第117話「焔嵐の鍵と貴族の策略」
熔鉄団のアジトに朝焼けが差し込む。熔鉄炉の残り火が赤くくすぶり、熱風が赤い旗をバタバタと揺らす。壁に吊るされた熔雷槌や剣が朝陽に鈍く光り、アジトの荒々しい息吹が朝の静寂に混じる。中央の粗削りな木のテーブルには鉄都ガルザードの地図が広げられ、タクミがその横に腰掛ける。ガイストが淡く青白く光り、タクミの肩の周りをふわりと漂う。タクミが熔鉄の岩壁を見やり、落ち着いた声で問う。
「ガイスト、鉄都ガルザードの動きはどうだ?偵察の結果から見て、まだ手を打たなくても大丈夫そうか?」
ガイストがタクミの周りを軽く旋回し、機械音が響く。
「先の偵察データを再解析。鉄都ガルザードの魔脈装置、出力3万ニュートンで安定稼働中。ただし、次元の裂け目の拡大速度は1日0.8mと緩やか。貴族の兵力配置に増強兆候なし。現時点で急を要さず、猶予は推定3日以内。」
タクミが地図の鉄都を指で叩き、目を細める。
「3日か…なら貴族より先に動ける。古の鍵を先に手に入れれば、奴らの企みを潰せるぜ。」
ガイストが漂いながら補足する。
「星詠みの賢者が示した最初の鍵、焔嵐大陸火口。距離約120km。マグナが荷車を引く陸路移動では、平均時速50km/hで計算。移動時間約2時間30分。貴族の追跡を考慮し、即時出発を推奨。」
セリカが地図に近づき、風影の爪で焔嵐大陸火口を丸で囲む。
「焔嵐大陸なら私たちの庭だよ。貴族が来る前に鍵を奪おう。」
カザンが熔雷槌を肩に担ぎ、熔鉄炉の熱気を背に豪快に笑う。
「イグニスが疼いてるぜ!火口なら熔鉄団の得意分野だ。鍵は俺たちがいただく!」
リアがエーテル・ノヴァを手に跳ね上がり、目を輝かせる。
「星が教えてくれたんだもん!早く行こうよ、タクミ!」
バルドが嵐の双剣を手に、静かに立ち上がる。
「鍵が手に入れば次が見える。行くぞ。」
タクミがテーブルから立ち上がり、ガイストが肩の周りを漂う中、声を張る。
「よし、準備しろ。マグナで火口に向かうぜ。貴族に先を越される前に鍵を奪う!」
熔鉄団アジトが一気に動き出す。カザンが熔鉄炉に薪を放り込み、火花が天井に跳ねる。セシルがウィンドティアーズ・ローブを翻し、風脈結晶を調整。ジンが竪琴を手に軽く弦を鳴らし、アクエリアの水音が響く。マグナの風切りブレードが低く唸り、荷車が仲間たちを乗せて軋む。タクミがコックピットに乗り込み、ガイストが肩の周りを漂いながら追従する。
「行くぜ、みんな!」
マグナが荷車を引いて動き出し、熔嵐合金の装甲が朝陽に光る。焔嵐大陸の熔岩岩を踏み、火口へと進む。朝焼けが背後に遠ざかり、鍵を巡る旅が幕を開ける。
一方、王都大陸の鉄都ガルザードでは、灰色の煙が空を覆い、城の尖塔から赤い魔脈の光が脈打つ。城下町の喧騒が朝の冷気に混じり、市場の果物売りの声や馬車の軋みが響く。城の裏門近く、黒いローブを纏った貴族の斥候が馬を駆り、息を切らせて城内へ急ぐ。蹄の音が石畳を叩き、衛兵が槍を交差させて道を開ける。
斥候が謁見の間に飛び込むと、貴族長ドルザードが玉座に座し、魔脈結晶を手に持つ。結晶の赤黒い脈が彼の顔を不気味に照らし、背後の次元の裂け目が紫と黒の歪みを広げる。斥候が膝をつき、息を整える。
「ドルザード様、報告です。焔嵐大陸の異邦人たちが星座の座標を突き止めました。最初の鍵の位置が明らかになった模様。」
