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第116話「鉄の決意と影の足音」

鉄都ガルザードから帰還した熔鉄団のアジトは、夜の帳が下りても熱気に満ちている。巨大な熔鉄炉からオレンジ色の火花が噴き出し、鉄を叩くカンカンという音が途切れなく響く。天井に跳ねた火花が赤黒い影を踊らせ、壁には熔雷槌や鍛え上げられた剣が無造作に吊るされ、熔鉄団の荒々しい気風を物語る。中央の粗削りな木のテーブルを囲むタクミ一行は、疲れも見せず、次の戦いを見据えている。熔鉄団の赤い旗が熱風にバタバタと揺れ、遠くで熔岩流の低い唸りが混じる。


セリカがテーブルに鉄都の地図を広げ、鋭い爪で「城の塔」と書かれた地点を指す。赤い墨が薄暗いランプの光に滲み、不気味に浮かぶ。

「偵察で撮った上空写真だよ。装置は塔の頂上にあって、街の地下まで魔脈を這わせてる。影の使者が絡んでるのは間違いない。」

彼女が懐から取り出した小さな魔術投影機を叩くと、空中に鉄都の映像が浮かぶ。塔の上にそびえる巨大な装置と、そこから地下へ伸びる太い魔脈ケーブルが映し出され、赤い光が脈打つ。

リアが身を乗り出し、ランプの光に目を輝かせる。

「うわっ、でかいね!これが次元の裂け目を作ってるの?」

セリカが頷き、鋭い目で地図を見据える。

「その通り。出力は3万ニュートン超え。裏路地の連中が怯えてたのも納得だよ。あの異音、日に日に近づいてる。」


タクミは地図の横に腰掛け、右手に持つガイストの球体をじっと見つめる。直径10cmの金属球は冷たく滑らかで、表面に微細な風脈結晶の紋様が刻まれている。

「ガイスト、お前を浮かせれば両手が空くし、ヴェストに装着できれば戦闘も効率が上がる。磁気浮上とプラズマ推進のハイブリッドで行けるはずだ。」

ガイストが淡く青白く光り、機械的な声で応える。

「提案は合理的。風脈結晶で反重力場を生成可能。火神の炉のエネルギーを小型化すれば浮遊実現。私の重量150gに対し、推力50ニュートンで十分と計算。ただし、エネルギー安定性が課題。」


タクミが作業台に紙を広げ、熔鉄団の鉄ペンで設計図を走り書きする。円形の球体スケッチに矢印を加え、結晶の配置やプラズマ噴射口を大まかに描く。

「炉の結晶片を10gに圧縮して埋め込む。ヴェストの胸にホルダーも作る。問題はエネルギー制御だな。ガイスト、助言頼む。」

ガイストが漂いながら解析を重ねる。

「結晶片10gで推力50ニュートンは可能だが、プラズマ噴射の熱負荷が外殻を劣化させるリスクあり。外殻に耐熱コーティングを推奨。さらに、風脈結晶の共鳴周波数を調整しないと浮遊が不安定化。試作用プロトタイプを提案。」


タクミが炉の方を見やり、声を張る。

「カザン、結晶頼めるか?」

カザンが熔雷槌を手に豪快に笑う。

「お安い御用だ!見てな!」

彼はイグニスの炎を右手に纏わせ、炉の縁に近づける。熔けた鉄がグツグツと煮立つ中、鉄箸で赤熱した結晶片を摘み出し、鍛冶台に置く。

「熱は俺の相棒が抑えてるぜ。10gぴったりに削ってやるよ!」

熔雷槌で叩き、火花が飛び散るが、初撃で結晶がひび割れる。カザンが眉を上げる。

「おっと、硬すぎるな。力加減ミスったぜ。」

タクミが近づき、割れた結晶を手に取る。

「熱で脆くなってる。ガイスト、どうすればいい?」

「結晶を冷却しながら加工。熱膨張を抑えれば破損率20%以下に低下。」


セシルがローブを軽く翻し、静かに歩み寄る。

「風脈結晶の調整は私に任せて。魔脈をガイストに馴染ませないと、浮遊が不安定になるよ。」

彼女の手元で小さな結晶が微かに共鳴し、「ヒュウ…」というかすかな風音が漂う。風鳴の指輪が光り、冷却風が結晶を包む。カザンが再び叩き、今度は10gに仕上げる。セシルがタクミに渡すと、結晶は淡い緑色の光を放つ。


