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13:10(上) ★書籍情報あり

書籍の情報について公開許可が出ました。『あとがき』で紹介しています。

 大貴族キルリアが俺に声を掛けたタイミング。

 その瞬間に――


「割り込んでしまって申し訳ありません! ア、アルベルトさん! 少しお時間をいただけないでしょうか!?」


 平民ローラの声が飛び込んできた。

 平民が貴族の間に割って入る。それはとんでもなく無礼で――非常識なこと。

 もちろん、それをローラは知っている。

 知っているからこそ、その顔には緊張がありありと浮かんでいた。


 逆に言えば――

 それでもなお、ローラは俺の名を呼んだのだ。


 貴族の学生たちが白けた視線をローラに向ける。口元にはあざけりのような笑みが浮かんでいた。

 俺が応えようとした矢先――

 代表者であるキルリアが俺の顔の前に手を掲げた。


「すまないが、アルベルトは貴族である俺たちと一緒にいる。平民の君に使う時間は一秒たりともない」


 どっと笑う貴族たち。

 キルリアはにこやかな笑みを浮かべて続けた。


「お引き取り願おうか?」


「う――」


 ローラの顔が悲しげにゆがむ。

 俺はキルリアの手を押しのけた。そして、立ち上がる。


「キルリア」


「ん?」


 驚いたような目でキルリアが俺を見た。

 俺はキルリアにこう続ける。


「少し黙ってくれ」


 そして、じっとキルリアの顔を見た。


「誰の話を聞くかは俺が決める――貴族かどうかは重要じゃない」


 その言葉は場の空気を一瞬で凍り付かせる。

 この場の最高家格――キルリア・グランドールに吐いていい言葉ではない。


「そんな言い方は貴族らしくないぞ!」


「アルベルト、謝りなさい……!」


「公爵家のキルリアより平民を優先させるだって!?」


 他の貴族たちが口々に俺への非難を吐き出す。

 そんなことで俺の意志はみじんも揺らがない。

 ローラだって重々承知しているのだ。平民が貴族の邪魔をしてはいけないことなど。

 それでもローラは俺の名を呼んだ。

 それはとてつもなく重いことだ――俺にそんなローラの決心を無視するという選択肢はない。


「君の気持ちを尊重するよ、アルベルト」


 キルリアが俺の顔を見て言った。


「君の客人だ。好きにするといい。俺としては貴族として言うべきことを言っただけ――それが君の望みだと思ってね」


「……悪いが、俺はそんなことを望んでいない」


 俺はそう応えるとローラとともに教室を出た。

 校舎の外にあるベンチに向かって移動していると、隣のローラが慌てた声を出す。


「す、すいません! ご迷惑だとは思ったんですけど! どうしてもアルベルトさんに相談したいことがあって――!」


「大丈夫だから」


 俺はローラにうなずいて返した。

 さっきの対応について本当にひとつの後悔もなかった。完璧な選択だったと思っている。

 ローラが助けを求めているのだ。

 悩むはずも――悔いもあろうはずがない。


 俺たちは校舎の外へと出た。ここらへんも昨夜アンデッドが闊歩していたが、今ではそれが信じられないくらいに『普通』だ。

 俺たちは秋の日差しが差す校庭を歩きベンチに腰かけた。

 こうやってローラと並んで座るのはとても久しぶりだった。心が軽くなるのを感じる。

 ローラも少し照れているようだった。


「なんだかこうやって二人でいるのは久しぶりですね」


「そうだな」


 昨日の晩にも会っているが、あのときはフィルブスやフーリンがいたからな……。


「それでアルベルトさんに相談したいことなんですけど――」


 緩い空気を引き締めるかのように、ローラが低い声を発した。


「リズさんのことです」


「リズ? 昨日の夜、校舎に倒れていた?」


 俺の言葉にローラがうなずいた。


「昨日、わたしがあの教室にいたのはリズさんを追いかけていたからなんです」


「そうなんだ」


 そう言えば、俺たちはローラが図書室から逃げてきたと思い込んでいたのでブレインのように細かく話を訊かなかった。


