第106話「熔鉄の街の休息(前編)」
朝日が熔鉄の街を照らし、交易の喧騒が再び響き始めた。一行は宿屋「熔鉄の灯」で目を覚ました。戦いの疲れを癒し、次の戦いに向けた準備がてら各々街を楽しむことにした。宿の窓から見える赤茶けた石畳の通りには、熔鉄の煙が漂い、商人たちの声がこだまする。広場に集まった仲間たちは、それぞれの興味に合わせて散らばり、旅の緊張を解きほぐす時間を過ごす。
タクミ:
タクミは街の外れにあるジャンク屋に足を踏み入れた。熔鉄の煙が漂う店先に、錆びた歯車、壊れた魔脈装置、熔魔鋼の欠片が雑然と積まれている。手に持つ球体のAIコア――ガイスト――が微かに青い光を放ち、彼の肩越しに店内を見渡す。店主の老人が「珍しい部品だぞ」と自慢げに言うと、タクミは目を輝かせて棚を物色し始めた。
「このパイプ…現代じゃ見たことねえ構造だ。魔脈炉の冷却に流用できそうだな」
熔魔鋼の破片を手に取り、指で叩いて感触を確かめる。頭の中でマグナ・ストライダーの改良案が膨らみ、ガイストが冷静に言う。
「その発想は合理的だ、タクミ。冷却効率が上がれば、次元獣との長期戦にも耐えられる可能性がある。これで次元獣も少しは怖くないだろ?」
タクミが苦笑しながら応じる。
「怖くねえって言うか、もっと強くしたいだけだよ。この世界の技術、俺の知識と合わせたらどこまでいけるか試したい」
店主が「熔鉄の街じゃ珍しい魔脈石もあるぞ」と奥から埃まみれの青い石を持ってくる。タクミはそれを受け取り、風神の眼でじっくり観察。石の表面に走る微細な魔脈紋様が光を反射する。
「これ…バッテリー効率上がるかも。いくらだ?」
値切り交渉の末、安く手に入れ、熔魔鋼の破片と魔脈石を手に満足げに宿への道を歩き出した。
リア:
リアは街の中心にある洋服屋に吸い寄せられた。色鮮やかな布地や魔術的な刺繍が施されたローブが並び、店内は女性客で賑わっている。彼女は上級魔導書を手に持ったまま、棚を吟味し始める。
「この水色のローブ、水属性魔法に合いそうじゃない?」
店主の若い女性が「魔導士向けに魔脈糸で強化してるよ。魔法の流れが良くなる」と言うと、リアは笑顔で試着室へ。鏡の前でローブを羽織り、くるりと回る。布が軽やかに揺れ、刺繍が微かに青く光る。
「これなら詠唱の集中力も上がりそう!」
隣の棚で火属性の赤いスカーフを見つけ、「フレア・インフェルノにもいいかも」と手に取る。店主と魔法の話で盛り上がり、次元獣との戦いの疲れを忘れるひとときを過ごした。店主が「このスカーフ、炎の魔法を少し強くするよ」と言うと、リアは目を輝かせて頷く。
「じゃあ、これもいただくね!」
ローブとスカーフを手に、軽い足取りで店を出た。
バルド:
バルドは街の鍛冶屋に足を運んだ。熔鉄の炉から響く金属音と、剣を打つ職人の姿が彼を引きつける。風嵐の双剣を手に持つ彼は、作業台のそばで職人に声をかけた。
「この剣、もう少し軽くできねえか?」
職人が熔魔鋼のインゴットを見せ、「これなら軽くて丈夫だ。刃も鋭くなる」と答える。バルドは黙って頷き、職人が熔魔鋼を炉で熱し、槌で叩く様子をじっと見つめる。赤熱した金属が形を変えていく姿に、静かな闘志が宿る。
「双剣は速さが命だ。重さが減れば、次元獣の動きにもついていける」
職人が「試してみるか?」と熔魔鋼で作った短剣を渡すと、バルドはそれを手に持って軽く振る。刃が空気を切り裂く鋭い音に満足げな表情を浮かべ、職人と剣の手入れのコツを語り合う。職人が「熔魔鋼は魔脈を少し吸うから、刃持ちもいいぞ」と言うと、バルドは小さく頷く。
「悪くねえな」
熔魔鋼の短剣を手に、静かに鍛冶屋を後にした。
カザン:
カザンは街の酒場に直行した。熔雷槌を壁に立てかけ、豪快に笑いながら熔鉄の街名物の辛口酒を注文。
「次元獣より強烈な酒だぜ!」
酒場の客が「熔鉄の酒に耐えられるか?」と挑発すると、カザンはグラスを一気に飲み干し、テーブルを叩いて笑う。
「この程度なら朝飯前だ!」
腕相撲の勝負を申し込まれ、屈強な熔鉄工たちと次々に競う。最初の相手を瞬時に倒し、二杯目の酒を注文。
「次はお前だ!負けたら奢りな!」
酒場の喧騒が一層高まり、カザンは勝つたびに大声で笑い、旅の緊張を酒と力で吹き飛ばす。熔鉄工の一人が「次はお前が負ける番だ!」と挑むと、カザンはグラスを置いて立ち上がり、豪快に腕を鳴らす。
「やってみろよ!俺に勝とうなんざ百年早えぜ!」
最後には酒場の常連たちと肩を組み、陽気に歌いながら過ごした。