タクミが熔鉄団の工具箱から細いペンチとハンダごてを手に取る。ガイストの外殻を慎重に開き、風脈結晶を内部に嵌め込む。だが、結晶を固定した瞬間、ガイストがガタッと震え、青い光が乱れる。

「エネルギー入力過多。共鳴周波数が一致せず、浮遊失敗」とガイストが警告。

タクミが額の汗を拭う。

「くそっ、結晶の出力が強すぎるのか?どう調整する?」

ガイストが即座に助言する。

「風脈結晶の出力を抵抗回路で制限。炉結晶片の接続を直列から並列に変更。試作用プロトタイプ2を提案。」


タクミが設計図を書き直し、抵抗回路を追加。カザンに新たな結晶片を頼み、セシルが再調整した結晶を嵌める。プラズマ噴射用の微細なノズルを溶接し、炉の火花が作業台に跳ねる。2度目の試行でガイストを放すと、球体がふわりと浮かぶが、すぐにガクンと落ちる。熔鉄の床にカツンと音が響く。

「過負荷回避成功だが、推力不足。結晶片の質量を12gに増加を推奨」とガイストが報告。

タクミが歯を食いしばる。

「もう一歩だ。カザン、12gで頼む!」

カザンが熔雷槌を振り、火花を散らして結晶を仕上げる。タクミがノズルを微調整し、3度目の試行。ガイストを放すと、球体がふわりと浮かび、プラズマ火花がチリチリと弾ける。肩の周りを安定して漂い、風音が響く。

「ガイスト・フローター、起動成功。エネルギー効率89%、浮遊安定」とガイストが報告。


次にタクミがマグナ・ヴェストを手に取る。熔嵐合金製の軽量装甲が鈍く光る胸部に、熔鉄団の予備パーツから切り出したホルダーを溶接。磁力コイルを埋め込み、ガイストがカチッと嵌まる。ヴェストを着ると、ガイストが胸ホルダーで安定し、タクミの動きに追従する。

