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100話 精霊との付き合い方(1)

 仲間たちとの昼食を終えた後の自由時間。


 僕は海岸に来ていた。


 芯だけ残った果物、魚の骨、片っぽだけになった靴――波打ち際に溜まったゴミを、ズダ袋に回収していく。


 一往復すると、二袋がほぼいっぱいになった。


「こんな感じでどうでしょうか?」


 ひとまず作業に目途をつけた僕は、ずっと浅瀬からこちらを観察していた水の精霊に小声で話しかける。


 それは、螺鈿にも似た輝きを放つ虹色のウミウシだった。


「いいでしょう。あなたに力を貸します。でも、これからも少なくとも月が満ちて欠けるくらいの間隔で清めてくださいね。生物の営みは時に海を豊かにしますが、栄養が多すぎると海が荒れますから」


 水の精霊は見た目に似合わぬ、母性を感じさせる柔らかな声で告げた。


「わかりました。よろしくお願いします」


 僕は頭を下げて、ズダ袋を担いでその場を辞す。


(これでようやく8柱目か)


 最近僕が注力しているのが、こうして契約を結んでくれる精霊を増やすことだった。


 いくら名目上精霊魔法が使えるようになったとは言っても、協力してくれる精霊がいなければ、力は発揮できないからである。


 精霊が掲示してくる条件は本当にそれぞれで、今回のように『海岸のゴミ拾いをする』というのもあれば、『一日に一回笛の音を聞かせる』、『花を三種類育てる』、『特定の砥石で剣を研ぐ』など様々だ。


 どれもちょっとしたことで、大きな代償を求められるとかではないのだが、日常のルーティーンに組み込むとなると、無制限に契約する精霊の数を増やす訳にもいかない。


 また、土地柄によって精霊の多さにも違いがあり、マニスの場合は、風と水の精霊にとっては居心地が良く、土と火の精霊にとっては微妙な場所なのだという。


「後はこれを庭の肥料に――あ、でも塩分があるからだめかな。となるとゴミ処理業者に引き渡すしかないか」


 僕はそう独りごちると、砂浜の端に設置された焼却場――といっても、大きな石で円状に取り囲んだだけの簡単な施設――でぶちまけたゴミを灰にして、また袋に戻す。


『ふわー。ご苦労なことだねえ』


 呑気にそこら辺をぷかぷかしていた風の精霊が欠伸をする。


 ちなみに、残りのエルフの里からついてきてくれた火の精霊と土の精霊はあまり海辺が好きではないので、今は屋敷にいる。


 精霊にもそれぞれ個性があるので、一見同じ属性に見えても好みは違ったりするのだ。


 そこら辺の見極めも中々難しいところである。


「僕は精霊魔法のビギナーですからね。地道にいかないと」


『ふーん。あのさー。ずっと言おうと思ってたんだけど、力を借りたいなら、そんなめんどくさいことをせずに、キミが精霊に直接、マナを食べさせた方が喜ぶと思うよ。っていうか、ボク、キミがおいしそうな匂いがするからついてきたのに、全然食べさせてくれないから、お預けをくらった気分なんだけど』


 風の精霊はそう言って、僕の髪を戯れに引っ張る。


「そう言われても……。そのマナっていうのは、日頃僕たちが魔法に利用している力とは別の物なんですか?」


 少なくとも僕はこの世界でマナという存在を聞いたことがない。


 地球にいた頃にファンタジー小説とかで読んだことはある単語ではあるが、作品によって扱いが違うので、一概に『こういうものだ』という断言もできない。


 まあ、そもそも創造神様によって異世界語翻訳のチートをもらってるので、精霊の意図が僕の知っている中で一番近い単語に変換されているだけなのかもしれないし。



『どっちも同じといえば同じなんだけど、うーん。なんて言ったらいいかなあ。キミたち、料理をするでしょ? 芋とか、野菜とかは、肉とかは、そのまま食べられなくはないけど、火を通して、塩とか、キミが作った――味噌だっけ? そういうので味付けするとおいしくなるよね? それと一緒で、自然の中にあるエネルギーが人の中に入ると、キミたちの中で料理されるんだよね。もちろん、全部がおいしい訳じゃなくて、まずいマナを持った奴もいるんだけどさ。心根や生き方がよくないとね』


 風の精霊が鼻歌を歌いながら呟く。


「分かったような分からないような……。でも、精霊の皆さんが欲しいっていうなら、できるだけ提供したいとは思います。そのマナっていうのは、僕の意思で自由に出せるものなんですかね?」


『できるんじゃない? ボクもあんまり詳しくないけど、さっきこの辺のお仲間に聞いたら、ちょっと前は、おいしい風のマナを分け与えてくる人間がいたっていうし。ええっと、なんだっけ、シフォンとか、ソフォスとか、確かそんな名前の奴』


 風の精霊は適当な口調で呟く。


「もしかして、叡智神ソフォスのことですかね? もしかして、僕の前にも精霊魔法を使える人がいたんですか?」


 オルゾの話では、叡智神ソフォスは精霊魔法にも相当な興味を持っていたようだから、その辺の研究もしていたのかもしれない。


「それはいないと思うなあ。少なくともボクは知らない。でも、見えないけど、エルフ以外にも精霊の存在を感知できる奴はたまにいるよ。ボクたちと契約できないから精霊魔法は使えないけど、たまに気が向いたら力を貸してあげることもあるよ。ほら、キミたちもたまに使うでしょ。『神風』とか『いたずら風』とかそういう言葉」


 風の精霊は、気まぐれに手を振る。


 陸風が吹いて、出向していく帆船を加速させた。


「なるほど。――とりあえず、そのマナが出せないか、ソフォス様の神殿でちょっと調べてみますよ」


「神殿って、あの閉め切られたむっとする建物? ボクああいうところ苦手だなあ。でも、頑張ってね!」


 風の精霊はそう言うと、ふらふらとどこかに飛び立って行ってしまった。


 まあ、風の精霊は気まぐれなものだししょうがない。


 僕はゴミを処分した後、そのままの足で叡智神ソフォスの神殿へと向かった。

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