第175話:次元を越える決意
ヴェールウッドの森が青い魔脈エネルギーの光に包まれる。マグナ・ストライダーのコックピットで、タクミは次元移動装置のスイッチを押す。セレスティア・ドライブが低く唸り、コンソールに魔脈ラインのデータが映し出される。胸部に装着されたガイストが青い光を点滅させ、警告を発する。
「魔脈ライン、乱流残存。エネルギー安定度55%。次元移動の成功率70%。ガルザークの結晶、魔脈反応安定。移動リスク:中程度。」
タクミは操縦桿を握り、ガルザークの残骸をマグナの腕に固定したまま目を細める。風神の眼が空間の微かな歪みを捉え、プラズマジェネレーターを壊した時の苦戦が脳裏をよぎる。タクミが低く呟く。
「リスクはある…だが、ガルザークをヘブンズ・セプトに連れて行く。クロノスの呪縛から解放するんだ。」
コックピットの外では、ヴェールウッドの門が遠ざかる。ガレンの姿が光の中に溶け、空間が一瞬揺らぐ。マグナの装甲が微かに振動し、次元移動が始まる。だが、ガイストが急に光を強める。
「警報!次元獣反応、5体確認!出力各10MW、接近速度秒速20メートル!」
タクミの視界が歪む次元の狭間で、5体の次元獣が黒い霧の中から現れる。鋭い爪と赤い目が魔脈の光に映え、咆哮が空間を震わせる。タクミが舌打ちし、コンソールを叩く。
「次元移動中に襲ってくるとは…ガルザークの結晶を狙ってるのか!?」
ガイストがARパネルを展開し、獣の軌道をリアルタイムで表示。
「結晶の魔脈反応が獣を引き寄せた可能性75%。推奨:ストームブリンガーで迎撃、移動装置のエネルギー保護を優先。」
タクミはマグナを旋回させ、ストームブリンガーを抜く。剣先が青白い魔脈エネルギーで輝き、次元獣の1体に斬りかかる。刃が黒い装甲を切り裂き、獣が爆発とともに霧散する。だが、残り4体がマグナを取り囲み、爪が装甲を叩く。火花が散り、ガイストが警告。
「装甲耐久度、95%に低下!結晶保護シールド、稼働率100%。次元移動エネルギー、53%に低下!」
タクミは風神の眼で獣の動きを読み、ネクサス・サイトで弱点を捕捉。
「エネルギー低下はマズい…一気に片付ける!」
マグナの肩から8連魔脈ランチャーが展開。青い魔脈弾が次元獣を貫き、2体が同時に消滅。残り2体が結晶を狙い、マグナの腕に襲いかかる。タクミが叫ぶ。
「ガルザークは渡さねえ!」
セレスティア・ブレイザーを構え、青白い奔流が空間を焼き尽くす。次元獣が光に呑まれ、次元の狭間に静寂が戻る。ガイストが報告する。
「次元獣全滅。移動エネルギー、51%に低下。魔脈ライン、乱流増幅中。ヘブンズ・セプト到着まで30秒。」
タクミが息を吐き、コンソールに映るガルザークの結晶を見つめる。青い光が微かに脈打ち、まるで応えるように輝く。タクミが呟く。
「待ってろ、ガルザーク。もうすぐだ。」
見えない影の中、クロウがマグナの後部装甲にしがみつく。隠形術で気配を消し、短剣を握り締める。次元移動の振動に耐えながら、心の中で計画を練る。
(結晶はヘブンズ・セプトで奪う。ゼルヴィス様の命だ…クロノスの技術を貴族の手に取り戻す。)
空間が安定し、ヘブンズ・セプトの広大な浮遊都市が視界に広がる。魔鋼の塔がそびえ、新鍛冶場の煙突から白い煙が立ち上る。マグナが着地し、轟音とともに大地を震わせる。タクミがハッチを開け、ガルザークの残骸を慎重に下ろす。ゴルドが熔鉄団の鎧を鳴らし、力強い声で迎える。
「タクミ!無事か!何だ、その残骸は…?」
リア、カザン、バルド、ジン、エリナがゴルドの後ろに集まり、ガルザークの姿に目を奪われる。機械化された身体、砕けた結晶、赤い単眼の残骸に、リアが息を呑む。
「これ…ガルザーク!?どうしてこんな姿に!?」
カザンが熔雷槌を肩に担ぎ、装甲を叩いて確認する。
「半分以上が魔鋼と機械だな…クロノスの仕業か?タクミ、こいつをどうする気だ?」
タクミは結晶の欠片を手に持ち、そっと触れる。風神の眼が光り、刹那、若いガルザークが剣を磨く姿が脳裏に閃く。木剣を手に村の広場で汗を流す少年の笑顔。タクミが一瞬目を閉じ、仲間たちを見回す。
「ガルザークはクロノスの被害者だ。鉄都の戦いで倒した時、俺はこいつの執念を認めた。騎士の魂を持った男だった。だが、こんな姿で無理やり蘇らされた。俺が…こいつに自由を取り戻させる。ヘブンズ・セプトの鍛冶場で、ガルザークを再構築する。」
ガイストが胸部で光を強め、報告する。
「結晶解析:意識断片、騎士の記憶85%残存。誇りと葛藤の痕跡が強い。クロノスの改造で魂が抑圧されている可能性95%。再構築で解放の可能性あり。」
バルドが双剣の柄に手をやり、眉を寄せる。
「敵だった奴を直すってのか?剣士として強かったのは認めるが…リスクが高すぎるぜ。」
ジンが竪琴を手に、穏やかに言う。
「タクミの言う自由…それはガルザークの魂を癒すことかもしれない。だが、クロノスの影がまだ残っているよ。」
エリナが優しく微笑み、タクミに近づく。
「タクミがそう決めたなら、私も信じるよ。ガルザークも、きっと救われるな。」
ゴルドが豪快に笑い、鍛冶場の方を指す。
「ハハ!なら話は早え!新鍛冶場なら魔鋼も結晶も揃ってる。タクミ、設計図を用意しろ。カザンと俺で何とかしてやるぜ!」
リアが一歩前に出て、タクミを見つめる。
「クロノスに操られた敵を仲間にするなんて…本当に大丈夫?でも、タクミが言うなら…やってみる価値はある、かな。」
タクミが頷き、結晶を握り締める。青い光が仲間たちの顔を照らし、微かな希望を映す。
「ありがとう、みんな。ガルザークはただの道具じゃない。元は鉄都の民のために剣を振るった騎士団長だ。クロノスに奪われた魂を、俺たちが取り戻す。」
クロウは遠くの塔の影に隠れ、仲間たちの会話を盗み聴く。隠形術で姿を消し、短剣の刃を月光に光らせる。心の中で呟く。
(タクミめ…結晶を再構築だと?ならばなおさら奪う価値がある。天空の鍵はなくとも、貴様らの隙を突けばいい。)
鍛冶場の炉が赤く輝き、金属の打音がヘブンズ・セプトに響く。タクミはガルザークの結晶を手に、仲間たちと共に新たな戦いの 士の誇りを胸に、再び剣を手に戦場へ戻る。