ドルザードが結晶を握り潰し、低く笑う。
「ついに動き出したか。星の導きが示されたのだな?」
斥候が頷き、声を潜める。
「はい。我らが召喚精霊を持たぬゆえ、賢者を呼び出せず鍵の在処を知る術がなかった。そこで鉄都の衛兵を使い、異邦人たちに古の鍵の話をわざと漏らし、賢者を呼び出させる罠を仕掛けました。」
ドルザードが立ち上がり、結晶の破片を床に散らす。
「見事だ。奴らは我が手の内で踊っておる。星詠みの賢者が示した座標は?」
斥候が地図を広げ、焔嵐大陸火口を指す。
「焔嵐大陸の火口です。異邦人たちは既にそこへ向かった模様。」
ドルザードが目を細め、尖塔の赤い光を見上げる。
「鍵を一つ手に入れれば、次の星が輝く…か。異邦人どもを利用し、全ての鍵を我が手にせん。斥候隊を火口に急行させろ。異邦人が鍵を奪う前に奴らを叩け。」
斥候が立ち上がり、敬礼する。
「了解!」
馬の嘶きが響き、貴族の斥候隊が鉄都を飛び出す。次元の裂け目が低く唸り、策略の影が焔嵐大陸へと伸びる。
マグナが焔嵐大陸の荒野を進む。荷車を引く重い足音が大地を震わせ、熔岩が冷えた黒い岩場を踏み砕く。平均時速50km/hで進むマグナの風切りブレードが低く唸り、熱風が荷車に揺れる仲間たちの髪をなびかせる。タクミがコックピットでジョイスティックを握り、ガイストが肩の周りを漂う。火山の赤い煙が地平線に近づき、熱気が徐々に強まる。
「ガイスト、火口まであとどれくらいだ?」
「残り距離15km、到着まで約18分。火口の魔脈濃度12%増、異常波動検出。警戒を推奨。」
セリカが荷車から身を乗り出し、風に目を細める。
「熱気がすごいね…鍵がこんな場所に眠ってるなんて。」
カザンが熔雷槌を手に、荷車の縁に座って豪快に笑う。
「イグニスが喜んでるぜ!熱い場所なら俺の庭だ!」
マグナが火口の縁に到着。風切りブレードが静かに止まり、荷車が軋んで停止する。タクミがコックピットから降り、ガイストが肩の周りを漂いながら追従。仲間たちが荷車から飛び降り、火口の淵に立つ。眼下に広がるのは直径数百メートルの巨大な熔岩湖。赤と黒の熔けた海がグツグツと煮立ち、熱波が顔を焼く。火山灰が舞い上がり、硫黄の臭いが鼻を刺す。熔岩の表面が波打ち、時折ドロリと爆ぜて火花が飛び散る。遠くの火口壁には、古代の紋様が刻まれた石碑が赤く輝き、不気味に浮かぶ。
タクミが息を呑み、ガイストが漂う肩を軽く叩く。
「これが…焔嵐大陸火口か。すげえ熱だ。」
リアがエーテル・ノヴァを手に、目を丸くする。
「うわっ、熔けてるよ!熱すぎて息苦しい…鍵、本当にここにあるの?」
セリカが風影の爪を構え、火口を見下ろす。
「あの石碑…魔脈が強い。鍵はあそこにあるんじゃない?」
バルドが双剣を抜き、熔岩の熱波に目を細める。
「敵が来る前に奪う。熱さは我慢だ。」
カザンが熔雷槌を振り上げ、イグニスの炎を纏う。
「熔鉄団の誇りにかけて、こんな熱なんざへっちゃらだぜ!」
熔岩湖の奥から「ゴゴゴ…」と低い唸りが響き、石碑の紋様が一瞬強く光る。タクミがガイストに目を向け、鋭く言う。
「ガイスト、準備しろ。鍵がここにあるなら、絶対に手に入れるぜ。」
熱風が髪を揺らし、火口の凄まじさに一行が息を飲む。星の導きが示した最初の試練が、今、目の前に広がっている。




