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鬼は外、布団が内  作者: 吾桜紫苑
第4章 何でこんな主なんだろう。
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鼻で笑われないだけ、マシか。

「で? さっきからぶら下げてる景気の悪い面はその事情とやらか」

「……ばれたか」

「寧ろ気付いてくださいって感じだぜ、非常に鬱陶しい」


 すぱっと言い切られて、また苦笑が漏れる。この様子なら、俺の悩みなんてくだらねえと一言で終わらせるだろう。それでもまぁ、言えるだけマシか。


「……ツヴァイがさ」

「あ?」

「強化体の初期メンバーの1人だよ。俺の同期。……そいつが、死んだ」

「寿命か」


 寿命。言ってしまえば、それまでなのかもしれない。人間より長く生きておいて、何を今更と言われてしまうかも知れない。

 けど、それでも。


「……狂って吠え猛って暴れて、敵味方の見境無く襲いかかって。獣のように、主に殺処分されるのが、寿命かよ」

「便宜上そう呼ばれるだけだろ。今んとこ、他の死に方がねえから」

「認めたくねえよ、そんなの……けど」

 言葉を止めて、俺は抱えていた思いを吐き出した。

「……それ以外の言葉を当てはめて、あいつ等の死を穢すのも、嫌だ」

「キチガイ扱いは願い下げか」

「あぁ」


 あいつらは、精一杯生きた。教官にしばき倒されながらも、戦って、学んで。道具扱いされながらも冥府での居場所を必死で作って、……使用者に、尽くして。


「ツヴァイと仲が良かったわけじゃ、ねえけどさ。あんなに冥府に尽くした奴でも、全部忘れちまうんだなあ、……ってな」


 ツヴァイは俺と違って、使用者に尽くす事を当然とする、強化体の鑑とすら言える奴だった。何となく素直に従えなかった俺を詰ってくるから、取っ組み合いの喧嘩を何度もした。そのくらい、意見は合わなかった。

 それでも、強くて。俺と本気で喧嘩して互角な奴で。仕事もきっちりこなす、気の良い奴だった。


 そんな奴が、使用者に牙を剥いたというのは……酷いとしか、言えない。


 強化体の末期は、ある意味最初に戻るのに近いのかも知れない。俺がガキの頃ひたすら暴れ回っていたように、いやそれ以上に、人の言葉の通じない獣と化して、無差別に襲いかかってしまう。


 そして、その被害を食い止める為に息の根を止めるのが、「使用者」の義務だ。


 その事実を、瑠依の脳天気な顔を思い出して、息苦しくなる。


「……なあ。なんで疾が、使用者になんなかった?」

 疾がこっちを見た。視線を避けるように顔を伏せて、吐き出す。


「瑠依は良い主だけど……だからこそ、俺の寿命が来た時が、怖い。疾と違って、瑠依は……処分、出来るか……?」


「ま、無理だろうな」

 あっさりと言いきられて、顔が歪んだ。お構いなしに、疾が続ける。

「あいつはこれまでぐうたらと過ごして来た、平和ボケした甘ちゃんだ。人鬼の相手はしない、と局長相手に言いきった阿呆だぜ」

「そこまで知ってたのに、瑠依を推したのか」

「推してねえよ。断ったら、局長が代わりに瑠依を指名したんだろ」

「そうなると分かってて断ったんだろ?」

「可能性はな。……竜胆、お前瑠依の事言えねえぞ」

「は!?」


 唐突にそんなことを言われて、咄嗟に顔を上げる。呆れ顔の疾がこっちを見ていた。


「局長のシナリオはな、俺と竜胆を互いに監視させあうってものだ」

「は……?」


 訳が分からない。俺はともかく、何で疾を監視するんだ?


「あのな、俺は局長の頭越しに選ばれた、100年ぶりに自前の神力を持つ鬼狩りだぞ。あのクソ局長が、そんな不安因子を野放しにするわけねえだろ」

「まあ……」

「だからまず、あの馬鹿と仕事をするよう指示した。居住区域が同じだからってのはこじつけだ、竜胆はずっと冥府ここからあちこちの鬼狩りの所へ向かってただろ」

「そ、ういえばそうだな」

「つまり最初は瑠依を監視要員にしたわけだが……馬鹿は馬鹿だからな、すっかり俺に騙されるわ利用されるわ。俺の名前出すまいとしてただろ、アレも成果の1つだな」

「……つくづく、俺が来るまでの瑠依の扱いが分かるな」


 つまり瑠依は、最初からボコボコにされつつ良いように利用されてたわけだ……ちょっと気の毒になってきたな。


「といっても、あの馬鹿は元々スパイなんて真似出来る訳ねえんだが。お人好しな上に頭が回らねえから仕事にならん。まだあの変態の方がマシだ」

「あー……うん、そうだな」


 確かに、疾について探りたいなら﨑原さんの方が良い仕事をしそうだ。


「局長も直ぐに悟ったが、かといって他に手もねえ。あんま干渉すると俺や上司から睨まれるしな。そこでお前だ、竜胆」

「……俺が瑠依と契約して、疾の監視しろって?」


 あの頃はまだファルと組んで仕事してたんだが、と首を傾げる。


「上手く行ってないのがばれてたんだろ。経験を積ませる為とか適当な言い分を作って、俺や瑠依と合同の仕事をさせた時点で妙だろ。所謂起爆剤だ」

「……そんなことまで」


 来るべくして来た終わりとはいえ、仕組まれたと知るのは気分が良くなかった。本当に、あの局長は食わせ物だ。


「俺が冥府に牙を剥けば真っ先に犠牲になるだろう瑠依を必ず守るよう竜胆と契約させ、瑠依の甘ちゃん度合いは俺に尻ぬぐいをさせる。そうすりゃ勝手に警戒がてら監視しあうだろうっていう狙いだよ。胸糞悪ぃ」

「……だから、能力を隠すのか」


 俺も瑠依も敵になるかもしれないから。一線を引いて警戒していたのは、俺達と言うより、その背後にいる局長を警戒してって事か。


 そう思ったが、疾は首を横に振った。

「いーや? さっき言った方が理由だ。局長1人潰すのは訳ねえけどな、これはクソ局長の独り相撲だぜ、ぶっちゃけ」

「は? 独り相撲?」


 疾が警戒されるのは、今までの様子を考えても無理ないんじゃねえのか。


「なあ竜胆。人間である俺が、冥府に喧嘩売ってどうすんだ?」

「…………それもそうだな」

「だろ」


 流石に納得した。そうだな、何も意味ねえな。


「いっぺんぶん殴るとかその程度は思うが、本格的に組織を相手取って喧嘩する意味が分からん。それをして何かメリットが俺に有るかよ、死後に地獄巡りする趣味はねえぞ」

「地獄の官吏共を手玉にとって遊びはしねえのな」

「くたばってまでするか、んなもん。生きるか死ぬかの瀬戸際だから楽しいんだろうが」

「いやそれもよくわかんねーけど……」


 やっぱり、疾の思考回路は少し謎だ。


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