第101話「旅立ちの決意と魔脈の道」
ヴェールウッドの夜は静寂に包まれていた。焚き火の炎がゆらめき、村人たちの笑い声とスープの香りが漂う中、タクミはマグナ・ストライダーのそばに立っていた。魔脈投影結晶に映る機体のデータを見ながら、さっきの戦いが頭を離れない。次元獣「風噬みの蛇」を倒すのに手こずったあの感覚が、タクミの胸に重く引っかかっていた。
「なぁ、みんな」タクミが焚き火を囲む仲間に声をかける。「今日の戦い、ギリギリだったろ。今のマグナじゃ、次元獣1匹に8分もかかる。あの盗賊団を追うにしても、このままじゃヤバいぜ」
ガイストの声がコックピットから響く。砕けた友達口調だが、知的な落ち着きがある。
「フル稼働で1万4000ニュートンだった。次元獣1体に8分、消費率は毎分12%。3体同時に来たら24分でバッテリーが64%を超える。魔脈炉の冷却も間に合わないから、厳しい状況だ。どうする?」
ホログラム制御盤に青い数値が踊り、タクミは頷く。
「現代で言うトラック1台分の力でも足りねえってことだ。なら、マグナを強化する素材集めの旅に出るしかねえ!」
タクミは焚き火の向こうに立つエリナに目を向ける。「エリナ、ヴェールウッドは任せていいか?」
エリナは黒髪をかき上げ、鋭い視線を返しながら小さく笑う。
「お前を崖の下から拾った私を誰だと思っている。あの時みたいに、この村は守ってみせる。行ってこい、タクミ」
その言葉に、タクミの目が一瞬揺れた。崖の下――エリナが仲間たちに語ったのは簡潔な要約だ。実際は、転移直後に鉱山で奴隷としてこき使われ、逃げ出した末に崖から転落。暗闇で動けなくなったところをエリナに救われた。あの記憶が脳裏をよぎり、タクミは小さく呟く。「…エリナにだけは、そのうち話さねえとな」
仲間たちを見回し、タクミは決意を固めた声で続ける。
「魔脈ラインを辿って旅するぞ。昔の神殿、遺跡、祠――魔脈の流れに沿って建ってるはずだ。そこに強化素材がある可能性が高い」
リアが杖を手に立ち上がり、目を輝かせる。「魔脈ラインか…面白そうじゃない、タクミ!」
バルドが双剣を肩に担ぎ、低く唸る。「盗賊どもを追えるなら一石二鳥だ」
セリカが短剣をくるりと回し、猫耳をピクリと動かす。「情報屋の私なら足取り掴めるよ。あいつら、結晶持って逃げたんだから!」
カザンが熔雷槌を地面に叩きつけ、豪快に声を上げる。「素材集めも盗賊狩りも、俺にはお誂え向きだぜ!」
セシルがエアリスウィスパーを握り、穏やかに言う。「どうせまた皆んな無茶するんでしょ?私もついていくよ」
ジンが竪琴を爪弾き、軽い調子で笑う。「仲間の旅に歌がなけりゃ味気ないだろ。俺も行くさ」
タクミがガイストに視線を移す。「魔脈ラインは風神の眼と、お前のパルス・ディテクター・アレイで探せるだろ?」
「もちろんだ、タクミ。PDAの探知範囲は半径500メートルだ。魔脈の流れなら見逃さない」とガイストが穏やかに返す。
タクミは全員を見渡し、力強く頷く。「よし、決まりだ。仲間全員で旅に出るぞ!」
だが、少し考え込む。「ただ…1万4000ニュートンで、マグナの下にカゴつけて全員乗せて飛ぶのは難しいよな?」
ガイストが即座に計算を始める。「少し待ってくれ。カゴと全員で約500キロと見積もると、1万4000ニュートンなら持ち上がるけど、スラスターの維持は5分が限界だ。バッテリーが切れる。魔脈炉の過熱も避けられない。飛ぶのは現実的じゃないな」
タクミが苦笑する。「やっぱ陸路か。まぁ、飛んだら冒険っぽくねえし、歩いて魔脈ラインを辿る方が俺たちらしいだろ」
リアが笑いながら言う。「そうだね。遺跡探索したり、困ってる人を助けたりするのも旅の楽しみでしょ?」
その時、エリナが焚き火に近づき、タクミの肩に軽く手を置く。「お前らが旅立つ前に、一つだけ言っとく。新政府の情報網でも、盗賊団『疾風の爪』の動きが怪しい。あいつら、結晶をどこかに運ぶつもりらしい。気をつけろよ」
タクミが目を細める。「どこかって…魔脈ラインのどこかか?」
エリナが頷く。「可能性はある。結晶の魔脈反応が強い場所が魔脈ラインのどこかにあるのかもしれないな。」
焚き火の炎が一際高く燃え上がり、タクミはマグナ・ストライダーのコックピットに目を向けた。魔脈投影結晶に映る森の奥が、次の目的地を静かに示している。
「じゃあ、明日の朝に出発だ。盗賊を追って、マグナを強化して、次元獣に備える。それが俺たちの道だ」
仲間たちが一斉に頷き、焚き火の周りに新たな決意が響き合った。
だがその夜、タクミは一人でマグナのそばに立ち、投影結晶に映るデータを眺める。ガイストが静かに言う。「なぁ、タクミ。さっきエリナを見て何か思い出しただろう?」
タクミは黙って頷き、ぽつりと呟く。「ああ…崖の下の話だ。あの時、エリナじゃなけりゃ俺は死んでた。いつかちゃんと話さないとな」
ガイストが穏やかに笑う。「タクミらしいよ。そのうち話せばいい。とりあえず、明日の旅に備えて少し休んでおいたほうがいいぞ。」
タクミは小さく笑い、焚き火の明かりが消えるまで仲間たちの声を聞いていた。




