第132話:鉄都の死闘 - 酔いどれの夢
王都大陸、鉄都ガルザードの城。夜の闇が鉄の城を包み、松明の炎が石壁に揺れる。騎士団長ガルザークが謁見の間に立ち、甲冑を鳴らして苛立つ。貴族長ドルザードの不在に顔を歪める。
「ドルザードめ、どこへ消えた?異邦人を潰す策なら俺が先頭に立つ!」
ガルザークが剣の柄を握り締める。その瞬間、背後から黒い影が音もなく現れる。影が低く呟く。
「貴様の役目は終わりだ、ガルザーク。」
ガルザークが振り向くが、影の動きが速すぎる。剣を抜く間もなく、黒い刃が胸を貫く。
「貴様…何者…!」
血を吐きながら膝をつくガルザーク。影が冷たく言い放つ。
「クロノスの意志だ。」
影が闇に消え、ガルザークが倒れる。鉄の床に血が広がり、城内に不気味な静寂が満ちる。
サンドリア大陸、サンドクレストの街。タクミ一行は魔脈の鍵を手に入れ、砂漠を抜けて小さな交易街に辿り着く。BAR「砂嵐亭」に立ち寄る。木のカウンターには酒瓶が並び、燻した肉の香りが漂う。壁には古びた旅人の地図が貼られ、酒客の笑い声が響く。
タクミがカウンターに腰掛け、「魔脈の鍵」を手に持つ。
「王都へ向かう前に腹ごしらえだ。貴族の動きが気になるがな。」
焼き鳥の串を頬張り、脂が滴る。香ばしい煙が鼻をくすぐる。ガイストが隣で浮遊しながら報告。
「魔脈安定度40%向上。王都大陸まで距離500キロ。」
バルドが木製ジョッキを手に豪快に酒を飲む。
「うまいぜ、この砂漠ビール!風の民として貴族をぶっ潰す前に一息だな。」
泡が髭に付き、袖で拭う。リアがスープを手に目を輝かせる。
「わあ、このスープ美味しい!砂嵐スパイスってのが効いてるね!」
スプーンで熱々のスープをフーフー冷ましながら味わう。
セリカが街での情報をタクミに報告する。
「鉄都ガルザードが影の使者達の動きの中心らしい。街の人が城に出入りするのを見たって。奴らの正体を暴くなら、王都へ行くしかないよ。」
タクミが焼き鳥の串を置いて頷く。
「そうだな。王都でクロノスの正体を暴けば、この戦いの流れを変えられる。鍵の事も気になるしな。」
セリカがカウンターに肘をつき、干し肉をちぎりながら続ける。
「貴族の騎士団が砂漠を封鎖してる噂だよ。鉄都で何か起きてるかも。」
ジンが竪琴を手に、燻製チーズを齧りつつ弦を鳴らす。
「アクエリアが穏やかな音を聞いてるよ。少し休もう。」
柔らかな音色が店内に響く。
酔っぱらいの老人がフラフラと近づく。顔は赤く、ヨレヨレの服から酒臭さが漂う。
「おぉい、お前らぁ!旅人かい?いい酒飲んでんなぁ、ヒック!」
タクミが串を手に返す。
「まあな。旅の途中だ。」
老人が目をギラギラさせて叫ぶ。
「いいかぁ?よぉ〜く聞けよぉ?この前なぁ、浮遊大陸を見たんだぜぇ!」
タクミが眉を寄せ、串を置く。
「浮遊大陸?」
ガイストに聞く。
「ガイスト、データは?」
ガイストが応答。
「記録なし。酔っぱらいの酔言の可能性。」
老人がテーブルにドンッと手を置き、まくしたてる。
「そうさぁ!雲の上に浮かんでたんだぁ!あそこにはなぁ、相当な宝が眠ってるらしいんだぜぇ!一生遊んで暮らせるほどの金銀財宝だぁ、ヒック!」
リアがスープを飲みかけで目を丸くする。
「浮遊大陸だって!なんかワクワクするね!」
老人が酒瓶を振り回す。
「そうだろぉ、そうだろぉ!昔は神々が住んでたって話だぁ!宝だけじゃねぇ、すげぇ武器や魔法の書もあるって噂だぜぇ!金ピカの剣やら、魔法で空飛ぶ本やら、一発で山を吹っ飛ばす杖やらなぁ、ヒック!」
バルドがビールを飲みつつ補足。
「昔からの言い伝えだな。古代の神々が住んでた浮遊大陸か。俺は見たことねえが、今じゃ伝説級の話だ。行き方も分からねえ。」
ジンがチーズを手に微笑む。
