第124話:鉄都の夜明け - 偽りの称賛
鉄都ガルザードの城塔跡。朝焼けが薄暗い空を茜色に染め始め、崩れた塔の残骸からは黒煙が細く立ち上る。瓦礫の間には焦げた魔脈ケーブルが絡まり、冷たい風が灰を巻き上げる。マグナ・ストライダーは右脚と左腕の装甲が剥がれ、膝をついたまま静かに佇む。タクミがコックピットから降り、汗で濡れた額を袖で拭いながら深く息をつく。
ガイスト・フローターが肩の周りを漂い、淡い光を放つ。
「全身装甲、残り45%。トルク1万6000N・m。戦闘終了だ、タクミ。」
セリカが風影の爪をローブの裾で拭い、血と煤に汚れた顔を上げて呟く。
「やっと終わった…次はもっと楽に片付けたいね。」
バルドが嵐の双剣を肩に担ぎ、軽く笑う。
「生きてりゃ文句ねえよ。」
リアがエーテル・ノヴァを握り、タクミに駆け寄る。
「ねえ、私の魔法ちゃんと見ててくれたよね?」
カザンが熔雷槌を地面に突き立て、汗を拭う。
「イグニスも満足したみたいだ。熱かったぜ。」
ジンが竪琴を手に持ったまま、穏やかに微笑む。
「この戦い、詩に残る旋律になったよ。」
セシルがウィンドティアーズ・ローブを握り、遠くの空を見つめる。
「でも、魔脈の歪み…まだ何か感じる。」
地下からの異音が消え、静寂が戦場を包む。仲間たちは疲れ切った体を寄せ合い、互いの無事を確かめるように見つめ合う。
その静けさは長く続かなかった。遠くからざわめきが近づき、鉄都の住民たちが城の広場に集まり始める。最初は数人だった影が、瞬く間に数十人の群衆となり、タクミ一行を取り囲む。
「おい、塔が壊れてるぞ!」「この煙は何だ?」
声が重なり合い、やがて怒号に変わる。
「お前らが貴族の塔をぶっ壊したのか!?」「街を滅ぼす気か?」
小さな石が飛んできて、マグナの脚に当たって跳ね返る。タクミが手を挙げて前に出る。
「待ってくれ、俺たちは——」
リアが素早くタクミの腕を掴み、小声で耳打ちする。
「装置の話は出さないほうがいいよ。住民が混乱してもっと厄介だよ。まず落ち着かせて。」
セリカが群衆の後ろに回り込み、魔脈通信機に囁く。
「こりゃまずい雰囲気だね。どうするつもり?」
タクミが塔の上に見える、誰がどう見ても物々しい破壊された装置に目をやると、一瞬目を閉じ、頭を整理する。
「まさか貴族たちがあの装置を使って次元の裂け目を広げてたなんて住民に分かったら自分たちの立場が危うくなる。これは貴族が表に出てこられない状況を逆手に取るしかない。魔獣の話で誤魔化そう。」
彼が小さく頷き、群衆に向き直る。
その時、重々しい甲冑の音が広場に響き渡る。騎士団長ガルザークが数人の衛兵を率いて現れ、赤いマントを翻しながら群衆を押し退ける。威圧的な姿でタクミたちの前に立ち、剣の柄に手を置く。住民が一斉に声を上げる。
「騎士団長ガルザーク様!こいつらが塔を壊したんです!」
ガルザークが大仰に手を挙げて制し、わざとらしい笑顔を浮かべる。
「お前たち、よくやってくれたな!」
彼が大声で叫び、広場に響き渡る。
「この異邦人たちは地下の異音を止めるため尽力し、魔獣まで追い払ってくれた英雄だ!鉄都は救われたぞ!」
住民たちが戸惑いの声を漏らす。
「え…?」「音が止まったって?」「魔獣って何だ?」
タクミはガルザークの冷たい目を見て瞬時に悟る。
「こいつがこの城の騎士団長のガルザーク…、次元の企みを隠したいだけだ。俺たちを利用して悪事を誤魔化す気か。」
頭の中で状況が繋がり、彼が小さく頷いて芝居に乗る。
