第50話:影脈の分岐
サンドリア大陸へ向かう荒野の道中、風が砂塵を巻き上げ、タクミたちの視界を霞ませる。砂が頬を叩き、乾いた土と熱の匂いが鼻を刺す。ストームライダーのエンジンが唸り、空を切り裂く。熔鉄団の10人が馬車を囲み、槍と斧が砂に擦れる音が響く。タクミがコックピットで魔脈石モニターを睨み、汗がスーツに染みる。
「ガイスト、魔脈感知はどうだ? サンドリアまであとどれくらいだ?」
ガイストの冷静な声がコックピットに響く。
「魔脈波動は安定。ダストホロウまで約50キロメートル。ただし、前方に微弱な魔脈反応を検出。接近中だ、タクミ。」
タクミが目を細め、モニターを拡大する。砂塵の向こうに揺れる影が映る。
「貴族の残党か…? いや、違うな。」
その時、砂風が唸りを上げ、黒いローブの集団が姿を現す。影脈会の残党——レオンの死後(第46話)、散り散りになった者たちだ。先頭に立つ女魔導士が杖を掲げ、一行の進路を塞ぐ。彼女の顔には深い傷跡が刻まれ、砂に濡れた瞳に冷たい決意が宿る。
「私はセシル、影脈会の新リーダー候補だ。レオンは死に、復讐は我々が続ける。貴族を潰すなら手を組め。」
声は低く、砂風に混じって鋭く耳を劈く。
タクミがストームライダーを着地させ、コックピットから飛び降りる。熔嵐合金の装甲が砂に映え、朝陽が銀のラインを輝かせる。彼がセシルを睨み、熱く吼える。
「禁忌魔法で死ぬ道か? レオンはそれで命を落とした。お前らも同じ道を歩むつもりか?」
セシルが杖を握り直し、目を細める。震える声に涙が一筋こぼれ、砂に染みる。
「50年前、貴族に妻子を殺されたアランが影脈会を創った。私は10年前、家族を失い、禁忌で生きる道を選んだ。貴族を潰すなら、この命を捨ててもいい。」
ローブの袖をまくり、腕に広がる黒いひび割れを見せる。禁忌魔法の代償が、彼女の体を蝕んでいる証だ。
リアが馬車から飛び降り、エーテル・ノヴァを握り潰す。砂が足元に舞い、涙が熱く頬を伝う。彼女の叫びが荒野を切り裂く。
「兄ちゃんも同じだった…! 貴族に操られて、禁忌魔法で死んだ。でも、私を救って死んだんだよ!」
声が風に震え、砂に涙が落ちる。
「兄ちゃんは私を選んでくれた。私には兄ちゃんの想いがある。禁忌なんかに頼らなくても、私たちは貴族を倒せる!」
叫びに影脈会の者たちがざわめく。セシルが一瞬動揺し、杖を下ろして呟く。
「レオンはお前を選んだのか…。私の復讐とは違う道を…。」
その言葉が火花となり、影脈会の残党が分裂する。一部の者がセシルを囲み、砂塵の中で吼える。
「貴族と戦え! レオンが死んでも、影脈会の復讐は終わらない!」
彼らが砂の彼方へ去り、足音が風に消える。一方、数人の影脈会メンバーがタクミの前に進み出て、膝をつく。リーダー格の男が頭を下げ、慎重に言う。
「異邦人、我々は貴ストームライダーの男に付く。禁忌魔法で死ぬより、お前たちと貴族を倒したい。レオンが選んだ道を信じる。」
タクミが男を見下ろし、ニヤリと笑う。
「なら仲間だ。貴族を潰すために戦え。お前らの情報も役に立つぜ!」
バルドが「デュアル・ヴォルティス」を手に、セシルの去る背中を睨む。双剣に雷が走り、砂を焦がす。
「復讐に溺れるなら、お前も斬る。」
熔鉄団の戦士たちが槍を構え、新たな仲間である影脈会の者たちと陣を組む。槍の柄が砂を叩く音が響く。タクミがリアの肩に手を置き、熱く言う。
「お前の叫びがこいつらを変えた。レオンの想いは生きてるぜ。」
リアが涙を拭い、エーテル・ノヴァを握り直す。
「うん…兄ちゃん、見ててね。私、影脈会のみんなを救うよ。」
セシルが最後に振り返り、タクミたちを見つめる。砂風が彼女のローブをはためかせる。
「貴族を潰せ。それがレオンへの弔いだ。」
彼女が砂塵の彼方へ消え、影脈会の分裂が決定的となる。タクミがストームライダーに戻り、ガイストに呼びかける。
「魔脈感知を続けろ。サンドリアで貴族の動きを掴む。影脈会の情報も解析しろ!」
「了解、タクミ。影脈会の分裂は我々に有利に働く可能性がある。セシルの動向も監視対象だ。」
一行は再び荒野を進む。ストームライダーが空を切り、エンジンの唸りが風を裂く。馬車が砂を蹴り、車輪の軋む音が響く。リアが馬車の荷台で星空を見上げ、呟く。
「兄ちゃんの星…見守っててね。私、貴族を倒して、影脈会を救うよ…。」
サンドリア大陸への道は、新たな仲間と決意を胸に続いていた。