「ヴェスト装着完了。次元干渉観測精度15%向上」とガイストが報告。

タクミが拳を握り、満足げに笑う。

「やったぜ…これで戦闘が一段と楽になる。」


リアが目を輝かせ、跳ねるように近づく。

「おおーっ!タクミ、やるじゃん!それカッコいいね!」

ジンが竪琴を軽く弾き、穏やかに微笑む。

「詩に歌う価値ありだな。技術と絆の結晶だ。」

バルドが嵐の双剣を膝に置いたまま、低く笑う。

「実戦で試すのが楽しみだな。」

カザンが熔雷槌を肩に担ぎ、豪快に言う。

「次はお前が俺の槌を浮かせてみろよ!」

アジトに笑い声が響き、熔鉄炉の火が一瞬強く揺らめく。


だが、喜びも束の間。セリカが地図を叩き直し、鋭い声で続ける。

「装置の出力、3万ニュートン超えだ。塔の上から地下に魔脈を這わせて、次元の裂け目を広げてる。影の使者が貴族の残党以上の何かを持ってることがハッキリしたよ。」

タクミがヴェストのホルダーを軽く叩き、ガイストに問う。

「マグナとの差はどれくらいだ?」

ガイストが漂いながら答える。

「マグナ・ストライダー、推力2万1000ニュートン。装置の直撃を受けた場合、装甲破壊確率88%。正面衝突は回避必須。」

リアが拳を握り、立ち上がる。

「なら叩き潰すしかないでしょ!塔ごとぶっ壊せばいいじゃん!」

バルドが低く制す。

「出力差を考えろ。9000ニュートン以上だぞ。無策じゃ全滅だ。」


カザンが熔雷槌をテーブルにドンと置き、目を光らせる。

「イグニスが疼いてる。あの装置、火神の炉と何か関係ある気がするんだ。結晶の紋様が似てるってセリカも言ってたろ?」

セシルが穏やかに手を挙げ、熔鉄炉の熱風に髪が揺れる。

「ウィンドティアーズで感じたけど、鉄都の魔脈歪みは日に日に強くなってる。塔の装置が地下で何かを引き起こしてるなら、急がないとまずいよ。」

ジンが竪琴の弦を軽く爪弾き、静かに呟く。

「アクエリアも水脈の乱れを感じてる。詩にするには不穏すぎる音だ。」


タクミがガイストに目を向け、鋭く聞く。

「解析で弱点は分かるか?」

「結晶の波形に乱れ検出。干渉弾で出力低下の可能性75%。ただし、塔の上と地下の魔脈接続部が鍵。現地確認が必要。」

タクミが一瞬目を閉じ、炉の熱が頬を焼く中、全員の意見を頭で整理する。立ち上がり、静かに言う。

「マグナ単体じゃ歯が立たない。俺が陽動で塔の装置を引きつける。リアとバルドでエネルギーを乱し、セリカが結晶を仕留める。カザンとジンは援護、影脈会は地下の敵を抑えてくれ。干渉弾は俺がガンランチャーに仕込む。準備に半日は欲しい。」


セリカが風影の爪を軽く鳴らし、鋭く頷く。

「了解。塔の結晶は私が潰すよ。」

リアが拳を振り上げ、気合いを入れる。

「サンダー・ウェーブで焼き切る!」

バルドが双剣を手に、静かに応じる。

「テラノス・ストームで援護する。」

カザンが熔雷槌を握り、豪快に笑う。

「イグニスで焼き尽くすぜ!」

ジンが竪琴を手に、穏やかに言う。

「アクエリアで流れを整えるよ。」

影脈会のガレンが剣を握り、物陰から進み出る。

「地下は俺たちに任せろ。」


仲間たちが動き出す。タクミがヴェストのホルダーに嵌ったガイストを見つめ、拳を握る。

「次元の裂け目か…古の鍵の在処が分からないと、貴族の動きに追いつけねえ。」

ジンが竪琴を手に、熔鉄炉の火影に照らされながら静かに言う。

「アルテリアには、こんな伝説を歌う歌があるよ。星が古の秘密を語るって…聞いてくれ。」

彼が竪琴の弦を爪弾き始め、穏やかな音色が異音をかき消す。ジンの声が静かに広がり、歌がアジトに響き渡る。


「星の導き、夜を越えて

古の誓いが光を呼ぶ

焔の大地に炎が眠り

砂の荒野に影が踊る

深き森に風が囁き

水の彼方に命が響く

王都の石に雷が刻まれ

星の道が鍵を指す

遥か天空、時の果てに

導きの光が闇を裂く」


歌が続く中、カザンの熔雷槌が赤く光り、イグニスの炎が揺らめく。バルドの双剣が震え、テラノスの岩が蠢く。セシルの指輪が輝き、エアリス・ガーディアンの風が渦を巻く。リアのエーテル・ノヴァが雷を帯び、トーラスが咆哮を上げる。ジンの竪琴からアクエリアの水が滴り、光が溢れる。