「古代文明を歌った詩にもあるけど、そんなすごい場所なら、一度は行ってみたいね。」
タクミが老人を見やり、リアの頭を軽く叩く。
「じいさん、こいつはまだ子供なんだ。そんなおとぎ話を聞かせると信じちまうだろ?」
リアが頬を膨らませる。
「えーっ、タクミ!子供扱いしないでよ!でも本当だったらすごいよね!」
老人がテーブルを叩く。
「子供でもなんでもなぁ、俺は見たんだぁ!雲の上に浮かぶ黄金の島だぁ!信じる信じねえはお前ら次第だぁ、ヒック!」
店内に笑いが広がり、その日は仲間と老人との楽しいやりとりで終わる。
一行は宿に泊まる。薄暗い部屋で、タクミがベッドに横たわり、天井を見つめる。ガイストが結晶のエネルギーで浮遊し、淡い光を放つ。タクミが手を組んで呟く。
「ガイスト、浮遊大陸って本当にあり得るのか?」
ガイストが微かに揺れながら応答。
「俺の浮遊は結晶の魔脈エネルギーで軽量化してるが、大陸規模となると話は別だ。」
タクミが首を振る。
「でも、じいさんの話じゃ雲の上に浮かんでたってさ。現代の科学技術で分析してみてくれ。」
ガイストが一瞬沈黙し、データを漁る。
「地球の科学視点で考える。仮に直径10キロの陸塊を浮かせる場合、重さは約10億トン。浮力ならヘリウムで毎秒10億立方メートルの供給が必要だが、そんな量は現実的じゃない。反重力技術なら、現在の理論ではエネルギー収支が合わない。NASAの論文でも、反重力は未知の領域だ。」
タクミが眉を上げる。
「じゃあ無理ってことか?」
ガイストが続ける。
「いや、この世界の魔脈エネルギーを考慮するなら可能性はある。結晶一個で俺を浮かせるエネルギーは約10メガワット。仮に大陸を浮かせるなら、10億個以上の結晶と、それをつなぐ制御技術が必要だ。古代文明がそんな技術を持っていた可能性は否定できない。」
タクミがベッドから身を起こす。
「古代の神々が魔脈を極めてたってわけか。じいさんの話も、あながち嘘じゃないかもな。」
ガイストが光を弱める。
「可能性は0.1%未満だが、ゼロじゃない。鉄都の先に答えがあるかもしれない。」
タクミが頷き、目を閉じる。
「王都で確かめるか。寝るぞ。」
翌朝、一行がサンドクレストを出て王都大陸へ向かう。砂漠の果てに鉄都ガルザードのシルエットが近づく。突然、砂塵が舞い上がり、甲冑の男が現れる。騎士団長ガルザークだ。だがその目が異様に輝き、血の跡が甲冑に残る。
ガルザークが低い声で言う。
「タクミ一行か…貴様らを…ここで…潰す…!」
剣を構えるが、声に不自然な震えがある。タクミが指示。
「ガイスト、解析!」
ガイストが応答。
「生体反応異常。魔脈干渉検出。測定困難。」
タクミが眉を寄せる。
「測定困難?何だそりゃ?」
ガルザークが巨大な剣を振り下ろす。タクミがマグナの魔振剣で受け止めるが叫ぶ。
「くっ!重すぎる…!!」
衝撃で砂が爆発し、マグナが後退。膝が軋む。ガイストが報告。
「衝撃解析中…推力換算2万ニュートン以上、装甲並の耐久力。マグナ・ストライダーと同等!」
タクミが驚愕。
「何!?生身の人間がマグナと同等の力だと!?」
バルドが双剣で突進。
「風の民の速さだ!」
切り込むが、ガルザークが一瞬で回避し、拳でバルドを吹き飛ばす。リアが炎を放つ。
「フレア・バースト!」
ガルザークが炎を切り裂く。セリカが風影の爪で奇襲。ジンが水膜を展開。
「アクア・テンペスト!」
だが、ガルザークの動きが速すぎる。タクミが叫ぶ。
「何だこの強さ!生身でここまで戦えるのか!?」
ガイストが警告。
「魔脈波動異常!原因不明!」
ガルザークが咆哮し、タクミに剣を振り下ろす。
「貴様ら…終わりだ…!」
砂塵が舞い上がり、次回に続く。




