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第158話:雲海の深淵へ

ヘブンズ・セプトの拠点に朝陽が差し込み、黄金の草が柔らかな風に揺れている。ピットの巨大な炉からは赤い炎が轟々と立ち上がり、熱気が湿った空気を押し上げる。熔鉄団の鍛冶音が響き合い、ゴルドが熔魔鋼を叩く重い打音と、カザンが熔雷槌を振り下ろすたびに地面を震わせるドスンという低音が混じる。火花が飛び散り、タクミの頬をかすめて熱を残す。彼はピットの縁に立ち、設計図を握り潰さんばかりに手に持つ。肩には仮組み用のマグナ・ヴェスト—まだナノカーボンチューブも結晶コーティングもない粗削りな試作品—が重くのしかかり、金属の冷たい感触が肩に食い込む。


カザンが熔雷槌を肩に担ぎ、タクミに熱っぽく叫んだ。

「タクミ!ピットの火が安定したぜ!結晶スケイルの仮装甲なら今すぐ作れる。セレスティア・ドライブの炉はどうするんだ?」

タクミはマグナ・ストライダーの漆黒の機体を見上げる。6メートルの巨体が陽光に鈍く光り、肩の風切りブレードが微かに風を切り裂いて鋭い音を立てる。脚部の推力ブースターからは熱い空気が漏れ、地面の草を焦がす匂いが鼻をつく。

「炉のチタンセラミックは今日中に仮組みする。でも本物の強化には超魔脈結晶がもっと必要だ。雲海の深淵で手に入れるぞ。」

ガイストがタクミの横を浮遊し、青い光をチカチカさせながら冷静に言った。

「水晶板の解析結果だ。雲海の深淵、深度3000メートル付近に魔脈鉱脈が広がっている。結晶は深部に眠る青白い脈として存在。魔脈の乱流が採掘の障害になるだろう。」


ピットの横では、熔鉄団の職人たちがチタンセラミックの炉を組み上げている。仮組み用の超魔脈結晶が炉の中心で青白く輝き、リング状に並んだ結晶片が低く唸りながら共鳴を始める。タクミはその光をじっと見つめ、設計図を広げて指で炉の部分をなぞった。

「これで10MWは出せる。30MWにするには深淵の結晶が必須だ。カザン、熔魔鋼のブレードも準備してくれ。風切りブレードをもう一段階強化したい。」

カザンが豪快に笑い、熔雷槌を振り上げた。

「おう!熔鉄団の火で何でも作ってやるぜ!」

槌が炉に叩きつけられると、衝撃波がピットを震わせ、熔魔鋼が赤熱して柔らかく形を変える。熱風がタクミの髪を乱し、金属が熔ける甘い匂いが漂った。


広場に移動すると、リアが七色の光球を手に持って跳ね回っている。光球が朝陽に反射して小さな虹を作り、彼女の笑い声が風に混じる。バルドは風嵐の双剣を磨き、刃に映る光をじっと見つめている。セリカが風影の爪を手に持って近づいてきた。爪の先が陽光に鋭く光り、彼女の声は静かだが刺すようだ。

「雲海の深淵の情報だ。魔脈ラインが乱れてて、深部は視界が悪い。乱流が渦巻いてて、結晶採掘は簡単じゃないよ。」

タクミは水晶板を手に持つ。魔脈ラインの模様が微かに揺らぎ、雲海の深淵を示す光点が脈打つように輝く。板の表面は冷たく、指先に微かな振動が伝わる。

「魔脈の乱流か…。マグナの推力ブースターなら突破できる。リア、トーラスで周囲を照らしてくれ。」

リアが光球を高く掲げ、目をキラキラさせて叫んだ。

「任せて!トーラスなら雷でキラキラ光るよ!輝晶果も持ったし、お腹すいても大丈夫!」


広場の端で、ジンが竪琴を奏でると、弦の震えが空気を震わせ、アクエリアが水の旋律とともに現れる。水滴が宙に浮かび、朝露のような清涼な香りが広がった。彼女の穏やかな声が響く。

「雲海の深淵は魔脈が渦巻く場所。私が水流で道を開くよ。」

バルドが立ち上がり、双剣を手に持って静かに言った。

「剣術の出番はなさそうだな。だが、タクミのマグナが試せるなら悪くない。」


マグナ・ストライダーがピットから姿を現す。漆黒の機体が陽光に輝き、肩の風切りブレードが風を切り裂いて鋭い音を立てる。脚部の推力ブースターが低く唸り、熱気を帯びた空気が地面を焦がす。タクミはコックピットに飛び乗り、球形の空間に体を滑り込ませる。魔脈投影結晶が360度の視界を映し出し、青い魔脈回路が壁を這う。工具が固定された棚がガチャリと揺れ、タクミの鼻に油と金属の匂いが届く。ガイストの声が響いた。

「仮組み炉、出力10MWで起動。雲海の深淵まで推定3時間。魔脈乱流に備えろ。」

タクミはジョイスティックを握り、シートに背を押し付ける。笑みがこぼれた。

「マグナ、行くぞ。みんな、結晶を手に入れよう!」


一行は拠点を出発する。雲海の縁に立つマグナ・ストライダーが風切りブレードを広げ、ブーンという低音とともに回転を始める。脚部の推力ブースターが青い炎を噴射し、熱風が草をなぎ倒す。機体が雲海の白い渦へと滑り込むと、霧が装甲にまとわりつき、冷たい水滴がタクミの視界を曇らせた。リアの声が風に混じる。

「タクミ、雲海ってふわふわだね!冒険、始まるよ!」

タクミはコックピットから外を見据え、仲間たちが後ろに続くのを確認する。リアがトーラスを召喚し、雷巨人が雲海に青白い光を放つ。ジンが竪琴を奏で、アクエリアが水流を操って一行を包む透明な膜を作る。バルドとセリカは軽やかに雲海の表面を跳び、カザンが熔雷槌を手に持って続く。


雲海の中、マグナの単眼センサーが赤く光り、ドリルアームが低い起動音を立てる。霧が濃く、視界は白と灰色の渦に閉ざされる。ガイストが解析を続けた。

「深度1000メートル。魔脈乱流が接近。風切りブレードの旋回性能を15%上げろ。」

タクミは仮組み版の魔脈ビジョン—まだARパネルはない簡易グラス—を手に持つ。雲海の渦がぼんやりと見え、魔脈の流れが青い線で揺らぐ。突然、機体が大きく揺れ、コックピットが軋んだ。

「乱流だ!マグナ、ドリルアームで安定させろ!」

ドリルアームが回転を始め、毎秒220回転の唸りが雲海に響き渡る。渦が切り裂かれ、青白い魔脈エネルギーが霧に溶け込む。タクミの体がシートに押し付けられ、汗が額を伝った。


外では、リアがトーラスの雷を乱流に放つ。雷鳴が轟き、雲海が一瞬明るく照らされる。ジンの水流が渦を押しのけ、アクエリアの声が一行を導く。

「もっと深く。魔脈の脈動が強くなってるよ。」

バルドが双剣を構え、風をまとって雲海を跳ぶ。

「タクミ、乱流の中心が見えた。あそこに結晶がある!」

タクミはジョイスティックを握り直し、叫んだ。

「マグナらしい味だな…。結晶まで止まらないぞ!」

マグナ・ストライダーが推力ブースターを全開にし、青い炎が雲海を焦がす。一行は深淵の闇へと突き進む。霧が装甲を濡らし、風切りブレードの風音が低く唸り、魔脈の脈動が全員の胸を震わせた。



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