リアが目を丸くし、叫ぶ。

「何!?みんなの精霊が勝手に反応してる!」

セリカが風影の爪を握り、鋭く呟く。

「ジンの歌…魔脈に干渉してるのか?」

タクミがガイストを手に持ち上げる。

「ガイスト、解析しろ!何が起きてる?」

「魔脈ライン活性化を確認。5体の召喚精霊の共鳴検出。未知のエネルギー流入、エラー…解析不能!」


熔鉄団アジトの天井が震え、炉の炎が一際高く舞い上がる。5体の精霊が一斉に姿を現し、それぞれの光が交錯。イグニスの炎、テラノスの岩、エアリス・ガーディアンの風、トーラスの雷、アクエリアの水が渦を巻き、天に光の柱が立つ。柱が割れ、星屑のような輝きの中から白銀のローブを纏った老人が降臨する。頭上に星の冠が浮かび、手には光の杖が握られている。


タクミが目を細め、ヴェストを握り締める。

「誰だ…お前?」

老人が杖を掲げ、低く響く声で告げる。

「我は星詠みの賢者、召喚精霊の創造主なり。汝らが5つの神殿を制し、我が子らを手にせしこと、我が現れる条件なり。」


セリカがタクミの肩に手を置き、小声で呟く。

「ねえ、タクミ。この人、召喚精霊を作っちゃうくらい昔の人なら、古の鍵のこと知らないかな?」

タクミが目を鋭くし、賢者を見据える。

「確かに…試してみるか。」

タクミが一歩進み出て、落ち着いた声で聞く。

「俺たちは古の鍵を探してるんだが、そのことについて何か知らないか?」


賢者が静かに目を閉じ、杖を振る。

「古の鍵は星々の囁きに隠されしもの。汝らが我が子らと共に夜空を詠めば、最初の鍵の眠る地が示されん。鍵を手に入れ、我が子にかざす時、次の星が輝きを増す。」

リアが跳ね上がり、エーテル・ノヴァを掲げる。

「夜空を詠む!?最初の鍵ってどういうこと!?」

賢者が一行を見渡し、試練を課す。

「精霊との絆を証明せよ。汝らの心が一つなら、星の光が道を照らす。」

光の渦が一行を包み、各々の前に幻影が現れる。タクミにはゼノスの嘲笑、セシルには裏切りの記憶、カザンには熔鉄団の崩壊が。仲間が苦しむ中、タクミが叫ぶ。

「俺たちは家族だ!一人じゃない!」

全員が精霊の手を取り、幻影を打ち砕く。光が収まり、賢者が杖を天に掲げる。


アジトの外、星空に1つの光点が浮かび、星座の最初の線が描かれる。ガイストが即座に解析する。

「星座座標検出。焔嵐大陸火口。古の鍵の位置と一致。」

賢者が最後に告げる。

「星の導きに従い、鍵を手にせよ。一つを得るごとに、次の道が開かれん。それが我が子らを手にせし者の使命なり。」

光と共に賢者が消え、星座の最初の光が夜空に刻まれる。


タクミが仲間を見回し、拳を握る。

「鍵の在処が分かった。まずは焔嵐大陸火口だ。貴族より先に鍵を手に入れよう!」

セリカが地図に焔嵐大陸火口を丸で囲む。

「貴族たちが鍵を集めようと探してるなら、きっと次元の裂け目との繋がりも鍵を追う中で分かるよ。」

カザンが熔雷槌を肩に担ぎ、豪快に笑う。

「イグニスと一緒に鍵をぶんどってやるぜ!」

リアが目を輝かせ、エーテル・ノヴァを振り上げる。

「星が教えてくれたんだ!行くしかないよね!」


熔鉄炉の火が一際強く燃え上がり、タクミ一行の決意を映し出す。星空の下、焔嵐大陸の夜が深まる。その頃、アジトから離れた丘の上では、黒いローブを纏った貴族の男が星空を見上げ、薄く笑う。

「ついに座標がわかったぞ。ドルザード様に報告を急げ。」

彼が馬に飛び乗り、夜の闇へと消える。焔嵐大陸の風が冷たく吹き抜け、新たな旅と策略の足音が響き始める。



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