「……リズのいた教室とは違う場所にいたと思うが?」


「リズさんを見失ったのとデュラハンに追いかけられて――あそこに逃げ込んだんです」


 それでか――ローラの救助が終わって階段を降りていたとき、わざわざローラが階下の廊下をのぞいていたのは。

 リズがいないか確認していたのだろう。

 ローラが話を続ける。


「それでですね……実はリズさんの話している内容がわたしの記憶と違うところがあって――」


「違うところ?」


「リズさんは『誰とも会わなかった』とフィルブス先生に話していましたけど、わたしと会っています。距離はありましたけど、廊下を歩くわたしと階段を上るリズさん――目があいましたから」


「……ローラのことを知らなかったとか?」


 前にローラはクラスメイト全員の顔と名前を覚えていると聞いたことがあるが、リズがそうとは限らない。

 アンデッドが徘徊する薄暗い校舎だ。見間違いがあってもおかしくはない。


「それはないと思います」


 ローラは首を振った。


「二学期に入ってからリズさんとよくお話ししているんです。わたしを見間違えるのはないと思っています」


「そうか」


 ……ん?

 そこで俺ははっとなった。


「話の腰を折って悪いがローラ……そのリズという子と『仲良し』なのか?」


 俺の突然の問いにローラは身体をびくりと振るわせた。


「は、はい!」


「そうか……よかったじゃないか」


 俺はうんうんとうなずいた。俺の知らない間にどうやらローラはローラで人間関係を作っていたらしい。

 ローラに同い年の話せる知り合いが。


「そうですね」


 少し照れたように笑ったが、すぐローラは悲しそうな顔をした。


「でも、そのリズさんを疑っているので胸が痛いです……」


 ……ローラの言い分が正しいのなら、確かにリズの行動は変だ。

 あの状況で知り合いに出会っていれば合流するのが普通だろう。

 それを指摘されないために『誰とも会っていない』と応えたのだろうか。


「それとアンデッドから逃げていた――という話も気になって。わたしがリズさんを見たときはそんな様子ではなくて。ただ歩いていた感じなんです」


 ……なるほど……。

 出会った知り合いを無視して先へと進み、アンデッドからも逃げている様子もない。

 きっとローラは危惧しているのだろう――


「リズは昨日の騒ぎと何か関係がある。そう思っているのかい?」


 俺の言葉にローラは神妙な表情でうなずいた。


「……はい」


 辛そうな顔でローラがそう言った。

 心優しいローラには嫌な想像なのだろう。だが、気がついてしまった以上、見過ごすわけにもいかない。


「……ローラ、俺に何をして欲しい?」


「リズさんに話を聞きたいと思っています。……それで、その、アルベルトさんにも立ち会って欲しくて」


「任せてくれ」


 俺は力強くうなずいた。


「ありがとうございます!」


 ほっとしたような表情でローラが頭を下げた。


「今日の『一三時すぎ』にリズさんを連れて屋上に向かいます。授業時間中ですけど、誰にも聞かれたくない話なので……」


「わかった」


 話は終わった。

 俺が立ち上がろうとすると――


「ああ、あの、あの!」


 ローラが慌てた声を上げる。


「どうしたんだ?」


「せっかくなので、少しお話ししませんか? 最近、あんまりお話していないので……」


 ローラがそんなことを言う。

 二学期に入ってからローラとは雑談をしていない。さっきの会話も情報交換に属する会話だろう。

 ローラと雑談する。

 悪くない考えだと思った。


「そうだな。話そう」


 俺が座り直すと、ローラが嬉しそうな様子でうなずいた。

 俺たちは来る途中で買ったパンを食べながら楽しく会話をした。

 それは本当に楽しくて――

 俺たちは時間を忘れて話し込んだ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 雑談が終わった後、俺たちは教室へと向かった。

