第148話:「次元移動の罠と宝物庫の鍵」
水晶山脈の光の反射パズルを突破したタクミ一行は、黄金の草が揺れる大地に立つ。湿った風が頬を撫で、遠くで水晶が砕ける鋭い音が響き、微かに焦げるような魔脈の匂いが漂う。タクミがマグナ・ストライダーのコックピットから周囲を見渡すと、風神の眼に映る魔脈の流れが乱れ始め、視界の端が虹色に歪む。
その瞬間、オラクルの声が低く響き渡る。
「第二の試練を越えた者たちよ。次なる課題を与えよう。次元移動の罠を抜け、その意志を試せ。」
言葉が終わるや否や、地面が波打つように震え、黄金の草が一斉に宙に浮かび上がる。足元の土が崩れ、タクミたちの身体が重力を失い、浮遊する感覚に包まれる。
リアが杖を握り直し、驚きの声を上げる。
「うわっ!地面が消えた!?浮いてるよ!」
彼女の足元で七色の魔法陣が一瞬歪み、青い光が散る。見上げると、水晶の壁が崩れ落ち、代わりに無数の光の渦が空中に浮かぶ空間が広がる。渦は青や紫の輝きを放ち、次元の裂け目が蠢いているようだ。
バルドが嵐の双剣を構え、静かに呟く。
「次元が切り替わってる。」
カザンが熔雷槌を振り回すが、空間が歪み、槌の軌道がねじれて空を切る。彼が苛立った声で叫ぶ。
「くそっ!何だこの場所!攻撃が当たらねえ!」
タクミがマグナの操縦桿を握り、ガイストに鋭く問う。
「ガイスト、状況を解析しろ!この罠、どうなってる?」
ガイストの冷静な声が響く。
「次元座標が0.3秒ごとにランダム移動中。空間が別の次元に跳躍を繰り返してる。足場はなく、全員が浮遊状態。魔脈の集中部に安定ポイントが0.8秒間隔で出現と消失を繰り返す。」
タクミが風神の眼で魔脈の流れを追う。青と紫の脈が渦を巻き、光の渦の中で一瞬だけ濃くなる箇所が見える。
「安定ポイントってのは、そこに立てば移動が止まるのか?」
「一時停止。安定ポイントは次元の歪みが弱まる場所。魔脈弾で干渉すれば、1秒間足場として固定可能。核に近づくには連続で渡る必要あり。」
タクミが頷き、ガイストに指示する。
「分かった。お前が位置を教えてくれ。最初の安定点は?」
「左前方、3秒後出現。魔脈濃度89%。8連魔脈ランチャーで撃て。」
タクミがマグナのスラスターを噴かし、左前方へ機体を向ける。
「行くぞ!全員、俺の後ろに続け!」
8連魔脈ランチャーが紫の魔脈弾を連射し、光の渦に命中する。炸裂音が響き、渦が一瞬固まり、透明な水晶の足場が現れる。直径3メートルほどの円形の足場で、表面に黄金の草が落ちてくる。一行がその上に着地すると、重力が戻り、身体が安定する。
タクミが確認する。
「これが安定点か?」
ガイストが即座に応じる。
「肯定。消失まで残り1秒。次の安定点は右後方、この足場が消える0.2秒前に出現する。準備しろ。」
足場が揺れ始め、端が薄くひび割れていく。タクミが叫ぶ。
「次のポイントだ!動くぞ!」
ガイストが冷静に続ける。
「右後方、出現間近。魔脈濃度85%。今撃て。」
タクミがマグナを旋回させ、ランチャーを撃ち込む。
「これだ!」
魔脈弾が右後方の光の渦を貫き、新たな水晶の足場が現れる。ガイストがタイミングを計る。
「今だ。飛び移れ!」
一行が飛び移る瞬間、前の足場が崩れ落ち、黄金の草が次元の渦に吸い込まれる。新しい足場に着地したリアが息を吐き、驚く。
「ギリギリすぎるよ!心臓止まるかと思った!」
次の瞬間、空間が切り替わり、赤い空が広がる。水晶の破片が浮かび、頭上から土煙と焦げる匂いが降り注ぐ。重力が逆転し、皆が天井に向かって「落ちる」感覚に襲われる。
リアが慌てて七色の魔法陣を展開し、杖を振り上げる。
「このままじゃ進めないよ!シャドウ・ビーコン!」
