中では色々考えていて――いや、むしろ、考え過ぎてしまうせいで、言葉を選びに選んだ結果が、今の彼女なんじゃなかろうか。
そういう認識の下、全てにおいて言葉足らずな人だと始めから分かった上で接すれば、スノーの発言の理解度も自ずと変わってくる。
(……それとも、テルマのおかげかな?)
スノーとは方向性は違うが、テルマもまた不器用な人なので、彼女との付き合いの中で、こういう誤解を受けやすいタイプの真意を察する力がついてきたのかもしれない。
「はあ。もうこれ、パーティに入れてあげるしかないんじゃない? タクマ以上にこの娘の言葉を理解できる人間なんて、この先現れなさそうだし」
リロエが諦念混じりの口調で言う。
「(コクコク)」
リロエに賛同するように頷くスノーに、さらにヌックスを二匹進呈された。
ニューニューと、うるさかわいい声を出すそれらが、僕の首筋にまとわりつく。
「……いや、このヌックスたちはかわいいけど、それは是々非々で判断しないと。まだ、一度もスノーと連携して戦ってないし」
僕としても彼女には加入して貰う方向で前向きに検討したいが、まずはパーティとしての戦闘能力を吟味しないことには始まらない。
ガンガンガンガン! ガンガンガンガン! ガンガンガンガン!
などと、僕が悩ましく考えていると、突如半鐘を打ち鳴らしたような音が村中に響いた。
「代官さん。この音は?」
「見張り櫓からの伝令です! 四回鳴らすのは『警戒』の合図です!」
僕の問いかけに答えながら、代官さんは北にある櫓へと駆ける。
他の村人も作業を停止し、それぞれの家に駆け込んで、得物を手におっとり刀で飛び出してきた。
僕たちも村人たちと一緒に櫓の下へと向かう。
「どうした!? まさか、モンスターが現れたか!?」
代官さんが、櫓の上の見張りにそう問いかける。
「いえ! モンスターではありません!」
「モンスターではない? では野盗の類か?」
「いえ……それが、分からないのです! 人は人なのですが、どうにも、格好がおかしくて!」
見張りの人はどう表現していいか迷うように、視線を伏せる。
「あー、もう! はっきりしないわね! ウチが確認してあげるわ!」
苛立たしげにリロエが空へと浮遊する。
僕も飛べるけど、リロエが確認してくれるならわざわざ精霊魔法を村人の前でひけらかすこともないか。
「どうですの!? 何か見えまして? この距離だと、ワタクシの力では、レベル30ほどの生命体がいくつかいることしか察知できませんわ!」
ナージャが叫ぶ。
「ちょっと待って! どれどれ――って、な、な、な、ななななななによあれええええええええ!」
遠方に目を細めたリロエは、途端に顔を真っ赤にして絶叫する。
「リロエ! 説明をお願い!」
「ああもう! 見たままを言うわよ! 下着姿の半裸の人間たちが、村に向かってくるわ! 大体、50人くらい! 武器は持ってないみたい!」
僕に促されたリロエが、やけくそ気味に叫ぶ。
どうやら、今度のトラブルは、変態の姿をしてやってきたらしい。