「確かに、地下に潜んでた魔獣が塔のほうに逃げた時に攻撃して、塔が巻き込まれた形だ。異音を止めるためだった。」
住民がざわつく。
「魔獣がいたのか?」「それで塔が壊れたって言うのか?」
ガルザークがタクミの肩を叩き、笑顔を崩さない。
「でかしたぞ、異邦人!」
だが、その手が微かに震えているのを、群衆の後ろに立つセリカが冷ややかに見つめる。
「芝居が下手すぎるね。」
住民のざわめきが少し収まる中、広場に走ってきた子供が瓦礫につまずいて転び、膝を擦りむいて泣き出す。セシルが素早く近づき、ローブを軽く翻す。
「大丈夫だよ、じっとしてて。」
ウィンドティアーズから青い光が放たれ、傷を包む。血が止まり、皮膚が再生すると、子供が目を丸くして笑う。
「ありがとう、お姉さん!」
周囲の大人がその光景を見て表情を和らげる。
「あの優しさは何だ…?」
ジンが竪琴を取り出し、弦を軽く弾き始める。
「アクア・シンフォニー。この街に平和を届けよう。」
清らかな水音が広場に響き、アクエリアの柔らかな水流が空に舞う。穏やかな旋律が住民の心を静め、怒りが疑問に変わっていく。
「音が止まったのは本当だな…」「本当に魔獣を追い払ったのか?」
タクミが一歩前に出て、落ち着いた声で言う。
「一つだけ聞いてくれ。最近、地下から不気味な音がしてたよな。あれが街を危なくしてた原因だ。魔獣との戦いで塔は壊れたけど、音は止まった。確かめてみれば分かる。」
住民が耳を澄ますと、確かにあの異音が消えている。セリカが群衆の後ろでさりげなく呟く。
「貴族が塔で何か怪しいことしてたんじゃないか?音の原因も隠してたみたいだし。」
直接的な非難は避けつつ、不信感の種を蒔く。住民の間で小さな波紋が広がる。
「確かに…」「貴族が何か知ってるのか?」
ガルザークがタクミを一瞥し、低い声で吐き捨てる。
「余計なことは言うな。」
彼が衛兵を連れて城へと戻る。場面は城の会議室に移り、ガルザークが兜を脱いで机に叩きつける。部下が怯えた顔で立つ中、彼が怒鳴る。
「くそっ、あの異邦人どもが!装置のことは絶対に民に知られてはならん!」
息を荒げ、剣を壁に突き刺す。
「次元の裂け目を広げて次元獣を生み出す計画がバレれば、民は街から逃げ出し、税金も取れなくなる。今回はあいつらを逃がすが、次は必ず潰す。」
彼の目が憎しみに燃え、部屋に重い空気が漂う。
タクミ一行は熔鉄団のアジトに戻り、簡易修理を終えたマグナを囲んで休息する。カザンが熔雷槌を磨きながら笑う。
「ガルザークの慌てっぷり、笑いものだったな。あの顔、見てて腹がよじれたぜ。」
セリカが爪を研ぎつつ、冷たく分析する。
「奴の芝居、穴だらけだったよ。ドルザードって王が絡んでるなら、もっとでかい企みがあるね。」
リアが少し慌てた声で言う。
「私の魔法が塔を壊したわけじゃないよね?」
タクミが笑って肩を叩く。
「いや、お前のおかげで勝てたよ。安心しろ。」
ジンが竪琴を手に持ったまま呟く。
「住民の心、少しは掴めたかな。」
セシルが遠くを見つめる。
「でも魔脈の歪み…まだ何か隠れてるよ。」
タクミが装置の残骸を見下ろし、静かに言う。
「次元獣、影の使者、貴族の企み…ガルザークはただの駒だ。本当の黒幕はドルザード。王都大陸の奥で真相を暴くぞ。」
彼が拳を握り、仲間たちが頷き合う。
その頃、鉄都の住民の一人が呟く。
「音が消えたのは本当だ…でも貴族は何か隠してるのか?」
その声が朝焼けの風に溶け、鉄都の夜明けは新たな戦いの序曲に過ぎなかった。