黒と白の魔法陣が空中に広がり、闇と光の波動が次元の渦にぶつかる。ガイストが解析を続ける。
「次元の歪みは魔脈の過剰流動が原因。リアの闇と光が相反属性で魔脈を中和、流動を1.2秒抑制中。」
リアが目を輝かせ、杖を握り直す。
「つまり、少し止まるってことだよね!」
ガイストが続ける。
「有効。安定点の出現間隔が0.2秒延長。次は中央前方、この足場が消える0.2秒前だ。」
足場が揺れ、ひびが広がる。タクミがランチャーを構え、ガイストに確認する。
「中央前方か!タイミングは?」
「出現間近。魔脈濃度90%。今撃て。」
魔脈弾が中央前方に炸裂し、新たな足場が現れる。ガイストが叫ぶ。
「飛び移れ!今だ!」
一行が飛び移ると、前の足場が消え、赤い空が揺れる。セシルがウィンドティアーズ・ローブを翻し、白緑の魔法陣を空中に描く。
「ウィンド・スラッシュ!」
風の刃が光の渦を切り裂き、渦の奥に青と紫の魔脈が蠢く核が一瞬見える。直径1メートルの球体で、表面が脈打つように輝く。
ガイストが報告する。
「魔脈核確認。中央、10メートル先。次元移動再開まで残り8秒。」
タクミが確認する。
「一発で仕留められるか?この距離なら届くぞ。」
「ドリル・チャージで可能。成功率73%。核破壊の反動でマグナが次元に弾かれるリスクあり。機体損傷の可能性12%。」
タクミが小さく笑い、操縦桿を握り直す。
「12%なら賭ける価値はあるだろ。行くぞ、ガイスト!」
マグナのドリルが高速回転を始め、金属が擦れる甲高い音が響く。タクミが叫ぶ。
「ドリル・チャージ!」
マグナが光の渦に向かって突進し、ドリルが魔脈核に直撃。轟音と共に核が砕け、爆発の衝撃波が空間を揺らす。次元の歪みが消え、一行が黄金の草の大地に叩きつけられる。土煙が舞い、水晶の破片が足元に散らばる。
マグナの装甲が軋み、タクミがコックピットから息を吐く。
「ガイスト、無事か?」
「機体損傷4%。想定内。君の判断が成功を導いた。」
タクミがマグナから降り、軽く笑う。
「お前、やっぱり頼りになるな。」
「感謝は結果次第。試練の最終段階を確認中。」
その時、最奥に「次元の結晶」が浮かび上がる。青と紫の光が脈打ち、天空の鍵が共鳴する。結晶は地面から1メートル浮かび、微かに震えている。
ガイストが報告する。
「結晶取得で三つの試練終了。天空の鍵の反応から、宝物庫への道が開く可能性92%。」
一行が立ち上がると、黄金の草の先に巨大な水晶門が現れる。高さ20メートル、表面に古代エアリス文明の紋様が薄く輝き、低い唸りが響く。
ジンが竪琴を手に、詩的な口調で呟く。
「次元の果てに宝が眠る。だが、何が待ってるんだろう。」
リアが目を輝かせ、杖を握り直す。
「宝物庫だよ!何かすごいものがあるに違いないよね!」
カザンが熔雷槌を肩に担ぎ、熱く言う。
「熔鉄団の技術で開けてやるぜ!何でもぶっ壊してやる!」
バルドが双剣を背に固定し、静かに言う。
「敵がいるかもしれない。」
セシルがウィンドティアーズ・ローブを揺らし、呟く。
「天脈の祭のエリナたちにも知らせたいね。この先に何があるのか。」
タクミが水晶門を見据え、ガイストに問う。
「門の先、どうなる?何か分かるか?」
「解析不能。未知の魔脈反応のみ検出。危険度評価:高。内部構造は遮断されており、予測不能。」
タクミが天空の鍵を握り締め、決然と呟く。
「危険だろうが、クロノスを倒す力が必要だ。行くぞ。」
一行が水晶門に近づくと、門が軋みながら開き始める。内部から眩い光が漏れ、低い振動音が足元を震わせる。光が一行を包み、視界が白に染まる。次なる試練か、宝か、それとも罠か――その答えはまだ誰も知らない。




