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襲来、不死者の軍

 フーリンたちと別れた後、俺は学院の寮部屋に戻った。

 あとは寝るだけとなった夜遅く――何か異様な音が外から聞こえてくることに気がついた。


 異様な音?

 いや、人の声も混じっている。


 これは何だろうか……。


 俺が真っ黒な窓をじっと眺めていると――

 ドアの向こう側から大きな声が響いた。


『アルベルト! 起きているか、アルベルト!』


 さっきまで一緒にいたフィルブスの声だった。

 声に続いてドンドンドンと激しいノック音が響く。


「何ですか、フィルブス先生?」


『入るぞ!』


 ドアが開いてフィルブスが姿を見せた。

 その顔は厳しいものだった。


「どうしたんですか?」


「学院にトラブル発生だ。悪いが力を貸して欲しい」


「構いませんが――トラブル?」


「大量のアンデッドが学内を徘徊している」


「……どうして?」


「わからん。だが、とにかく排除だ。スケルトンやゾンビのような低級ばかりだが数が数だ。腕の立つやつの手を借りたい」


「わかりました」


 攻撃魔術――というかマジックアローには俺も多少なりと自信がある。役に立てることがあるだろう。


「俺以外にも誰か誘うんですか?」


「一年生だとお前の他にブレインとサーレスだ」


 一年生のうち鉄の校章持ち三人か。

 三年生は全員が鉄の校章持ちだが――ブレインやサーレスとは重みが違う。三年生は『通常の成績』で与えられたものだが、二人のそれは圧倒的な能力で勝ち得たものだ。


「そうですか。じゃあ、ブレインを誘いにいきますか」


 この寮では平民用と貴族用にわかれている。もともと俺は平民フロアで暮らしていたが、貴族の出自がバレたので貴族フロアへと移動することになった。俺は別にそのままでもよかったのだが……。

 ブレインは貴族なので平民であるサーレスの部屋よりここから近い。

 俺がそう言うとフィルブスは渋い顔をした。


「……いや、もう行ったんだが……返事がなかった」


「返事がなかった?」


「ああ。何度も声を掛けたんだがな。部屋の鍵もかかっていた。どこかに出かけているらしい」


「そうなんですか」


 寮には門限がある。寮生はだいたいこの時間には部屋にいるものだが。学内のどこかにいるのだろうか。


「……ブレインのことだ。ひとりで学内をほっつき歩いていても大丈夫だろう。サーレスを誘いにいくぞ」


 急ぎ足で歩いていくフィルブスの後を俺は追いかける。

 心配そうな顔で生徒たちが部屋から顔を覗かせた。


「せ、先生……外で何が起こってるんですか?」


「気にするな! この寮にいれば安全だ! お前たちは自分の身だけを守っていろ!」


 フィルブスが強い調子でそう答えてずんずん進んでいく。

 そして、平民のフロアにあるサーレスの部屋までやってきた。俺と同じように声を掛ける。


「おい、サーレス! いるか! 用があるんだが!」


 どんどんと強い調子でドアを叩く。

 すると、ドアの向こう側から弱々しいサーレスの声が聞こえた。


『ちょっと頭が痛くて~今日は無理~』

「お、おい、マジかよ!? どういう状況だ、サーレス!?」


 フィルブスが慌ててそう言う。

 だが、返事はなかった。

 しん、とした静寂だけがあった。


「……体調が悪いってなら仕方がないか……」


 フィルブスは大げさなため息をつく。


「悪いな、アルベルト。三人ぶん働いてくれ」


 ……なかなか大変だな……。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 その夜、ローラは学院にある図書室で勉強していた。

 寮生であれば休日でも夜でも学院の施設を利用できる。ローラは入学時から夜の図書館で『たびたび』勉強していた。

 その『たびたび』は二学期になって頻度が増えていた。

 理由は――

 厄災の魔女の魔術書を読んだからだ。

 ローラはこの膨大な力を制御できるようになりたいと考えていた。


(力自体は悪くないんだ。大切なのは使い方。厄災の魔女は力を正しく使わなかった。わたしは正しく使うんだ)


