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13:10 ブレイン

 ブレインはもう使われていない教室で静かに人を待っていた。

 時刻は一三時一〇分――

 がらりとドアが開いた。


「おっとブレイン、もう来ていたんだねー」


 陽気でのんびりとした声を発しながら姿を見せたのは同じ鉄の校章を持つブレインの友人サーレスだ。

 ブレインが口を開く。


「俺が呼んだんだ。待たせるわけにはいかない」


「マジメか!」


 笑いながらサーレスが言った。


「いやいや、お前がマジメなのは俺も知っているけどさ。……そのマジメなブレインくんがどーしてまた授業をサボるわけ?」


 サーレスがおかしそうに笑う。

 サーレスの言うとおり今は授業時間中だ。昨日の騒ぎのせいで自習にはなっているが。

 ブレインは今まで一度も授業を抜け出したことはない。


「……人がいないときにお前と話がしたかったからだ、サーレス」


「ほー。それはどうして?」


 にやりとサーレスが笑う。


「あー、お前、まさかの告白タイムか!? 悪いね、ブレイン。お前はいいやつだと思うけど、俺は――」


「昨日の夜のことだ」


 ブレインはサーレスの軽口を無視した。

 つれない様子のブレインにサーレスが笑みを向ける。


「おや、マジなのね。悪かったよ、話を訊かせてくれ」


「俺はお前を疑っている」


「は? 疑う? 疑うって何を?」


「昨日の騒ぎ――お前が起こしたのでは?」


「昨日の騒ぎって、あのアンデッド騒動?」


 びっくりした様子でサーレスが両目を見開く。

 そして、あはははははは! と大声で笑った。ひとしきり笑ってからこう続ける。


「おいおいおい! ブレイン! 俺は一介の学生だぜ? あんな量のアンデッド召喚なんてできるわけないだろ? 首席のお前にできるのか?」


「できないな」


「だろ? じゃあ、お前より成績の悪い俺にできるはずがない!」


「……どうだろうな……」


 ブレインは短く応じて首を振った。


「俺はお前が本気を出していると思っていない」


「それは買いかぶりすぎだって!」


 サーレスが一笑に付す。


「そもそも、俺がやったっていう確かな証拠はあるのかい?」


「……昨日の夜、俺はアンデッドがわき出る魔術陣を打ち壊した。そのとき、魔術陣に描かれた文字のいくつかに癖があった」


 ブレインはサーレスをじっと見て続けた。


「その癖はサーレス、俺の知るお前の癖と一緒だったよ」


「へー」


 サーレスはへらへらとした表情を崩さない。


「面白いけど――さすがにそれだけで疑われるのは悲しいなー。たまたまじゃないの?」


「それだけじゃない。魔術陣を破壊した後、俺は校舎で黒ずくめの人物に襲われたんだ」


「ほう? それで?」


「そのとき、そいつと戦ったんだが、そのときの動きがお前と酷似していたよ」


 この結論にブレインは自信があった。

 入学後、ブレインは自主訓練としてサーレスとよく組み手をしていた。それはブレインの己を高める――その意志によるものだ。

 お互いに何度もぶつけあった体術。

 サーレスのこぶしの重さも蹴りの起動もブレインは知っている。


「……サーレス、お前は昨晩、何をしていた?」


「部屋で寝ていたよ。頭が痛いって返事しただろ? ほら、アリバイ成立ってね!」


「悪いが、そんなものは証拠にならない」


 ブレインは首を振る。


「ドアのノックに反応してお前の言葉を再生する魔術を使えばいいからな」


「そりゃないよー。そんなこと言い出したら反論できないじゃん!」


「昨日の夜――俺たち鉄の校章持ち三人には出動要請が出た。それは知っているな?」


「お前が教えてくれたからな、ブレイン」


 サーレスの言葉にブレインはうなずいた。

 昨晩、アルベルトとともに寮に戻ったブレインはサーレスの部屋を訪れてその話をしている。


「出動要請で俺がお前に『一緒に行こう』と声を掛けたとき、どうして部屋から顔を見せてくれなかった? 友人の俺が声を掛けたのに」


「悪いね。頭が痛すぎてそんな余裕がなかったのよ。寝ているうちに少しマシになったけど」


「……そうか。やはりお前は勘違いしていたな……」


 ブレインはため息をつきながらそうつぶやく。

 今の言葉でサーレスの嘘が確定した。


「出動要請でお前に声を掛けたのは俺じゃない。アルベルトとフィルブス先生だ」


 今までへらへらしていたサーレスの表情が初めて揺らぐ。ブレインは昨晩のやりとりからサーレスの勘違いを疑っていた。


 ――あのとき声を掛けてくれたのはそれかよ! すまんな、あんまり話を訊けなくて!


