第172話:再会の剣
アルテリアの荒野に砂塵が渦巻く。黒い影がマグナ・ストライダーの前に立ち、魔脈エネルギーの赤い脈動が不気味に輝く。タクミはコックピットで目を細め、ジョイスティックを握り締める。風が唸り、砂煙が徐々に晴れていく。黒鋼の装甲に覆われた巨大な人型兵器が姿を現す。両腕には赤い光を帯びた剣が低く唸り、胸に埋め込まれた魔脈結晶が陽光を歪ませて脈打つ。タクミの瞳が揺れ、信じられない思いで呟いた。
「まさか…ガルザーク。いや、まさか…お前、死んだはずじゃ!?」
ガイストが青い光を点滅させ、タクミの周囲を浮遊しながら即座に解析を始める。ディスプレイにデータが映し出され、警告音が小さく響く。
「エネルギー出力、40MW確認。魔脈結晶の増幅反応、胸部に集中。過去のデータと一致。ガルザーク、魔改造型と断定。だが、生命反応ゼロ。装甲の50%以上が機械化、推定:人造人間。」
タクミの息が一瞬止まり、ディスプレイに映るガルザークの姿を凝視する。かつての騎士の面影は薄れ、半身が冷たい機械に置き換わっている。右腕は鋼鉄の義肢に変貌し、顔の左半分は金属板で覆われ、赤い単眼が無機質に光る。タクミが拳を握り、声を震わせた。
「クロノス…こんな酷いことを。お前がやったのか?ガルザークはこの手で俺が倒した。あの執念深い騎士が…こんな姿にされるとは。」
ゼルヴィスが折れた槍を手に冷たく笑い、タクミを見下ろす。
「驚いたか、タクミ。ガルザークは貴様に敗れても、我々の手で蘇った。貴様の正義感など、この力の前では無意味だ!こんな可愛いガルザークにそのデカブツで戦うのか?お前もその玩具を降りて正々堂々と戦ったらどうだ?」
タクミが操縦桿を軽く叩き、挑発するように荒野に声を響かせた。
「正々堂々だと?お前ら…そんなことまでしないと俺に勝てないのか?ガルザークをこんな目に遭わせてまで。」
ガルザークの赤い目が一瞬輝き、低い唸り声が砂塵を震わせる。だが、かつての誇り高い声はなく、ただ機械的な軋みが響くだけだ。ガイストが浮遊しながら光を強め、警告を発した。
「挑発だ、タクミ。聞くな。出力40MWはマグナの30MWを上回る。魔改造による不安定性はあるが、慎重に戦え。胸の魔脈結晶が弱点の可能性。」
タクミが目を細め、ディスプレイを見つめる。ガルザークの装甲が微かに揺らぎ、赤い脈動が不規則に点滅する。タクミが静かに呟いた。
「確かに強い。だが、ガルザークには敬意を評するよ。前回の砂漠での戦い、あの時は仲間と一緒にやっと追い詰めた。胸の魔脈結晶を砕いても逃げられた。あの執念は嫌いじゃなかった…こんな姿になる前はな。」
彼がコックピットのシートから立ち上がり、ハッチを開けるスイッチを押す。風が吹き込み、砂がコックピットに舞い込む。ガイストが驚いたように光を点滅させ、タクミの周りを旋回した。
「タクミ、何だその行動は?マグナで戦え!」
タクミが薄く笑みを浮かべ、マグナ・ヴェスト Mk-IIの装甲を軽く叩く。
「今は違うんだよ、ガイスト。マグナ・ヴェスト Mk-IIの神経接続は0.01秒で反応する。新しく作った剣、ルミナス・エッジもある。ガルザークと正面からやり合って、俺の力で勝つ。クロノスに…こんな目に遭わせた奴に、俺が決着をつける。お前も準備しろ。」
タクミがマグナから降りる。ハッチが開き、砂の上に着地すると、マグナ・ヴェスト Mk-IIが陽光に輝く。神経接続が起動し、全身に微かな振動が伝わる。ガイストが一瞬浮遊を止め、タクミの胸元へ向かって滑り込む。ヴェストの胸部装甲が開き、ガイストがカチリと装着される。青い光がヴェスト全体に広がり、タクミの視界にARパネルが展開する。ガイストの声が直接頭に響いた。
「装着完了。ヴェストとの同期率、98%。エネルギー供給最適化、戦闘モード移行。敵の動きをリアルタイムで報告する。」
タクミが腰から新剣「ルミナス・エッジ」を抜き、青白い魔脈エネルギーが刃に走る。剣先が微かに唸り、砂を焦がす。ガルザークが一歩踏み出し、大地が震える。両腕の剣が赤い光を帯び、荒野に不気味な影を落とす。タクミが構え、ガイストが補足した。
「ガルザーク、接近速度秒速5メートル。剣の強度、20トン予測。ルミナス・エッジ、出力15MW安定。マグナなしでの戦闘、リスク高。」
タクミが息を吐き、砂を踏みしめて呟く。
「リスクはある。でも、マグナなしで勝つ。ガイスト、援護頼む。ガルザークの動きを逐一報告しろ。」
ガルザークが両腕の剣を振り上げ、赤い魔脈エネルギーが奔流となってタクミに迫る。砂塵が巻き上がり、衝撃波が大地を裂く。ガイストが即座に叫んだ。
「衝撃波、強度18トン!回避推奨!」
タクミが風神の眼で風の流れを読み、ヴェストの反応速度を頼りに跳び上がる。衝撃波が足元の砂を抉り、爆音が荒野に響く。空中でルミナス・エッジを構え直し、ガルザークを見据える。ガイストの青い光が胸で脈打ち、ARパネルに敵の軌道が表示される。タクミが呟いた。
「動きが重いな。魔改造で無理してるのか?クロノス、こんな化け物を作ったお前を…絶対に許さねえ。」
ガイストが報告を続ける。
「魔脈結晶、過負荷兆候。出力40MWだが、安定性30%低下。装甲に微小な亀裂確認。」
タクミが砂に着地し、ルミナス・エッジを手に突進する。ガルザークが剣を振り下ろし、赤い光がタクミを狙う。タクミが剣で受け止め、火花が散る。ヴェストの装甲が軋み、衝撃が全身に響く。ガイストが警告を発した。
「剣の強度、22トン!ヴェスト耐久度、95%に低下!反撃のタイミング、0.5秒後!」
タクミが歯を食いしばり、ガルザークの剣を弾き返す。ルミナス・エッジが青白い軌跡を描き、ガルザークの装甲に切り込む。浅い傷が走り、赤い脈動が一瞬揺らぐ。タクミが息を吐き、決意を込めて呟く。
「やっぱり不安定だ。ガルザーク、俺はお前を越える。そしてクロノス…次はお前だ。」
ゼルヴィスが遠くから叫ぶ。
「バカが!無謀な小僧が!ガルザークに勝てると思うな!」
黒い影との戦いが、砂塵の中で本格的に始まった。タクミの瞳には、ガルザークへの敬意と、クロノスへの静かな怒りが宿り、胸に装着されたガイストの光がその決意を照らしていた。