 まず最初にローラは厄災の魔女の知識を少しでも増やしたいと思い、関連する本を探した。

 広い学院の図書室中を探しても――

 どこにもなかった。

 それほど不思議な話ではない。

 厄災の魔女に関する情報は王国により強く規制されている。


『厄災の魔女は悪の魔術師。王国に戦いを挑んで敗北した。結果、国土は荒れて回復に時間を要した』


 そのおとぎ話以上の情報は封じられている。

 その名前すらも。

 厄災の魔女の情報を諦めたローラだったが、魔術そのものの勉強に一層打ち込んだ。


 もっと魔力を高めなければならない。

 もっと魔術を制御できなければならない。

 もっと魔術の理解を深めなければならない。

 もっともっと、ずっと。

 厄災の魔女の領域ははるか遠い。ローラは少しでも近付くために寸暇を惜しんで勉強していた。


 そのとき――

 誰かに声を掛けられた。


「――頑張ってるわね、ローラさん」


 顔を上げると、そこにはフーリンが立っている。

 休日夜の図書室――周りに二人以外の人間はいなかった。


「フーリン先生……どうしたんですか? こんな夜に?」


「本を借りに来たのよ」


 そう言って、フーリンは手に持った二冊の本を掲げた。


「わたしも寮生活だからちょくちょく学院の図書館は利用しているのよ。それでローラさんをよく見かけるなーって思ってて」


「……まだまだ全然ですから。少しでも勉強しないと」


「う~~~ん。まじめ! 他の生徒たちに聞かせてあげたい! かわいーねー、ローラさん!」


「いえいえいえいえ……」


 そこでフーリンが話題を変えた。


「ところで、最近アルベルトくんとはどうなの?」


 まさかフーリンからそんな話を振られるとは思っていなかったので、ローラは驚きながら答えた。


「……あまり話せてはいないですね……」


「そうなんだ」


「その、アルベルトさんは今、貴族の方々と時間を過ごすのが必要な時期だと思っていて……」


 何度も自分に言い聞かせた言葉をローラは口にした。

 うんうん、とフーリンがうなずく。


「今日ね、アルベルトくんと話したんだけどね――」


「はい」


「確かにローラさんの言っていることをアルベルトくんも思っているみたいだけど――疲れてはいるみたいね……」


「そうなんですか?」


「ほら、アルベルトくん、あんまり社交的な感じしないでしょ?」


「あ、ああ……」


 フーリンの分析を否定する材料をローラは持っていなかった。


「ちょっとお疲れみたいでね……よかったらローラさんのほうからも突っついてあげてよ。ストレス発散ストレス発散」


「そ、それは――」


 悪くないアイディアだと思ったが。


「でも、わたしなんて平民が話しかけていいんでしょうか……」


「大丈夫よ」


 ふふふ、と笑ってからフーリンが続けた。


「彼はローラさんを無視したりしないから。知ってるでしょ? 彼は社交的ではないけど――いい人なのよ」


 その言葉はすとんとローラのに落ちた。


「……信頼しているんですね、アルベルトさんのこと」


「学生時代からあんまり変わっていないからね、彼は」


 楽しそうにフーリンが笑いをこぼす。


「ローラさんのほうでも困ったことがあったら必ずアルベルトくんに相談するのよ。アルベルトくんは絶ぇぇぇ対に! ローラさんを見捨てないから!」


「はい」


 フーリンの力強い言葉に、ローラは苦笑まじりにうなずいた。

 それからフーリンがこう続ける。


「教師としてどうかと思うんだけど……言っちゃう! ローラさん! 応援しているからね! 頑張ってね!」


「え」


 びっくりしているローラの手をフーリンは、がしっ! と半ば強引に握りしめた。


『何を』応援しているのか。

『何を』頑張ってねなのか。


 フーリンはそれを言わない。

 そして、じゃあね! と言って、つかつかと去っていった。


『何を』――

 もちろん、アルベルトほど鈍感ではないローラは理解している。


(……ななな、何を言うんですか……! フーリン先生!)


 ローラはどきどきした気持ちを隠して再び勉強に打ち込んだ。


(そ、そんなのありませんから! アルベルトさんとは友達で! アルベルトさんは大貴族で!)


 勉強に打ち込んだ。

 打ち込もうとした。

 打ち込めなかった。

 集中力が切れたことを自覚したローラは席を立った。本を戻して図書館を後にする。


(フ、フフ、フーリン先生が変なことを言うから……!)


 ずいぶんと遅くなってしまった。早く寮に戻らないと。

 誰もいない学院の廊下をローラは歩いていく。廊下は薄暗かったが、あちこちに魔力で自動起動するランプが備え付けられていて、歩くぶんには困らなかった。


 階段を降りようとしたとき――

 ひたり、ひたり。

 階下から妙な音がした。まるで裸足で階段をのぼるような音が。


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shoei
― 新着の感想 ―
[良い点] フーリンはローラの良い相談相手になってくれそうですね。 [一言] ローラが厄災の魔女について調べ始めた・・・・ん~少々危険を感じますが、いずれにせよ逃げられない問題ですね。 ただまぁこれで…
[一言] ローラがピーンチ! アルベルト、早く早く!
[良い点] 物語を神の視点で俯瞰できている、 [気になる点] 筆が走ってる感じがする。 [一言] ここのところいろんな人の話が出てきて、ごちゃごちゃわちゃわちゃ。凡庸な読者(わたし)はついていけなくな…
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