 そう言ってブレインに頭を下げた。

 ブレインに。

 あれはブレインが声を掛けたと思っている人間の行動だ。だから、ブレインはここで鎌をかけたのだ。


「どういうことだ、サーレス?」


「いやー、あっはっはっは……」


 困ったように笑った後――

 サーレスは両手をがばりと開いてこう叫んだ。


「ふははははははははは! よくぞ気づいたな、名探偵ブレイン! このサーレスの野望に立ち塞がるのはやはりお前か!」


「キャプチャネット!」


 ブレインは腰から小杖を引き抜き、サーレスへと差し向けた。

 同時、サーレスがいた場所を中心に光の網が展開、まるでゴムが縮むかのような速度で中央へと収束する。

 だが、網は何者も捕らえられなかった。


「だああああああああああ! 怖い! 怖いよ、ブレイン! いきなり魔術をぶっ放すなんて!」


 すでにサーレスは後ろへと下がっていたのだ。

 ブレインは首を傾げる。


「自白しただろ……?」


「いやいやいや! 冗談! 冗談ですから! ノーカンで!」


 いつもの様子でサーレスがまくし立てる。


「あのね、ブレインくん。確かに俺は勘違いしていました。お前が呼びかけたと勘違いしていた。だけどさ、仕方がないだろ? 俺は頭が痛くて寝てたんだ。誰の声とかいちいち気にしていないよ」


「なるほど」


「納得してくれた?」


「いや、まだだ」


「ええええ!? まだあるの!?」


「服を脱いでくれ」


「は?」


 いきなりのブレインの言葉にサーレスが反応した。


「なんでこの話の展開でいきなりそれなんだよ! あれか、やっぱり告白か! 悪いけど、俺は――」


「ごまかそうとするな。俺が見たいのはお前の左脇腹だ」


 ブレインは鋭い視線をサーレスに向けた。

 サーレスの顔からようやく笑みが消える。


「……さあ? 俺の左脇腹に何かあるの?」


「黒ずくめの男に襲われたとき――俺は相手の左脇腹を殴った。あの手応えならば痕跡が残っているはずだ」


「……で、そいつが俺の脇腹にあると」


「そうだ」


 ブレインはうなずいて続けた。


「己の潔白を示すためだ。協力してもらおうか?」


「悪いけど、それはできないなあ……」


 そろりとサーレスが姿勢を変えた。今までの棒立ちとは違う――どんな状況にも即応できる――

 あらゆるものを警戒する姿勢に。

 そんな様子を暗い気持ちでブレインは見つめていた。

 サーレスとは入学後それなりに長い時間を過ごしていた。

 どうやらその友情もここで終わるらしい。


「キャプチャネット!」


 再びの魔術――だが、結果は同じだった。

 あっという間にサーレスは術を回避する。そして、


「マジックアロー、マジックアロー!」


 右手を差し向けて二発の矢を放った。

 ブレインもまた回避、背後から窓ガラスの割れる音がした。そのブレインへとサーレスが一気に間合いを詰める。


「――!」


 ブレインはサーレスの攻撃を打ち払った。

 サーレスの体術は――悲しいくらいに昨日と同じだった。繰り出すこぶしの重さも蹴りの軌道も何もかもが同じだ。

 ブレインの目を見たサーレスが笑う。


「はははは、昨日の復習だな!」


 ブレインは小さく息を呑む。

 昨日の復習。

 もはや隠す意図もない、ということだ。


「……お前!」


「正解だよ、正解! さすがはブレイン先生――!」


 にやりとサーレスが笑う。


「俺が――闇が見込んだ男だよ!」


 ……闇……?

 ブレインの頭に謎の単語が引っかかる。その一瞬の隙をつき、サーレスの膝蹴りがブレインに突き刺さった。


「うぐおっ!?」


 ブレインは吹っ飛び、窓際まで後退する。

 サーレスがすかさず距離を詰めてブレインの胸元を窓の外へと押し出した。

 窓はさっきのマジックアローで割れていたのだろう、遮るものなくブレインの上半身が押し出される。下辺にこびりついたガラスの破片がブレインの背中に刺さった。


「……くっ……!」


 痛みで顔をしかめるブレインを、サーレスが上からのぞき見る。


「ふっふっふ。さて、親友のブレインくん。俺からのプレゼントだ」


 サーレスの右手の人差し指に黒い炎が灯った。


「俺と契約して闇の戦士になってよ?」



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shoei
― 新着の感想 ―
[良い点] サーレスが闇の生徒だった。 一番怪しくないのが犯人というのは推理ものの定石ですね。 ファンタジーと推理ものの見事な融合。 [一言] サーレスの台詞で魔法少女が出てきましたが・・・ ・・・…
[一言] アルベルト『交わした約束忘れないぞ、押し寄せた闇、振り払って進むぞ。』早く来てくれアルベルトォォォォ!! 書いててCRA◯ISの某曲がそのまんまアルベルトを表しているようで愕然としましたわ…
[一言] なんか白っぽいアレが思い出されましたよ、ええ(笑) マジックアローって見ると「お?主人公ここで登場か?!」 と勝手に思ってしまいました
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