 そのとき――


「アルベルト、やっと見つけた」


 そんなことを言いながら男子生徒が近付いてくる。

 ブレインだ。


「すまないが、少し時間をもらえないか?」


 そう言いつつ、ちらりと横のローラに目を向ける。

 キルリアのような傲慢さではなく、ローラへの気遣いが感じられる仕草だった。


「……わかった。ローラ、すまないが――」


「はい、大丈夫です! わたしの用は終わっていますから!」


 そう言うとローラはすたすたと先に教室に戻っていった。

 ブレインが俺に頭を下げる。


「すまないな、アルベルト」


「大丈夫だ。それで?」


「ああ――」


 ブレインはうなずいてこう続けた。


「今日の『一三時すぎ』なんだが……少し付きあってくれないか?」


水・日更新です! と言いつつ、今日は土曜日ですね。スライドしたので明日はお休みとなります。


【告知】書籍版『マジックアロー』の情報です。


Amazonで公開されたため、こちらでも告知いたします(『Amazon マジックアロー』でググると出てきます)。


1.発売日


12月28日となります。


冬休みのお供に!


2.発刊レーベル


なろう作品をよく書籍化されている


・『双葉社』さま

・モンスター文庫


となります。大判ではなく『文庫』です。お財布に優しいですね。


正式な書籍タイトルは『初級魔術マジックアローを極限まで鍛えたら』となります。


3.収録部分


『続・父と子(下)』までとなります。


ちょうどランキングに打ち上がって「わー!」ってみんなが盛り上がった部分までですね。


マジックアローの大きな区切り目は間違いなく『続・父と子(下)』なので、そこまでで一冊に収まっているなら喜んでくれる人が多いかなーと思ってそうしました。


4.イラストレーター


以下の方です。


・『マシマサキ』さま


参考イラストは『Pixiv マシマサキ』さまでググってご確認ください。


何冊かライトノベルの絵を担当されていて、どれも超絶美麗! な表紙となっております。


もちろん、マジックアローの表紙も超絶美麗!


私はすでに表紙を見ていますが、ふわああああああああ(気絶)みたいな感じになりました。ぜひ公開日をお待ちください。見た瞬間、ふわああああああああ(気絶)ってなりますから(笑)


お楽しみに!


5.キャラクターのデザインイメージ


以下が描いていただいた『キャラクターのデザインイメージ』となります。


挿絵(By みてみん)


初期の頃のイメージ段階の資料なので、発売時には少しアレンジされているかもしれない点はご了承ください。


学生服が魔術師+軍服みたいでカッコいいですね。私にこんな小粋な素敵デザインが指定できるはずもなく、全て100%マシマサキさまのセンスです。すごいですねー。


アルベルトの雰囲気もローラのかわいさも申し分なく表現されていて素敵です!


さすがプロの仕事ですねー。以降、作品を読むときは彼らの顔をご想像いただければと!






第一報としては上記のとおりです。続報がありましたら、またお知らせします。


購入を検討していただけると嬉しいです!


Amazonにページができると、本当に売られるんだな! という感じがしますね(笑)ここまで来たのだなーと。応援していただいた方々、本当にありがとうございます!


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コミック版マジックアロー、発売中です(2021/08)!
以下の画像をクリック->[立ち読み]で少し読めます。

shoei
― 新着の感想 ―
[一言] (*ゝω・*)つ★★★★★ 書籍化おめでとうございます。
[一言] いやーホント大判は優しく無いですからね(笑) 今からワクワクですね!
[良い点] 書籍化おめでとうございます。楽しみにしています。 [一言] イラスト、とても綺麗ですね。アルベルトがちょっとくたびれたおじさん、だと思っていたので、こんなにカッコいいのかとイメージがかわり…
感想一覧
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