第142話:浮遊大陸の静寂
天空の階段を登りきったタクミたちは、流動する結晶の最後の段を踏み越え、ついに浮遊大陸に足を踏み入れる。マグナ・ストライダーの重い足音が結晶の地面に響き、静寂の中でかすかな波紋が広がる。目の前に広がるのは、果てしない雲海に浮かぶ広大な大地。黄金色の草が微かに揺れ、遠くには水晶のように透明な山脈がそびえ立つ。空は異様に近く、星々が昼間でも淡く瞬き、まるで天蓋が触れられる距離にあるかのようだ。光の神殿の喧騒とは打って変わった静寂が、一行を包み込む。
タクミがマグナ・ストライダーのコックピットから辺りを見渡し、風神の眼を意識する。視界に魔脈の流れが映り、彼の声が響く。
「ガイスト、状況は?」
ガイストが淡い光を放ち、モニターに平坦なデータを映し出す。
「気温18℃、酸素濃度22%、魔力波長微弱。敵性反応…なし。生命反応も検出不能。この大陸は無人の可能性99%!」
タクミが目を細め、「天空の鍵」を手に持つ。四色の脈がゆっくりと脈打ち、彼が呟く。
「敵がいない…?」
一行が馬車から降り、浮遊大陸の地面に立つ。結晶と黄金の草が混ざった大地が、足元で微かに光を反射する。リアがエーテル・ノヴァと上級魔導書を手に持つ。彼女が周囲を見回し、静かに言う。
「ここ、クロノスやドルザードもたどり着けなかった場所だね。魔力の流れが…純粋すぎるよ。」
バルドが嵐の双剣を腰に下ろし、風のない空を見上げる。
「戦う相手がいねえなんて拍子抜けだな。だが、この静けさ…何か隠れてる気配がするぜ。」
カザンが熔雷槌を地面に置き、豪快に腕を組む。
「確かに妙だ。こんな場所が放置されてるわけがねえ。クロノスが狙ってたなら尚更だ。」
ジンが竪琴を手に軽く弦を鳴らし、目を閉じる。
「アクエリアが反応しない…水の精霊すら届かない場所みたいだ。」
セリカが風影の爪を収め、鋭い視線で大地を観察。
「空気が重い。次元の歪みがまだ残ってるよ。情報屋の勘が騒ぐね。」
セシルがウィンドティアーズ・ローブを握り、風魔法で周囲の空気をそっと探る。
「鉄都や神殿の魔力波長とは全然違う。ここは…別の世界そのものかもしれない。」
タクミがマグナから降り、ストームブリンガーを肩に担いで大陸の縁に近づく。雲海の向こうに地上がかすかに見え、揺らぐ次元の裂け目が視界に映る。雲が静止し、光が凍りついたように輝く中、裂け目だけが微かに脈動している。ガイストが即座に解析を始める。
「地上の歪み、波長一致率87%。鉄都の黒い結晶と関連あり。ただし詳細不明、データ不足!」
タクミが「天空の鍵」を握り締め、呟く。
「クロノスかドルザードが絡んでるのは間違いなさそうだな。でも、ここに敵がいないってことは…俺たちが一歩リードしたってことか。」
リアがタクミの横に立ち、エーテル・ノヴァを胸に抱える。
「天空の階段を開くのに六つの鍵が必要だった。クロノスたちはそれを知らなかったか、集めきれなかったか…。いずれにせよ、私たちが初めてここに立ったんだ。」
バルドがニヤリと笑い、双剣を軽く振る。
「そうだな。テラノスをぶちかます相手がいねえのは残念だが、勝ちってことだろ?」
カザンが頷き、熔雷槌を肩に担ぎ直す。
「イグニスを休ませておけるなら、それも悪くねえ。だが、この大陸…何か目的があって浮いてるはずだ。」
一行が大陸の中心へ進む。黄金の草が足元でかすかに揺れ、静寂の中で一行の足音だけが響く。やがて、草の間に巨大な水晶の台座が現れる。直径10メートルほどの円形の台座は透明で、中央に「天空の鍵」と同じ六色の脈が刻まれ、かすかに光を放っている。タクミが近づき、鍵をかざすと、台座が低く共鳴し、振動が大地を伝う。
「ガイスト、これは?」タクミが尋ねる。
ガイストが光を強め、解析を進める。
「エネルギー反応急上昇!波長解析中…次元接続の可能性あり。ただし、機能不明。鍵の認証が必要か?」
タクミが鍵を握り直し、呟く。
「認証…試してみるか。」
彼が「天空の鍵」を台座に近づけると、光が強まり、大陸全体が微かに揺れる。水晶の表面に六色の脈が広がり、雷の模様が一瞬浮かぶ。だが、次の瞬間、光が収まり、何も起こらず静寂が戻る。
ジンが竪琴を手に首をかしげる。
「動かないのか?何か反応はあると思ったけど…。」
セリカが台座に近づき、風影の爪で表面を軽く叩く。
「何か足りないのかも。鍵だけでいいはずないよね。」
リアが魔導書を開き、エーテル・ノヴァを手に持つ。
「この大陸自体が仕掛けなのかもしれない。全属性魔法で探ってみようか?」
タクミが頷き、仲間を見回す。
「頼む、リア。俺たち以外誰もいないなら、この大陸の謎を解くのは俺たちしかいねえ。」
一行が台座を囲み、リアが魔導書を掲げる準備を始める。浮遊大陸の静寂の中、クロノスとドルザードが届かなかった場所で、タクミたちは新たな謎に挑み始めた。地上の次元の裂け目が何を意味するのか、まだ誰も知らない。




